骨折で強豪大進学が破談→元プロの監督と運命の出会い “盗み続ける”恩師のセンス「凄まじいなと」

常葉大の坂本陽斗【写真:安藤隆人】
常葉大の坂本陽斗【写真:安藤隆人】

常葉大の3年生FW坂本陽斗

 屈強なフィジカルを駆使してゴリゴリとゴール前に突進していく姿が印象的だった。東海大学サッカーリーグ1部・第19節、リーグ無敗と首位をひた走る東海学園大とのアウェー戦に挑んだ常葉大の3年生FW坂本陽斗は、180センチのサイズを生かしたボールキープと、左足のキックの精度、ゴールに向かっていく推進力を駆使し、2トップを組む3年生FW向川典伽と共に東海学園大のゴールに迫った。

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 0-0で迎えた38分、ゴール前の混戦からのこぼれ球を坂本が文字通り身体ごとゴールに押し込んだ。「もう気持ちで行きました」と、ボールとともに自身もゴールネットに転がっていく気迫の泥臭いゴール。今季リーグ5点目が決勝弾となり、東海学園大にリーグ初黒星をつけた。

「東海リーグだったら馬力では絶対に負けない自信はあります。あとは動き出す質と量、守備をしっかりやることを意識しています」

 石川県の鵬学園高時代は1年から出番を掴み、2年次は右サイドハーフ、FWとして中心選手として活躍をした。迫力抜群のレフティーストライカーへの注目度は一気に高まり、関東の強豪大学から関心を示されるほどになった。

 しかし、進路を決める重要な3年生で怪我に泣かされ、大きく苦しんだ。6月のインターハイ石川県予選準決勝で足首を骨折するアクシデントに見舞われた。チームも決勝で星稜に敗れてインターハイ出場を逃し、3か月後に復帰するも本調子に戻せないまま、関東への進学の話はなくなった。

 だが、常葉大が欲してくれた。練習に参加をすると自分のサッカー観と合致し、スタイルも高校と似ていることから、「ここなら絶対に成長できると思った」と進学を決意。高校最後の選手権予選は決勝で星稜に1-4の敗戦し、全国には出られなかったが、「大学に入って1、2年でフィジカル、技術、メンタルをすべて伸ばして、3年生を勝負の1年にして、4年でプロを決めるというプラン」を持って静岡にやって来た。

 1、2年は苦労の連続だった。1年目は後期に頭角を現し、インカレ初戦の鹿屋体育大戦(0-1の敗戦)にスタメン出場を果たした。昨年はトップチームから落とされる時期が半年続いたが、リーグの残り数試合でトップに引き上げられ、インカレでは全3試合に出場をした。

 浮き沈みの激しい2年間を経て、3年生になると運命的な出会いを果たした。今年から監督に就任した古橋達弥監督に多くのものを学ぶことになった。

 古橋監督はかつてHonda FC、セレッソ大阪、モンテディオ山形、湘南ベルマーレでプレー。J1通算139試合出場、J2通算107出場、JFL通算252出場し、2005年度にはJリーグベストイレブンを受賞。172センチと小柄ながら、動き出しのタイミングと質、アジリティーと抜群のシュートスキルを生かしてJリーグトップストライカーとなった古橋監督の言葉は、彼にとって刺激的なものだった。

「正直、最初は知らなかったんです。でも、話を聞いていくうちに特にオフ・ザ・ボールの部分は考えているところが深いと感じたんです。それから実際に映像を見るようになったのですが、シンプルに居る場所と走り出すタイミングが凄まじいなと思いました。こんな偉大な人に教えてもらえるのはなかなかないので、盗めるものは最大限盗もうと思って指導を受けています」

 これまでは本能に任せてゴールに迫っている部分が多かった。だが、古橋監督のセカンドストライカーとしてのボールのないところでの動き、スペースメイク、ラインブレイクの準備を映像と生きた言葉で伝えられたことで、よりボールがないところで思考を張り巡らすようになった。

「相手に隠れてから顔を出すとか、動き出すスタート地点とか、飛び込みたい場所から逆算してプレーするなど、本当に細かい部分まで教わりました。守備の意識もより植え付けられました。今、大事にしているのは最近言われて刺さった言葉なんですが、『走っていればこぼれ球は必ずこぼれてくる』ということです。今日のゴールもその言葉を信じて走ったら、自分の前にボールがこぼれて来たし、こういうゴールの積み重ねが自信になって来ています」

 フィジカルとセンス、思考力で相手を崩していく。目標であるプロになるために必要なものを今物凄い勢いで学んでいる。

「プロの世界を見てもFWは外国人選手が多いので、そこにどう食い込んでいけるのか考えてやっています。相手を背負うパワーと技術は磨きながら、背負わなくても突破できる術をもっと磨いて、相手にとって脅威となるFWになりたいです」

 偉大なストライカーのエッセンスを引き継いで、坂本は入学前に描いたプランを具現化すべく、日々に没頭をしている。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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