浦和内定後に苦悩「不甲斐ない」 転機となった”仲間の未来のため”「人生を懸けている」

桐蔭横浜大学の肥田野蓮治【写真:安藤隆人 】
桐蔭横浜大学の肥田野蓮治【写真:安藤隆人 】

浦和に内定している桐蔭横浜大FW肥田野蓮治

 6月のアミノバイタルカップ、1か月前の総理大臣杯とは別人のようだった――。

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

 10月7日に行われた関東大学サッカーリーグ1部・第15節の東洋大vs桐蔭横浜大の一戦で、桐蔭横浜大のエースストライカーである肥田野蓮治は、84分に交代を告げられるまで常に強度の高いスプリントを繰り返し、ラインブレイクと前線からの守備に貢献。プレーもさることながら、彼の声の質は非常に張りがあって、的確で、チームを鼓舞するものに相応しかった。

 以前と比べると、迫力が全く違った。アミノバイタルカップ、総理大臣杯の時は時折、持ち前のフィジカルとアジリティー、左足を生かした突破の迫力は見せたが、試合全体を通して消えてしまったり、出力が弱くなった時間帯が続いたり、波があるように感じた。

 その時に取材をすると、「不甲斐なさを感じています。チームに貢献できている実感がないし、本当に僕は何もしていない」と苦悩の表情を浮かべていた。

 今年1月に浦和レッズ内定が発表され、将来有望の大型レフティーストライカーとして一気に注目を浴びた。だが、それが徐々にプレッシャーとなり、うまくプレーが表現できない時期と相まって、彼から躍動感と迫力を奪ってしまっていた。

 だが、東洋大戦は全く違った。昨年の好調時に随所で見せていたプレーに加え、より献身的な周りをサポートする動きや、1本1本のスプリントの強度は、昨年以上のものだった。さらにこの試合ではFWやトップ下ではなく、右サイドハーフとしてプレー。前への推進力をサイドでもフルに活用し、爆発的な縦突破やカットイン、横スライドから見せる高速プレスなど、新たなプレーの幅も見せつけていた。

 何が彼を復活、そして進化させたのか。そこには自分に刺激を与えてくれた仲間と、浦和の先輩と指揮官の存在があった。

「総理大臣杯が終わってからもずっとモヤモヤした気持ちがありました。でも、ここ最近は『仲間のために、勝利のために』という気持ちが強くなったんです。理由は僕はすでにJ内定をしている立場ですが、チームの他の4年生には内定をもらうために、後期の1試合、1試合に人生を懸けて頑張っている選手がいる。個人として苦しい中でもチームの勝利のために全力を尽くしている選手もいる。だからこそ、個人どうこうではなく、4年間一緒にやってきた仲間のためにも、チームが勝つために全力を尽くすことが使命だと思うようになったんです」

 チームが勝つことで、そこでプレーしていた選手が周りからより評価をされる。負けていたらそのチャンスは減る。自分だけでなく、仲間の未来のためにも自分が気持ちを全面に出して、献身的なプレーと、本来の相手ゴールを脅かすプレーをしないといけない。この気持ちが彼の雑念を消し去った。

 これに加えて浦和では右サイドハーフというポジションを高く評価してもらえた。関東第一高時代にも右サイドハーフはやっていた。その時はどちらかというとパサータイプで、周りを動かしながら自らアタッキングエリアに侵入していくプレーを得意としていた。

浦和の練習参加でスコルジャ監督からかけられた言葉

 高校3年生の途中からより自分で運ぶ、仕掛ける、突破するという意識を持つようになり、大学では万能型ストライカーとして開花していく中で、直近で浦和に練習参加をした際に高校以来の右サイドハーフを任されると、よりプレーの幅が広がっている自分に気づいた。

「大学に入ってスピードとフィジカルが増して、推進力が身についたことで、縦にも行けるようになったし、カットインや内側で受けても、どんどん前に仕掛けていくこともできるようになった。前を向ける回数はFWよりも多いので、自分の特徴であれば右サイドハーフの方が出しやすいのかなと感じました。まだ(浦和で)リーグ戦は出られていませんが、スコルジャ監督からも『右で考えている』と言われて、チャレンジしたいと思うようになりました」

 桐蔭横浜大でも第14節の日本大戦から右サイドハーフを任されるようになり、見事にアジャストしている。

 そして、東洋大戦の前々日の日曜日に嬉しい知らせが届いていたのも、彼の躍動に大きな影響を与えていた。J1第33節の浦和vsヴィッセル神戸の一戦で、1学年上のCB根本健太がJ1初スタメン出場を果たし、フル出場で1-0の完封勝利に大きく貢献したニュースだった。

「健太くんがなかなか試合に出られずに苦しんでいるのを身近で見てきました。でも、常に日頃の練習から健太くんからは凄まじい熱量というか、意欲がヒシヒシと伝わってくる。ホームやアウェイのゲームの居残り組の練習で一緒になった時も、健太くんは一切手を抜かずに100%でやっている。そうやって腐らずにコツコツと積み重ねてきたからこそ、神戸戦で大きなチャンスがきたし、それを着実に掴めるんだと思いました」

 根本は流通経済大時代、浦和内定が決まっていたにもかかわらず、4年時はスタメン落ちをし、ベンチスタートで残り数分の出場や出番が来ない時もあり、「思うようにいかない」と苦しんでいた。だが、そこで彼は腐ったり、手を抜いたりすることは一切なかった。

「浦和に内定しているのに出られないなんて、相当苦しかったと思うし、腐ってもおかしくない。でも、健太くんは腐ることなく黙々とやっていた。僕もスタメンじゃない時もありましたが、こうやって大学で信頼を得て、多くの試合をスタメンで使ってもらえているからこそ、ここで中途半端なプレーや、個人的な苦しさでチームに影響を与えてはいけないと思いました。今やるべきことをひたすらやるということを健太くんから教えてもらいました」

 今、2学年下の後輩であるDF関富貫太が内定先の横浜F・マリノスでスタメンの座を掴んでいる。「当然、刺激は受けていますし、めちゃくちゃ悔しい気持ちはあります」と正直な思いを口にしたが、それで惑わされてしまう彼ではない。

 切磋琢磨と確固不抜。この両方を手にした肥田野蓮治の躍動はまだ始まったばかりだ。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

page 1/1

安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング