周りからの指摘に「うるさいな」 チラついた実績…大学でぶち当たった壁「自分の成長が止まってしまう」

常葉大の2年生・後藤礼智「自分で決めてここに来た」
東海大学サッカーリーグ1部・第19節、東海学園大学vs常葉大学の一戦で、1-0の常葉大リードで迎えた70分に、1人のサイドアタッカーが投入された。
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常葉大の2年生MF後藤礼智(ごとう・らいち)は右サイドハーフのポジションに入ると、献身的な守備と強度の高いスプリントからの攻め上がりで、流れをさらにチームに引き寄せた。後藤が投入されてからチームも再び勢いを取り戻し、2ゴールを追加して3-0の完封劇。この勝利で常葉大はリーグ開幕から続いていた東海学園大の無敗記録を18でストップさせた。
「最近はあまり出場機会もなくて、前節も少し出してもらったんですけど、あんまり思ったようなプレーができなかった。なので今日は余計に気合が入りましたし、無敗の首位を相手に久しぶりに手応えとチームの結果を掴むことができて、正直ホッとしています」
1年生だった昨年はハードワークと積極的な仕掛けでチームに勢いを与える存在として、コンスタントに試合に出場をして東海1部リーグ優勝に貢献。インカレも1年生で唯一3試合全てのピッチに立った。
だが、更なる飛躍を誓った今年は開幕戦で途中出場を果たした以降はベンチ外の時間が続いた。前期途中でベンチ復帰するも、出場時間が短かく、出番が来ないこともあった。後期になり名古屋学院大戦と名古屋産業大戦の2試合でスタメン出場を果たしたが、定着までには至らなかった。
「去年はフレッシュさというか、勢いもあったので使ってもらえました。でも、2年生になってフレッシュさだけではいけないし、ガムシャラさ以外に自分の突出した武器を確立しないと試合には出られないと思っています。正直、試合に出られない時期はメンタル的に落ちてしまうこともあったのですが、そういう時期も絶対に必要だし、こういう時こそしっかりと逃げないでやらないといけないと思ってやってきました」
苦しみながらも逃げなかったのは、小学6年生の自分に嘘をつきたくなかったから。静岡県で生まれ育った後藤は、中学進学時に青森山田中学に進む覚悟を固めた。
「小学生の時、静岡は『サッカー王国』と言われていましたが、僕は外の世界を見たかったし、青森山田で高校選手権に出たいという気持ちもあったので、中学から青森に行く決断をしました。最初は合宿みたいな感じでウキウキで行ったんですけど、やっぱりいざ行ってみたら年代別代表の選手や、自分よりレベルが上の選手がゴロゴロいるのが当たり前の世界だったので、それでビビってしまうこともありました。でも、自分で決めてここに来たので、ガムシャラにサッカーに打ち込みました」
必死の努力を重ねた結果、高校3年生でトップのメンバーに入り、高円宮杯プレミアリーグEASTで22試合出場、2ゴールをマーク。2年ぶり4度目のプレミアEAST制覇に貢献すると、サンフレッチェ広島ユースとのプレミアファイナルでも途中出場を果たして4年ぶり3度目の優勝を手にした。
さらに第102回全国高校サッカー選手権大会でも初戦から決勝まで5試合すべてに途中出場をし、1ゴールをマーク。決勝で近江を3-1で下して、全国2冠を達成した。
苦労した6年間。最後の1年間で後藤はこれまでの努力の成果を結果に結びつけた。そして、大学は地元・静岡に帰ってきた。
「最初は関東がいいと思っていたのですが、正木昌宣監督に『一度、常葉大に行ってみたら』と言われて練習参加をさせていただいた時に、凄くいい環境だなと思いました。正直、東海リーグは何も知らなかったし、むしろ若干の偏見はあったのですが、練習参加をした時に青森山田の4つ上の先輩でもあるキム・ヒョンウ(いわきFC)さんがいて、丁寧に接してもらって、『こんな大人な選手がいるんだ』と衝撃を受けて、『自分もこんな人になりたい』と思って決めました」
戻ってきた当初は「プレミア、選手権優勝」の実績がどうしてもちらついてしまった。
「1年の時は日本一の看板を持ち込んでしまって、試合や練習でミスをして指摘をされた時に『うるさいな』と思ってしまうこともありました。でも、それは謙虚さが欠けている証拠だし、日本一が取れたのは仲間のおかげであって自分1人の力じゃない。そんなのを意識していたら自分の成長が止まってしまう。指摘を素直に受け入れて、真摯にやっていかないといけないと思うようになりました」
謙虚さと直向きさを胸に刻みながら、今回の壁にぶち当たった。苦しくて、なかなか乗り越えられないが、何のためにここに来たのか、何のためにこれまでのサッカー人生を歩んできたのかを、大学に入って理解し直せたからこそ、後藤の心は全く折れてはいない。
「青森に行って、今まで当たり前だと思っていたことがそうじゃないと気づかされた。洗濯や掃除もそうだし、挨拶や自分で率先して動くなどは、青森で培うことができた。『甘えていられない』環境で自覚が芽生えて、地元に帰ってきて、先輩たちから多くのものを学んで、さらに人としても成長できている。この試合を大きなきっかけにしていきたいです」
後藤の顔は力強く上がっていた。リーグ戦も残り5試合。逆転優勝とその先にあるインカレに向けて、チームのためにガムシャラさと積み上げてきたドリブル、キレ、ハードワークを駆使して、勝利に導いていく。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。




















