Jでブレーク中の後輩に受けた衝撃「出せ!」 トップ昇格逃し→大学進学…2年生司令塔が得た“気づき”

関西学院大2年生MFの先田颯成
9月3日に開幕し、東洋大学の優勝で幕を閉じた、大学サッカーの夏の全国大会である第49回総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント。
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全国各地域の激戦を勝ち抜いてきた32大学が、1回戦から3回戦までシードなしの中1日の一発勝負という過酷なスケジュールの中で、東北の地を熱くする激しい戦いを演じた。ここでは王者にたどり着けなかった破れし者たちのコラムを展開していく。
第13回は2年ぶりの決勝進出を果たすも、決勝では東洋大に0-1で敗れて9大会ぶり2度目の優勝を逃した関西学院大の2年生ゲームメーカー・先田颯成について。サガン鳥栖U-18からやってきた彼が大きな刺激を受けた下級生の存在とは――。
2回戦の九州産業大以外はすべてスタメン出場を果たし、準優勝に貢献した先田。特徴は豊富な運動量と堅実な守備をベースに中盤のスペースを巧みに埋めながらも、ボールを集約してサイドに展開したり、追い越してきた選手を使ったり、攻撃のリズムメークを行えるところだ。
中でも右足のキックの精度はずば抜けていて、セットプレーでも猛威を振るう。ピッチに置いておけば献身的なプレーも相手を壊すプレーもできる。2年生ながらチームの中心的存在になっているのも頷ける。
そんな先田には今、心に誓っていることがある。それは高校時代の自分に足りなかったエゴを出すプレーで、相手にとって脅威の存在になることだ。
鳥栖U-15で2度の全国制覇に貢献し、U-18ではボランチを主戦場にして、2年時から出番を得た。ハードワークを厭わない献身的な守備とずば抜けたボールハント力を駆使し、強烈な個性を揃えるアタッカー陣を支える一方で、ボールを展開した後にスルスルと前線まで駆け上がってフィニッシュワークにも関わる。この能力を高校3年時にフルに発揮してみせた。
プレミアWESTで全22試合に出場し、1970分出場とGK小池朝陽の全試合フル出場に次ぐチーム2番目の出場時間を誇り、1学年下のMF鈴木大馳に次ぐ2番目の8ゴールをマークするなど、チームに必要不可欠な存在となった。
しかし、同級生のDF北島郁哉、MF堺屋佳介がトップ昇格を果たす一方で、彼は昇格できなかった。
「悔しかったけどこれが現実。プロになるにはもっと自分というものを出さないとダメなんだと思いました」
ちょうどこの時、衝撃を受けていた後輩がいた。今、高校3年生の18歳ながらすでにトップチームでJ2リーグ24試合に出場をし、3ゴールをマークしているFW新川志音だ。
「リーグの終盤に一気に頭角を表してきて、1年生なのにめちゃくちゃFWとしてエゴを出してプレーするんです。普段は寮でも大人しめで、しっかりと挨拶ができる選手なのですが、試合になると一変するんです。年齢とか一切関係なく、(堺屋)佳介などに対しても『へい!出せ!』と、どんどん要求するし、『お前、そこから打つの!?』というシュートもあって、上からかもしれませんが『これはすごい選手になりそうだな』と思いました」
多くのオファーの中から関西学院大に進学
ただ衝撃を受けただけなく、彼の姿勢を見て、もう一度自分を見つめ直した。
「新川が評価されているのは、攻守において勢いや迫力の部分がとてつもなくあるから。(プロで活躍するためには)そういうところが大事なのかなと思いました」
プレミアで決めた8ゴール中、4ゴールは昇格見送りが決まった後の10月に挙げたものだった。アピールとしては少し遅かったかもしれないが、プロになるために大事なものを痛感した先田にとっては、人生を変えるような大きな気づきであった。
「やっぱりうまいだけではいけないし、安定感があるだけでもいけない。もっとゴールやアシストをすることに貪欲になって、エゴを出してどんどんボールを持っていくプレーを突き詰めてやっていかないといけないと感じました」
関東、関西、九州の強豪大学から多くのオファーをもらう中、「技術的に成長するのは関学が一番だと思った」と関西学院大に進学。そして今、トップ下として不動の地位を築いている。よりゴールに近いポジションになったことで、安定感、献身的なプレーという自分の武器にプラスアルファとなるものを磨ける最高の環境になった。
「もちろん将来的にはボランチをやりたいという気持ちはありますが、トップ下で相手を剥がしていくプレーだったり、決めきるプレーだったり、どんどん迫力を出して相手にとって脅威となるプレーをしていきたいと思っています」
総理大臣杯ではゴールこそなかったが、関西大学サッカーリーグ1部では4ゴールで得点ランキング5位タイにつけるなど好調をキープ。着実に成長のステップは踏めている。だが、先田には慢心の2文字は存在しない。それは常に刺激を与えてくれる存在がいるから。
「佳介など同期とは常に連絡をとっていますし、鳥栖のトップチームの動向は欠かさずチェックしています。新川はこの間(8月30日)のモンテディオ山形戦でえげつないシュートを決めていた(DFに囲まれながらも一人でボールをキープして、ペナルティーエリアの外から反転して左足の弾丸ミドルを突き刺す)し、もうめちゃくちゃ刺激を受けています」
目指すべき場所に到達するだけではなく、そこで躍動をするために。先田は気づきを形に変えるべく、自らの力でその殻を打ち破ろうとしている。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。



















