強豪10番が号泣…PK戦敗退も「ピッチにいない」 8か月後に再び悲劇「痛感しました」

流通経済大学の柚木創【写真:安藤隆人】
流通経済大学の柚木創【写真:安藤隆人】

流通経済大学の柚木創「甘えていたら、また同じことを繰り返すと思う」

 9月3日に開幕した大学サッカーの夏の全国大会である第49回総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント。全国各地域の激戦を勝ち抜いてきた32大学が、1回戦から3回戦までシードなしの中1日の一発勝負という過酷なスケジュールのなかで、東北の地を熱くする激しい戦いを演じた。ここでは王者にたどり着けなかった破れし者たちのコラムを展開していく。

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 第2回は関東予選となるアミノバイタルカップを優勝し、関東第1代表で出場をするも、初戦で前回準優勝の新潟医療福祉大学の前にPK戦の末に敗れた流通経済大学のルーキーMF柚木創について。昨年度、流通経済大柏の10番として君臨した彼にとって、大学初の全国大会は、選手権決勝と同じような展開となった――。

 この試合が彼にとって大学デビュー戦となった。附属高の10番として鳴り物入りで入学をしたが、シーズン当初はBチームでプレーし続け、優勝したアミノバイタルカップもスタンドでの応援だった。だが、総理大臣杯の3週間前にトップ昇格が告げられると、直前の女川キャンプでも好調を維持し、ついに全国大会で初出場をスタメンで飾った。

「3-4-2-1」のボランチとしてキャプテンの渋谷諒太とコンビを組んだ柚木は、持ち前の広い視野と正確なキックを駆使して、サイドチェンジや裏へ通すパス、攻撃のリズムを作り出すパスで中盤の起点となった。

 だが、ゴールが遠かった。前半は膠着状態が続くも、後半は一気にペースを掴んで相手陣内に押し込んだが、堅い守備をこじ開けられぬまま後半21分に交代を告げられた。その後、勝負は延長戦までもつれこみ、PK戦の末に初戦敗退となった。

「全国大会でデビューできたこと自体は素直に嬉しいのですが、やっぱり……90分間、延長を含めてフルに戦い抜いて、PK戦になってもピッチにいて勝利に導く選手になりたいはずなのに、今回も延長戦とPK戦をベンチから見つめることしかできなかったのは悔しさというか、運動量、ゲーム体力という面でもっと自分に厳しく求めていかないといけないと痛感しました」

 約8か月前の1月13日の第103回全国高校サッカー選手権大会決勝・前橋育英vs流通経済大柏の一戦。10番を背負ってボランチとしてスタメン出場をしたが、1-1で迎えた後半18分に最初の交代を告げられ、ショックのあまりベンチで号泣した。

 チームは大熱戦を繰り広げ、延長戦でも決着つかずPK戦へ。10人目までもつれ込む死闘の結果、準優勝に終わった瞬間をベンチで涙を流しながら見つめることしかできなかった。

 試合後、「自分がPK戦までいたら決める自信があったし、10番なのにピッチにいないことに悔しさと自分の甘さを感じた」と口にしていたが、今回は1年生とはいえ、同じ全国大会で同じ経験をすることになってしまった。

「きょう改めて自分の課題を突きつけられました。ここで『まだ1年生だから』と甘えていたら、また同じことを繰り返すと思うので、本当に危機感を持ってこれからより取り組んでいかないといけないと痛感しました」

 この試合のスタメンで付属高出身が11人中8人を占めた。なかには柚木と同じ1年生のDF奈須琉世、MF堀川由幹がいたが、隣にいた渋谷の立ち振る舞いに大きな刺激をもらったという。

「渋谷さんは本当にどんなときも下を向かないし、常にチームのことを考えている。凄い先輩だということはよく知っていましたが、本当に自分たちのことを引っ張ってくれるし、頼りになる存在。渋谷さんだけに限らず、4年生は本当に頼りになる先輩たちなので、僕ら下級生がその姿を見て成長していかないといけない。来年、再来年になって後輩ができたときに、ああやって頼りになるような存在に自分がならなきゃいけないと実感しました」

 その表情と言葉には、これが大学デビュー戦であることを忘れさせるほど、力がこもっていた。総理大臣杯はこれで終わったが、後期のリーグ戦に向けてレギュラー争いがすでに始まっている。柚木は付属の10番の自覚を持って、東北の地で主軸への道の力強い一歩を踏み出した。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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