味方も驚く「そこ行くの?」 重なる“三笘包囲網”…逆輸入ドリブラーの生かし方

得点を量産している川崎FW伊藤達哉
やっぱり止まらない。
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そんな進撃を続けているのが川崎フロンターレの伊藤達哉である。
8月16日、J1リーグ第26節・アルビレックス新潟戦から公式戦6試合連続ゴールを記録。その活躍に一躍注目が集まり、そのプレーシーンをJリーグ公式チャンネルが17分の特集動画として配信したほどだった。
ただこの連続ゴールは、第30節のFC東京戦でストップ。この試合では対面した日本代表サイドバック・長友佑都から密着マークを受け、さらにサイドハーフのプレスバック、ボランチもサポートに来るなど複数人から厳重な監視を受けて沈黙。チームも無得点で敗れている。
それでも直後の第31節の湘南ベルマーレ戦で再びゴールを記録したのはさすがだった。一度はシュートが弾かれたものの、こぼれ球を拾った小林悠からのクロスをトラップし、力強いボレーシュートでねじ込んだ得点。試合後の伊藤は決勝弾となったゴールシーンを安堵の表情で振り返っている。
「点を決める前のシーンで自分としては決めたかったんですけど、ユウさんがもう一回良いボールをくれて、あとはもう泥臭く決めました。今日はアップや前日の練習でもそうですけど、シュートがすごく調子良くて、遠目からもうボンボンと突き刺してたんで。このぐらい近かったら決まるなって感じです」
気になるのは、彼がいかに気持ちを作り直したのか、だった。前節の敗戦と自身の無得点を受けて、新しいマインドをセットしてゲームに臨んだと明かしている。
「連続で得点が取れていた時は、東京戦でちょっと焦りというか、どこかで途切れさせたくないって気持ちがあった。それは良くないなってのはありました。その焦りとか煩悩までは言わないですけど、そういうのを1回無しにして、フラットにして今日は試合に入れたかな」
現在リーグ9ゴール。二桁得点も間近だが、同時に対戦相手による「伊藤達哉包囲網」がますます強まるのも間違いないだろう。それをどう打開していくのか。シーズン終盤に向けたチームとしての大きなテーマだ。
そこで思い出したことがある。それは、現在プレミアリーグで活躍する三笘薫がいた時代の川崎フロンターレである。圧巻の活躍を見せていたドリブラーに対して、当然ながら、どの相手も三笘対策を施してきた。三笘を1対1で止めるのは難しかったので、どのチームもグループでいかに守るかで対策してくるのが基本だった。
だがあの時代の川崎は、三笘薫対策を逆手に取った攻撃を展開できていた。対戦相手の2人ないしは3人に三笘が監視されている状況というのは、裏を返せば、他の場所が空くことと同義だった。つまり、周囲の選手が躍動しやすくなっていたのだ。三笘自身もドリブルに固執することなく、巧みなパスを駆使しながら周りを生かすことで、チームをうまく循環させていたのである。そういう戦い方ができていたので、あの時期の川崎はとにかく強かったと言える。
伊藤が目標とするドリブラー「あの2人が究極」
現在の伊藤達哉にも似た解決策が当てはまるはずだ。
伊藤に多くのマークが集中すれば、例えば中盤の脇坂泰斗や山本悠樹といった名手たちが自由にプレーしやすくなる。実際、第29節の横浜F・マリノス戦では彼らに決定機が巡ってくる機会が多かった。
試合後の山本に「伊藤達哉が警戒されている状況をどう利用しているのか」について尋ねてみると、彼はまず伊藤の個に特筆すべきものがあることを口にした。
「タツヤは『そこ行くの?』みたいなところを1人で行けちゃうので、相手からしてもすごいやりづらいだろうと思う。だから3列目から自分がついていくことがすごい大事だなと思ってます。タツヤも仕掛けながら周り使える選手なので、そこで自分も入っていって厚みを出してくると、チャンスが増えるかな」
基本は、伊藤のサポートをいかに効果的にするのか。そして伊藤自身も周りを使うこと。それを前提に、警戒されている中でどう点を取らせるかを考えることが重要だと話す。
「タツヤだけにならないように、エリソンも相手からしたらすごく警戒されるポイントだと思うので、そこに対してどう関わっていくかっていうところ。最後はそこの選手たちにどう仕事させてあげるかっていうところは、中盤の仕事だと思うので。引き続きやっていければいいかなと思います」
右サイドの伊藤達哉包囲網が強まるならば、他のエリアにいる選手が点を取りやすくなるとも言えるわけだ。実際、第31節の湘南戦では、左サイドからのクロスから中央にいた脇坂泰斗が頭で合わせて得点している。現在川崎の総得点数は「55」であり、これはリーグトップの数字となっている。決して伊藤達哉頼みの得点力ではなく、攻め筋は他にもあるということだ。
もちろん、伊藤達哉自身もまだまだ止まらないだろう。ちなみに彼のウイングとしての理想は、フランク・リベリーとアリエン・ロッベンの2人だと明かしてくれたことがある。プロキャリアをドイツでスタートさせ、ハンブルガーSVやマクデブルクでプレーしていた伊藤にとって、この2人が究極系だったと仰ぎ見ているのだという。
「2人ともタイプは違うんですけど、あれが僕が求めるウィンガーの理想系なんですよ。ロッベンはカットインしてシュートという自分の形を持ってる典型的なフィニッシャーじゃないですか。リベリーは縦も外も行って、どっちかというとアシストの方が多いんですけど、あの2人が究極だなって思ってます」
武器であるドリブルで勝負してフィニッシュを完結させつつ、味方もしっかりと使ってアシストで勝利に貢献する。すでにJリーグでは飛び抜けた存在になりつつあるが、伊藤自身がさらなるレベルアップを遂げていけば、ますます手がつけられない選手になるのは間違いない。
週末の対戦相手は、伊藤自身が育ったクラブである柏レイソル。古巣相手に、一体どんなプレーを表現してくれるのか。楽しみでならない。
(いしかわごう / Go Ishikawa)

いしかわごう
いしかわ・ごう/北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。





















