J1にいないのが不思議…“隠れた実力者”を識者が厳選 U20代表主将をもしのぐ圧倒的な個

残り10試合…熾烈なJ1昇格争い
J2もラスト10節となり、いよいよ昇格や残留をかけた終盤戦に突入するが、夏の移籍期間がクローズしたところで、J1に引き抜かれなかった実力者を筆者の視点で、ベストイレブン形式で選ばせてもらった。選考にあたり、例外として山口蛍(V・ファーレン長崎)や高嶺朋樹(北海道コンサドーレ札幌)といったJ1での実績の方が長い選手、倍井謙(ジュビロ磐田)のようにJ1クラブから期限付き移籍している選手も対象外としている。
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GKはホセ・スアレス(ジェフ千葉)だ。開幕直前に徳島ヴォルティスから加入。当初は昨シーズンのV・ファーレン長崎で評価を高めたGK若原智哉が期待を集めていたが、キャンプ中に膝を負傷してしまい、長期離脱が決まった中で、スアレスが千葉に加わった。しかし、そうした経緯も良い意味で忘れてしまうほど、ビルドアップやシュートセーブなど、千葉の攻守を支えるクオリティが目立っており、仲間に与える安心感という意味ではJ2ナンバーワンではないか。J1のクラブで主力のGKに怪我人が出た時に、真っ先に筆者はスアレスの姿が浮かんだ。
もし千葉が悲願のJ1昇格を果たすことができれば、ファジアーノ岡山の躍進を支えるスベント・ブローダーセンのような存在になっていくことが期待できる。そのほか、後藤雅明(V・ファーレン長崎)とトーマス・ヒュワード・ベル(モンテディオ山形)はJ1でも十分に通用するパフォーマンスを見せている。またスアレスが移籍した徳島において、生え抜きで在籍4年目となる田中颯が、J2最少失点の堅守を支えていることは印象的だ。
センターバックは正直、かなりタレントが多く、2人に絞るのに頭を悩ませた。その中で驚異的な空中戦の強さを見せる照山颯人(V・ファーレン長崎)と相手FWから自由を奪う孫大河(ヴァンフォーレ甲府)の2人は個として評価した時に、十分にJ1で通用するものがある。外国籍選手ではガブリエウ(RB大宮アルディージャ)が圧巻だが、そもそもブラジル・セリエAの名門ボタフォゴやアトレチコ・ミネイロで実績のある選手なので、今回の基準だと入れにくい。
もちろん大宮と言えば、U-20日本代表のキャプテンである市原吏音も有望なタレントだが、勝負を左右するところでの働きというところでは、まだまだ伸ばしていくことができるだろう。徳島の堅守を中央から支える山田奈央も、対人戦と統率力の両面を兼ね備えており興味深い。ビルドアップや状況判断というところを加味すると、江﨑巧朗(ジュビロ磐田)のインテリジェンスはJ1基準でも、なかなか見当たりにくいレベルだ。
サイドバックは真瀬拓海(ベガルタ仙台)と大森渚生(水戸ホーリーホック)の2人を選んだ。真瀬に関してはベースの身体能力が非常に高く、ライン際での1対1の強さに加えて、高い位置でウイング顔負けの攻撃力を見せる。実際、仙台では必要に応じて、サイドアタッカーとしても起用されるほどだ。大森は首位の水戸を左サイドから支えるレフティーで、ボールを奪って前に出ていく能力が高い。東京ヴェルディの出身ということで、テクニカルなベースもしっかりした選手だが、栃木SCで培った戦うハートの強さは大きな武器だろう。
2トップは異論なし
ボランチは鹿沼直生(徳島ヴォルティス)と武田英寿(ベガルタ仙台)のセットになった。前者はボールを奪ってファーストパスを付けていく能力の高さ、そこから機を見て前に出ていく破壊力という部分で、J2では突出したものがある。苦しい時にセンターバックの手前でフィルター役になる効果も高い。最少失点といいとGKやバックラインに評価は向きやすいが、鹿沼の貢献は大きいだろう。武田は浦和レッズからのレンタルで経験を積んできたが、今シーズンは完全移籍という形で地元に戻った。左足の展開力はもちろん、守備面も森山佳郎監督に鍛えられて力強くなっている。
その武田とボランチのコンビを組む鎌田大夢(ベガルタ仙台)も非凡なタレント力の持ち主だが、起点になるプレーに加えて、前に出ていった時の決め手が強まれば、さらに上のステージでも輝けるだろう。中盤での存在感という意味では大崎航詩(水戸ホーリーホック)も負けていない。攻守のトランジションにおける質が高く、ミドルシュートやラストパスの強さも備えている。チャンスの起点という意味では櫻井辰徳(サガン鳥栖)の名前を挙げない訳にはいかない。攻守のインテンシティーの高さはエドゥアルド(ジェフ千葉)がJ2のトップレベルだ。
攻撃的なMFでは鳥海芳樹(ヴァンフォーレ甲府)を一押ししたい。ちなみに読み方は「とりうみ」でも「ちょうかい」でもなく「とりかい」だ。縦に仕掛ける意欲が強く、そこから高い確率で危険なラストパスやシュートに持ち込むことができる。サイズは大きくないが、全身のパワーを込めるようなミドルシュートは相手の脅威でしかない。もう一人はサイドアタッカーの椿直起(ジェフ千葉)を選んだ。J2屈指のドリブラーであり、波に乗るとファウルでしか止められないようなキレがある。3得点5アシストという数字もなかなか立派だが、それ以上に攻撃面で果たしている役割は大きい。他にも泉柊椰(RB大宮アルディージャ)はチャンスの大半を生み出しており、大宮の攻撃に欠かせない存在となっている。山下優人(いわきFC)の攻撃のクオリティも目が離せない。
FWはここまで15得点のマテウス・ジェズス(V・ファーレン長崎)と13得点の渡邉新太(水戸ホーリーホック)の2人に関して、おそらく異論はほぼないのではないか。ただし、マテウス・ジェズスに関してはJ1のクラブが欲しがっても、移籍金や長崎を超える待遇で獲得するのは簡単ではないだろう。もともと本職のFWではなく、長崎で得点力を開花させたことも価値は高い。渡邉は前所属の大分トリニータで2021年にJ1を経験しているが、多くはJ2で過ごしており、30歳にして圧倒的な輝きを放っている。
昨年のJ3ベストイレブンである塩浜遼(ロアッソ熊本)とマルクス・ヴィニシウス(FC今治)が揃って、J2でも大活躍を見せていることは注目に値する。ヴィニシウスと前線でコンビを組む横山夢樹(FC今治)もボールを持って前を向いた時の打開力は凄まじいものがある。まだそれほど多くの出場時間を得てはいないが、18歳のFW新川志音(サガン鳥栖)もドリブルの破壊力があり、さらにフィニッシュの精度やプレーの連続性が上がっていけば、J2では規格外の選手になっていきそうだ。

河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。



















