J1残留争い→中2日で大学リーグ戦へ 名門で経験を吸収…プロで通用した武器「発揮できた」

桐蔭横浜大の関富貫太【写真:安藤隆人】
桐蔭横浜大の関富貫太【写真:安藤隆人】

大事な一戦で起用された桐蔭横浜大2年のDF関富貫太

 J1リーグ第33節、柏レイソルvs横浜F・マリノスの一戦、J1残留のためには勝ち点を落とせない横浜FMの左サイドバックには、8月に加入内定が発表されたばかりの桐蔭横浜大2年生のDF関富貫太が入った。

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 0-1の敗戦を喫したが、この試合で90分間、左サイドで激しいアップダウンを見せ、攻守において躍動感を与えた関富は、その3日後の10月7日には関東大学サッカーリーグ1部のピッチに立っていた。

 関東1部・第15節の東洋大vs桐蔭横浜大の一戦。桐蔭横浜大も10位と1部残留争いを演じており、落とせない試合となっていた。

 相手は夏の総理大臣杯王者である東洋。関富は「マリノスから戻ってすぐでしたが、『行くぞ』と言われていたし、僕も準備をしていた」と左サイドバックのスタメンとして、立ち上がりからエンジン全開のプレーを見せた。

 前半アディショナルタイムに関富は自陣左サイドでボールを受けると、左足でミドルスルーパスを前線に素早く送り込む。それを受けたMF梁俊虎が落として展開をすると、彼はそのまま左サイドを猛然と駆け上がってスルーパスを受けて正確な左足クロス。触れば1点だったが、味方が触る寸前に相手DFが執念のスライディングブロック。ゴールには至らなかった。

 後半は攻守において強烈な存在感を放った。守備面ではCBが釣り出された時に瞬時に中に絞って、相手が狙うポケット侵入を未然に防いだり、こぼれ球をビルドアップにつなげたり、シンプルにクリアをするなど、状況に合致したプレーでDFラインに安定感を加えた。

 1-0で迎えた62分には東洋大の右サイドバック荒井涼とマッチアップをすると、一度は裏街道で背後を突かれてペナルティーエリア内に侵入されるも、高速ターンから身体をボールと相手の間にねじ込んで完璧にブロック。

 そして89分、圧巻のプレーを見せる。左サイドで相手のクリアを拾うと、すかさず寄せてきたDFに身体を当ててボールをキープ。さらにプレスバックに来たもう1枚のDFを後ろにターンしながら股抜きで交わすと、再び寄せてきたDFをもう一度身体で封じながら、今度は前に鋭くターンをして、一気に加速する。カバーにきた3人目のDFをワンタッチで打ち抜くと、そのまま左サイド深くまでドリブルで運んで行った。

 中の様子を確認してからニアに飛び込んできたMF永井大士の足元にピタリと届く左足グラウンダーのクロス。永井が放ったシュートはGKにセーブされるも、こぼれをFW田村陸人が押し込んで、勝利を決定づける貴重な追加点をもたらした。

「今日は本当に桐蔭にとって大事な試合だったので、僕もJリーグから中2日でしたが、『チームのために』という思いでやっていました。そういう意味では無失点で、かつ2点目に関わることができたのは良かったし、次はアシスト、ゴールでチームに貢献していきたいです」

プロと大学の差を実感

 試合後、彼は淡々とした表情でこう試合を振り返った。J1と大学の往復は簡単なことではない。レベルも環境も異なるし、プロでは周りに助けられながら思い切ってプレーする側から、大学では自分が周りを助けないといけない側になる。こうした変化はメンタル面でも、フィジカル面でも知らず知らずのうちに影響を及ぼす。

「もちろん異なる環境なので、難しい部分は正直あります。でも、そこで過信したり、勘違いしたりすることは違うので、自分の中で折り合いをつけてやっていきたいと思っています」

 クールさの中にも熱量がこもっている。環境の変化よりも横浜FMで得たことを日常生活で反映させようとする意欲がこの熱量の根源となっていた。

「マリノスは全体のプレースピード感が大学と全然違う。マリノスで一番意識しているのは準備のところ。準備できない状態だと、相手のサイドハーフはもの凄い勢いで仕掛けてきますし、圧をかけてくる。準備のスピード、立ち位置や身体の向きなど細部へのこだわりと意識。ここは大事にしています」

 荒井の1対1を止めたシーンも、「前半にイエローを1枚もらっていたので、勇気がいるプレーでしたが、僕のフィジカルには自信がありますし、見えていたので冷静に対応できたと思います」と振り返った。

「予測だったり、その中での適応力だったり、J1の世界は直前で判断を変えることが本当にうまい選手が多いからこそ、本当に一瞬の判断が鍵になってくる。例えば、マリノスで言うと天野純選手は、本当にギリギリで判断を変えてくるし、相手を誘い込んで逆を取るプレーの質がとても高い。そのような選手をもっと抑えられるようにならないといけないと思っています」

 持ち前の攻撃力はもちろん、守備でも手応えと収穫を掴むことができた。そしてもう1つ、関富は大きな物を手にしたという。

「コーチングで味方を動かすことは大学でも武器にしていたのですが、それをプロの世界でも発揮することができた。ボランチをうまく動かしたり、サイドハーフとのコミュニケーションやCBとの頻繁な声かけだったり、失点を未然に防ぐという部分では周りとうまくつながれたと思います」

 ルーキーや特別指定の選手が練習はおろか、絶対に落とせない緊迫したリーグ戦でそれを発揮することは容易いことではない。重圧や緊張感、特別指定の立場ゆえに周りに迷惑をかけないようにしようとしてしまうマインドも働いてしまう。

 だが、彼にはそういうネガティブなメンタリティーは一切なかった。「もちろん、できない選手はいるとは思うのですが、そういう選手はプロには必要とされない。ピッチに入ったら年齢やキャリアは関係ないので、そこは動じずにやっています」と言い切った彼に、そうマインドセット出来ている理由について聞くと、そのきっかけを教えてくれた。

「そういうメンタリティーを持てるようになったのは、日体大柏高サッカー部から柏レイソルU-18に入ってからですね」

日体大柏、柏U-18でプレーの過去

 彼は神奈川県から日体大柏高に進学。日体大柏と柏は2015年にアカデミー選手育成の相互支援契約を締結しており、柏U-18の全選手が同校に在籍して教育を受ける一方で、サッカー部の選手が活躍次第では柏U-18に転籍することもできる。

 関富は日体大柏と柏U-18の合同セレクションに参加し、日体大柏から合格をもらった。フィジカルの強さと左足のキックを武器に、1年時からFWとしてレギュラーを掴むとその年の冬にその実力が認められ、柏U-18に転籍を果たした過去がある。

「転籍をする際により厳しい環境の中でどう生き残るかをたくさん考えましたし、実際に試合に出られない苦しい時期も経験させてもらった。その経験があるから僕はより成長をしたと思っています」

 埋もれないようにもがきながら、自分の良さを消さず、武器として発揮する。この経験が彼のベースとなった。

 すでに横浜FMではJ1リーグ3試合に出場(うち2試合スタメン)し、これからもJ1と大学サッカーの両立が求められる。

「当然、疲労も出てくると思うのですが、今、マリノスではピッチ内だけではなく、身体のケアの部分もいろいろ学ばせてもらっています。そこも日々に生かしていきたいと思っています」

 どこまでもまっすぐな学ぶ姿勢と成長に対する貪欲さ。関富貫太は二足の草鞋を巧みに履きこなしながら、自分が思っている以上の成長曲線を描いていく。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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