来季のJ内定も「今のままではダメ」 オファー即決で描いたビジョン…理想とする「こいつがいれば」

奈良内定が決まっている常葉大学のGK宮澤樹
東海大学サッカーリーグ1部・第19節、東海学園大学vs常葉大学の上位決戦において、常葉大が3-0の完封勝利を収めて、開幕以来無敗だった東海学園大に初めて土をつけた。「今年のチームは彼がいることが大きい」と常葉大を率いる古橋達弥監督が称賛したのは、来季からJ3・奈良クラブ入りが内定している4年生の守護神・宮澤樹だった。
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184センチのサイズと屈強なフィジカルを持ち、安定したキャッチングとセービングを見せる宮澤は、キャプテンとしても周囲の信頼は厚い。この試合中も常に声を出してチームを鼓舞し続けながら、DFラインへの的確なコーチングで守備に安定感をもたらした。リーグの順位は3位だが、失点数はリーグ最小と堅守を誇るチームのまさに屋台骨となっている。
「キャプテンとして常にチームの『逆の矢印』というのを意識しています。チームの中でちょっと緩い雰囲気だったり、厳しい声がないんだったりしたら、自分が率先して厳しい声かけをする。逆にマイナスな状況だったり、チームの勢い的によくない時だったりはポジティブな声をかけるなど、チームの先頭に立ちながらも常にチームと逆の矢印を持って行動をする。常にチームが自信をつけながらも、調子に乗らないようにしています」
取材をしていてもピッチ上と変わらず、ハキハキとした声でこちらの目をしっかりと見て話してくれる姿に実直なパーソナリティーがうかがえる。なぜそこまで俯瞰して周りを見て、大人の立ち振る舞いができるようになったのかと聞くと、少し考えた後にこう口にした。
「高校まではキャプテンをやるような感じではなかったのですが、大学に入ってから学年のリーダーに任命されてから、『最高学年になってもし、自分がキャプテンになったらどうするべきか』と考えるようになって、先輩・キャプテンの立ち振る舞いを見るようになりました」
もともときちんと自分の意思を持って決断する人間だった。長野県佐久市出身の宮澤は、高校進学時に高校サッカーよりもJクラブユースを希望していた。
「高校サッカーで身につけられる大所帯の中で競争を勝ち抜いていくための精神力よりも、僕は技術面が足りないと思っていたので、Jユースに拘りました」
当時、トップチームがJ1だった松本山雅U-18のセレクションを受けるも落選。だが、すぐにJ3のAC長野パルセイロU-18のセレクションを受けて合格を勝ち取った。進路は県外の強豪大学でプレーすることを望み、当時クラブの強化担当だった朝比奈伸(現・ブラウブリッツ秋田強化部長)のつながりから静岡の大学の紹介を受けた。
「ちょうどコロナ禍だったこともあり、練習参加に行けたのは常葉大だけでした。レベルが高いと思いましたし、『これも何かの縁だ』と思った」と、常葉大への進学を決めた。
そして前述した通り、学年リーダーとしての自覚がより宮澤の人間性に磨きをかけた。
「より人を観察するようになって感じたのは、自分が理想とする上に立つ人は『自分が嫌われてでもチームとして言ってほしいことを言ってくれる人』だなと。『この人にこの言葉を言ってほしいけど、自分は学年が下だから言えない』とか、『レギュラーじゃないから言えない』といういろいろな気持ちを僕が代弁することで、チームに漂うちょっとした違和感を少しずつですが取り除くことができて、いい雰囲気になっていく。それを自分がやれるようになりたいと思うようになりました」
1年の時は新人戦の1試合のみの出場に留まり、2年生も主戦場はIリーグ(セカンドチームのリーグ戦)で、そこでもスタメンを外されることもあった。だが、磨いた人間性とサッカーに取り組む姿勢が3年生になって結実した。
東海1部でコンスタントに出番を掴むと、その年のインカレに正GKとして出場。今年2月のデンソーカップチャレンジサッカーでも東海選抜の正GKとして出場し、この2大会で奈良クラブの目に止まり、練習参加を経て春に正式オファーが届いた。
「プロのレベルの高さを肌で感じたことで、今のままではダメだと思いました。東海大学リーグで圧倒的な存在になれるくらいのレベルで、やっとJ3の試合に出られるくらいの実力になれると思っているので、もっと自分の物差しを上げて、いま目の前のことを必死にやることが来季からのシーズンスタートにつながると思っています」
オファーに即決をした宮澤の目はすでにプロになってからのビジョンが描かれていた。そして残りの大学生活、プロへの思いを聞くと、実に宮澤らしい真っ直ぐな答えが返ってきた。
「チームにおいて『こいつがいれば守れる』という安心感をもっと出せるようになりたいです。そのためには味方との連携だけでなく、普段の自分の言動が重要になってくる。GKは信頼のポジションだと思うので、技術面と人間的な面でも良さが出るGKになりたいです。プロに向けては、奈良クラブはJ3に上がって間もないクラブですし、奈良県に1つしかないJクラブ。これから上がっていくチームだからこそ、そこに対して自分のステップアップもそうですが、どちらかというと奈良クラブと一緒にステップアップができたらそれが一番だと思っているので、ぜひ実現できるように努力したいと思っています」
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。




















