名将が期待する日本人「レジェンドに」 英強豪の21歳…世界屈指の定位置争いも「戦えている」

チェルシー・ウィメンの浜野まいか【写真:ロイター/アフロ】
チェルシー・ウィメンの浜野まいか【写真:ロイター/アフロ】

チェルシー・ウィメンの厳しいチーム内競争を戦う浜野まいか

 チェルシー・ウィメンで移籍3年目を迎えている浜野まいか。まだ21歳と若いが、今季のウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)12チーム中、10チームに所属する日本女子代表選手計19名では、イングランドにおける古株の部類だ。

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 今季は、開幕戦から先発フル出場。マンチェスター・シティ・ウィメンとのライバル対決で、決勝点となるゴールも決めた(2-1)。しかし、翌節のアストン・ビラ・ウィメン戦勝利(3-1)では出番なし。続く、9月21日の第3節レスター・シティ・ウィメン戦(1-0)も、ベンチでキックオフを迎えた。

 チェルシーは、昨季を国内3冠王として終え、WSL7連覇と悲願の女子CL初優勝を含む国内外4冠を狙う、イングランド随一の強豪だ。チーム内競争は、激しさを極める。もちろん、それは浜野も覚悟のうえ。後半の頭からピッチに立ったレスター戦後、新シーズンの決意を尋ねると、こう答えている。

「契約を延長したこともあって、ここにしっかり定着していきたい。1戦目でゴールを決めて、自分的にはコンディションもいい状態でも、2戦目は途中交代ですらも出ていなくて。そこで『(自分を)出せ』って思っちゃうんですけど、やっぱり、チェルシーはヨーロッパのなかでもトップで、凄い選手がたくさんいるチームなので、毎試合は出られないのは分かってもいる。出た時には自分の良さを出して、本当に大切な場面で使ってもらえるように、そして結果を出せるようにしていきたい」

 9月10日に発表された2029年までの契約延長にも、迷いはなかったという。

「自分は、(下部組織からの)セレッソ(大阪レディース)には長くいましたけど、セレッソからINAC(神戸レオネッサ)、(チェルシー入りと同時にレンタルで)スウェーデン(ハンマルビー)へと移ってきたなかで、1つのクラブで長く、それもハイレベルな環境でチャレンジしたいと思うようになって、今回、まずは25歳までここで戦ってみようと。日々、本当に自分自身との戦いだなと感じています」

攻撃のクオリティと同等に目を引いた“果敢な姿勢”

 その「戦い」を、浜野は着実にこなしてきている。そうでなければ、この日もハーフタイムを境に投入されることはなかっただろう。

 チェルシーは、開始7分でリードを奪っていながら、レスターを突き放せずにいた。アグレッシブに守り、ボールホールダーには2人がかりでプレッシャーをかける敵を前に、パスが乱れてポゼッションを譲る場面が繰り返された。

 試合後、勝負を決め切れなかった点を反省点としたソニア・ボンパストル監督。チームの前線に落ち着きとクオリティを加え、チャンス創出の頻度を増す効果を期待して、ボールコントロールとパスセンスに長けた浜野をベンチから送り出したはずだ。

 3-4-2-1システムで、2シャドーの一角に投入された当人は、こう説明している。

「結構、リズムが崩れていた感じだったので、自分の良さでもありますけど、しっかりボールを持つことで、そこを落ち着かせるように意識して入りました」

 45分間で交わしたパス13本は、うち10本が2タッチ以内。その的確なボール捌きと同等以上に目を引いたのが、頼もしげとも映る、五分五分の競り合いに挑む果敢な姿勢だった。

 印象に残ったシーンの1つは、後半33分。自軍ペナルティエリアの手前でルースボールを競り、カウンターに転じるきっかけを作っている。残念ながら、チェルシーがアタッキングサードに攻め入ったところで主審の笛が鳴った。後方で、浜野と競り合った相手選手がうずくまっていたためだ。

「危険なプレー。高く上げた足が相手のお腹に入ったんじゃない?」と、隣席の女性レポーター。筆者は、「でも、あそこで競らないわけにはいかないでしょう」と反応。女子チーム専用のホーム、キングスメドウの記者席にはモニターがなく、議論はそこで終了したのだが、あとで録画映像を確認してみると、浜野の足はボールへと伸びており、相手選手はバランスを崩して倒れた際の打ち所が悪かった。リアルタイムで、チェルシーの選手たちがプレー中断に不満を示していたのも無理はない。

 その5分ほど前、執拗なプレッシングから身体を入れ、体格で勝る相手DFのミスパスを誘発してもいた浜野は、「当たり負けはかなり少なくなって、自分の良さを出す下地ができてきた」と言う。

 持ち味を発揮するという観点からは、もの足りなさを覚える部分もあったに違いない。チーム全体として及第点のパフォーマンスに留まったチェルシーは、追加点を奪えないままに終わったのだが、例えば、自身が後半45分に試みたライン越しのパスが通っていたとしたら?

 その3分前の選手交代に伴うシステム変更により、浜野は4-2-3-1のトップ下に回っていた。自陣内まで下がってタッチライン付近でフィードを受けると、振り向きざまにパス。微妙に距離が足らずにカットされてしまったが、狙いは間違っていない。実際のパスも狙い通りであれば、ピッチに入ったばかりの快速ウインガー、ヨハンナ・リッティン・カネリドの裏抜けからチャンスが生まれていた可能性は高い。

ファンを魅了する笑顔の原点

 新契約を全うすれば、在籍6年半となるチェルシーでの精進は、まだまだ続く。

「エマ(前監督で現アメリカ女子代表監督のエマ・ヘイズ)の話になっちゃうんですけど、エマとポール(競技面で女子チームを統括するポール・グリーン)と話をした時に、『マイカはチェルシーのレジェンドになるために、ここで1年目も2年目も強く踏ん張って、(課題を)自分で消化する力をつけないといけない』と言われて、その言葉を大切にして今も戦えている、戦い続けていけると思えるから、頑張りたいです」

 そう言って、浜野は微笑んだ。

 チェルシーの23番は、本当に笑顔が似合う。年齢や性別を問わず、ファンの間で人気が高いのも頷ける。この日の試合後も、まずは他のベンチスタート組と一緒にウォームダウンをこなすと、次から次へとセルフィーのリクエストに応えていた。

 スタメンから漏れれば、心中には悔しさもある。チェルシーでの1年目には、手術を必要とした怪我で辛い時期も経験した。それでも浜野は、とにかく眩しい笑顔が印象的だ。

 そう本人に伝えると、「契約延長の時にも(クラブ公式の取材で)言われて、なんかそういう顔なのかなとか冗談で言っていたんです。お母さんがずっと笑顔の人だから、それが自分に伝染ったのかなとも思ったり」と言って、またにっこり。

「小さな幸せを見つけるのが上手いのかなとは、ちょっと思います。イングランドにいたら、天気が良いだけで本当に幸せな気分になるから」

 これには、このイングランド在住日本人も同感。「珍しく朝から太陽が出ていたりすると、ちょっと得した気分になる」と合いの手を入れると、「そう、『うん、よっしゃ!』みたいな(笑)」と、それこそ伝染必至のスマイルを見せてくれた。

 浜野とは、笑顔とともに、歯を食いしばることも忘れない攻撃タレント。まだ序盤戦に過ぎない今季、さらには4年先まで延びたチェルシーでのキャリアを通して、ピッチ上でも「よっしゃ!」となる瞬間が幾度も訪れるはずだ。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)



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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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