J1撃破に貢献も…異なる環境で「正直苦しさはある」 177センチGKが強豪校の”真の守護神”へ

東洋大学の2年生・磐井稜真【写真:安藤隆人】
東洋大学の2年生・磐井稜真【写真:安藤隆人】

東洋大の2年生GK磐井稜真

 天皇杯の大躍進、そして総理大臣杯優勝の立役者の1人となった東洋大の2年生GK磐井稜真は、今、より一歩上に行くための重要な時間を過ごしている。

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 関東大学サッカーリーグ1部・第15節の桐蔭横浜大戦、磐井は桐蔭横浜大のサイドアタックに押し込まれる展開の中でも冷静にポジションを取り、ポケット侵入を許すも即座にコースを切ってシュートブロックをするなど、前半はゴールを与えなかった。

 だが、スコアレスで迎えた後半12分にFW櫻井勇斗に失点を許すと、終了間際の同44分に左クロスからのシュートに反応しセーブするも、こぼれをFW田村陸人に押し込まれ、0-2の敗戦を喫した。

 これで後期開幕から4戦で1敗3分。全ての試合に出場している磐井にとって、到底納得の行く結果ではない。

「もっと1人1人が責任を持ってやらなきゃいけないところをできていなかった。総理大臣杯はチームの雰囲気がずっと良くて、本当に負ける気がしないという雰囲気だった。そこと比べると、難しい状況だと感じています」

 この試合、大きなジェスチャーで主張するシーンが見られた。冷静沈着な磐井が珍しく感情を露わにしたシーンでもあった。

「後半、徐々にチームの運動量が落ちていって、守備が軽くなって来た。1人に対して3枚で行って取れなくて、それが失点につながった部分もあったので、言うべきところは言わないといけないと思って行動しました」

 前期から後期にかけて東洋大は天皇杯、総理大臣杯と強度の高い試合を継続してきた。総理大臣杯は中1日と中2日の連戦をフルに戦い抜いた。当然、他のチームよりも消耗が激しく、疲労度も高い。同時に明確なターゲットチームとなったことによる圧力の変化もある。

 そこはどのチームも壁となって立ちはだかって来た。要するに王者ゆえの苦しみだ。だからこそ、ここをどう打破するのかが問われる。実はこの状況は磐井にとっても大きな正念場となっている。

 磐井は前期、レギュラーではなかった。6月11日の天皇杯2回戦の柏レイソル戦でいきなりスタメンに抜擢されると、2-0の大金星に大きく貢献。この試合から不動のレギュラーになったが、前期のリーグ戦で出場したのは柏戦直後の筑波大戦のみ。リーグでレギュラーを張るのは後期が初の状況だった。

「リーグ戦の経験があまりない中での後期だったので、雰囲気もトーナメントとは違いますし、環境が違う中でのプレーになるので、まずはそこに自分がうまくフィットしていかないといけないという思いはありました。筑波大戦(1-1)を含めて、これまで出場したリーグ戦は1回も勝っていないので、正直苦しさはありますが、自分が崩れたらそれこそ終わり。少しずつ慣れてきた部分もあるので、それを結果につなげないといけないと思っています」

 最後の砦である自分が崩れたら終わり。だからこそ、誰よりも強い気持ちと折れない自分を持たないといけない。それはこれまでもずっと大事にして来た。自分を信じてコツコツと努力を重ねて来た男だ。

「僕はサイズ(177cm)がない分、大きいGKと比べると不利になる。そこを覆す技術や他の能力を磨かないと自分は上には行けないと常に思ってやってきました」

 GKをやっている以上、サイズのことはどこに行っても言われる。それでも、「それは変えられないものだからこそ、変えられるものを見つけてやるしかない。それはずっと大事にしています」と、東京ヴェルディユース時代はビルドアップの技術を徹底して磨き、一発でチャンスを作るキックも磨いた。その中で俊敏性とスピードを生かして、高いDFラインの裏のスペースのカバーも意識して取り組み、広範囲を守れるGKとして成長して来た。

 その信念と努力する姿勢は今も変わらない。天皇杯ラウンド16のヴィッセル神戸戦では延長後半アディショナルタイムに自らのミスからFW宮代大聖に決勝弾を浴び、大きなショックを受けた。それでも「これで自信をなくしてしまったら、それこそ僕の良さが消えてしまう。だからこそ、あのミスを経験として自分の中で消化して前に進むしかないと決意を新たにしました」と力強く立ち上がり、その後にチームを夏の大学日本一に導いた。この試練もGKとしてもっと強くなるチャンスである。

「この苦しい状況を抜け出すには自分のプレーがすごく大事になってくる。自分が守るという意識は強く持ってやっていきたいです」

 よくGKのことを守護神というが、それは必ずしもイコールではない。苦しい時に流れを断ち切るプレーをし、逆にチームに流れを持ってくるGKこそ、守護神と呼ばれる存在になれる。

 まさに今、チームの快進撃を支えたGKから、どんな時も頼りになる『真の守護神』になろうとしている。

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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