CBなのにFWでスカウト 目標は大先輩の「上田綺世」…1年生ストライカーが設定した世界基準

東京農業大の1年生FW山本葵
「プロになるために大学に行くので、必ず1年から出番を掴んで、チームを勝たせられるストライカーになりたい。絶対にこの悔しさは忘れないようにやっていきたいと思います」
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昨年11月、鹿島学園のエースストライカー・山本葵は選手権茨城県予選決勝で敗れた後に、大粒の涙を流しながらこう誓った。
あれから11か月。関東大学サッカーリーグ2部・第15節の順天堂大vs東京農業大の一戦で、高校の時と同じ9番を背負って、東農大の最前線に君臨する姿があった。
もともと屈強だったフィジカルはさらに大きくなり、迫力満点のスプリントは健在。高校時代から前線からのチェイシングは脅威だったが、この試合は5バックを敷くチームの中で、3トップの真ん中から何度もスプリントを見せて、最終ラインからビルドアップをしようとする順天堂大のDFに襲い掛かった。
剥がされても追いかけ、連続プレスを仕掛ける一方で、攻撃に切り替わった瞬間に得意のポストプレーと裏へのスプリントでボールを引き出して攻撃の起点になる。スプリントの強度、回数、スピードは間違いなく11か月前より上がっていた。
結果は1-3の敗戦となったが、1年生ストライカーの存在感は凄まじかった。
「高校時代よりも前線からの守備は求められるので、それを着実にこなしながらも、攻撃に転じたら得意のシュートまで持ち込めるように強度を出す。もっとそこを突き詰めていかないといけないと思っています」
今年は開幕からベンチ入りを果たすと、関東2部第6節の山梨学院大との一戦では初スタメンで、初ゴールを含む2ゴールをマーク。ここからスタメン出場も多くなるが、ゴールからは遠ざかってしまっている。チームも1勝14敗1分(16試合消化時点)で最下位と苦しんでいる。
「まだ降格が決まったわけではないので、自分が勝たせられるようにならないといけないと思っています」
難しい状況であることは変わらないが、1年生で主軸としてプレーできていることは大きな財産となるのは間違いない。
「上に行けば行くほど、スプリントの強度と質、回数が求められる。今自分がやっていることは絶対に今後に生きると思っています」
山本にはストライカーとしてずっと持ち続けている『基準』がある。鹿島学園の大先輩である日本代表のエースストライカー・上田綺世は彼にとって憧れであり続けると共に、最高のお手本でもある。
中学までCBをやっていたが、屈強なフィジカルとスピードを買われて、鹿島学園にはFWとしてスカウトされた。その際に上田の存在が大きな指標となった。
「鹿島学園のFWに求められるのはポストプレーができて、裏抜けもできて、かつ点が取れる選手。上田選手が完全なる理想像になっているので、イメージしやすかったし、『高校時代はこうだった』と教えてもらえたので、明確な基準を持って取り組むことができました」
高校3年間でストライカーとしての土台を築き、「上田選手も法政大学に入って、大学サッカーでブレイクしてからプロになって、世界に羽ばたいている。だからこそ、僕も大学サッカーで1年から出番を掴んで、より自分を鍛えてプロの世界に行きたいと思った」と、覚悟を持って東農大にやってきた。
いま、上田がフェイエノールトにおいてリーグ8試合で8ゴールと、昨年までの不遇の時間が嘘のようにエースストライカーとして大爆発している姿を見て、より刺激を受けている。
「日本代表のシュート練習の映像を見たときに1人だけシュートの威力もそうだし、インパクトの瞬間の音が全然違う。あの強烈なパンチ力は筋力、タイミングが必要で、上田選手はそれを積み重ねてきたからこそ身に付けられたもの。高校時代に練習に顔を出してくれた時も、動きの質やタイミング、強度も全然違ったし、何よりひたすらボールを蹴っていた。だからこそ、僕も筋トレをやり続け、ひたすらシュートを打ち込んでいくしかないと思っています」
上田の背中ははるか遠くにあるが、同じグラウンドで3年間を過ごし、同じ指導者から叩き込まれてきたことで、不断の努力を積み重ねてきた姿はすぐそこにある。
「相手を引きずっていくくらいのストライカーになりたいし、自分が決断した道を正解にするためにも、チームのために結果を出すことを常に追い求めていきたいです」
伸びしろは十分。9番の重責が山本をより強くしていくー。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

















