降格圏クラブに移籍で…雰囲気に苦言「思っていた以上に元気ない」 言葉に込めた覚悟

広島戦で決勝ゴールを決めた二田理央【写真:Getty Images】
広島戦で決勝ゴールを決めた二田理央【写真:Getty Images】

決勝点を決めた湘南の二田理央「一人ひとりからエネルギーを感じられない」

 湘南ベルマーレが約3か月ぶりに勝利をあげた。サンフレッチェ広島をホームに迎えた9月3日のルヴァンカップ準々決勝で、2-2で迎えた後半アディショナルタイムに決勝点を“背中”でゲット。ヒーローになったFW二田理央は今夏に浦和レッズから加入した、J1残留を争っている新天地を「思っていた以上に元気がないかな」と看破した。忌憚のない言葉に込められた覚悟と決意に迫った。(取材・文=藤江直人)

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 新しいチームメイトたちを批判しているわけではない。それでも湘南の二田理央は忌憚のない口調で、浦和から育成型期限付きで加わってから2か月あまりの間に抱いてきた思いを明かした。

「思っていた以上にこのチームは元気がないかな、というのがちょっとあるので」

 スピードを武器にする22歳のストライカーがこんな言葉を残したのは、ホームのレモンガススタジアム平塚に広島を迎えた3日のルヴァンカップ準々決勝第1戦。お互いにゴールを奪い合う展開で迎えた後半アディショナルタイム2分に決めた、自身の勝ち越しゴールで3-2と先勝した直後だった。

 二田が加入した7月2日以降で、湘南が公式戦で勝利したのは広島戦が初めてだった。加入前を含めても、J3のFC岐阜を2-0で破った6月11日の天皇杯2回戦が最後。そして、J1リーグ戦を含めて公式戦で11試合ぶりに手にした勝利で、チームの雰囲気は変わったのか、という問いへの答えが「元気がない」だった。

 日々のトレーニングにおけるチームの雰囲気を思い出しながら、二田はさらにこんな言葉を紡いでいる。

「トレーニングではみんながすごく体を動かしているし、実際に激しいメニューを消化しているんですけど、一人ひとりからエネルギーを感じられないところがちょっとあるというか。そのなかで自分がチームを盛り上げていきたいし、そうしてみんなを引っ張っていくというか、いい雰囲気にもっていけたらと思っています」

 自分の何をもって湘南の盛り上げ隊長役を担うのか。屈託のない笑顔を浮かべながら二田が続ける。

「チームにやんちゃな選手がいないというか……ちょっと静かで落ち着いていて、それでいてものすごく頑張る、みたいな選手が多いなかで、自分はどちらかと言えばやんちゃなほうだし、感情もめちゃくちゃ表に出るタイプ。そこは3年間プレーしたオーストリアでもそうだったし、自分のよさでもあると思っているので」

 大分県佐伯市で生まれ育った二田は、中学卒業後の2019年にサガン鳥栖U-18へ加入。トップチームに2種登録されていた2021年6月の横浜F・マリノス戦の後半33分にFW林大地に代わって途中出場し、J1リーグ戦デビューを果たした直後にプロ契約を締結。さらに出場わずか1試合でヨーロッパへ戦いの舞台を移した。

 そして、ともにオーストリア2部のヴァッカー・インスブルックとザンクト・ペルテン、さらに両チームのセカンドチームなどでプレーした後の昨年6月に浦和へ完全移籍で加入した。J1リーグの上位クラブであり、FIFAクラブワールドカップ2025への出場権を獲得していた点も日本への復帰を後押しした。

 しかし、新天地で思うように出場機会を得られない。昨シーズンはリーグ戦で出場10試合、プレータイム227分にとどまる。7月20日の北海道コンサドーレ札幌戦で決めた初ゴールより、試合終了間際に犯したファウルで味方の得点が取り消され、直後に同点とされて引き分けたFC町田ゼルビア戦の印象のほうが強かった。

 チームメイトたちから厳しい言葉が向けられた町田戦後に、二田はこんな言葉を残している。

「本当に余計なファウルをしてしまった。自分のあのプレーで、ゲームを壊してしまいました」

 迎えた今シーズン。出場4試合、プレータイム16分とリーグ戦における数字をさらに悪化させた二田は、クラブワールドカップでもモンテレイ(メキシコ)とのグループステージ最終戦で後半36分から途中出場しただけに終わる。そして、開催国アメリカから帰国した直後に湘南への育成型期限付きが発表された。

 もっとも、浦和で苦難を味わった約1年間も二田はやんちゃぶりを失っていなかったと振り返る。

「浦和のときも、すごくいい雰囲気のなかでみんなとトレーニングを積んでいました。試合になかなか絡めなかった、というのが自分のなかでちょっとあれでしたけど、でもここ(湘南)ではまったく違うので」

 湘南ではリーグ戦で3試合に出場し、初先発した8月31日のガンバ大阪戦では前半13分に移籍後初ゴールとなる先制点をマーク。中2日で迎えた広島とのルヴァンカップ準々決勝第1戦では後半33分から途中出場し、前出したようにアディショナルタイムに決勝ゴールをもぎ取って殊勲のヒーローになった。

 しかもシュートを放ったのは利き足の右足でも、逆の左足でも、ましてや頭でもなかった。味方の小田裕太郎が放ったシュートが背中に当たってコースを変えて、相手キーパーのチョン・ミンギの逆を突く形でゴールに吸い込まれた珍しい一撃を、二田は「背中に目がついていた、と言いたいところですけど」と無邪気に笑う。

「正直、ちょっと何が起こったかわからなくて、慌ててボールの行方をたどったらゴールになっていました。裕太郎くんがシュートモーションに入るのが見えたのでそれを避けつつ、こぼれ球に詰めようと思っていたら自分の背中に当たりました。常日頃から僕が真面目にしているので、運よく当たってくれました。執念のゴールです。裕太郎くんに『ご飯を奢れよ』と言われたので『奢りません』と……嘘です。『奢ります』と言いました」

 二田が周囲を爆笑させれば、3月にスコットランドのハート・オブ・ミドロシアンから加入した小田も「かなりコースを外れたと思ったらアイツがおった。当たったのはケツ……背中か。とりあえず自分のアシストですね」と続いた。やんちゃぶりを発揮する2人の明るく、元気あふれる立ち居振る舞いが湘南を内側から盛り上げていく。

 リーグ戦に目を移せば、東京ヴェルディに勝利した5月11日の第16節を最後に、4分8敗と12試合連続で白星から遠ざかっている。その間に横浜FMに勝ち点25で並ばれ、得失点差で大きく後塵を拝する形でJ2降格圏となる18位へと後退。19位の横浜FCとの勝ち点差も2ポイントとなっている。

 夏の移籍期間にFW福田翔生、DF畑大雅、森保ジャパンでデビューを果たしたDF鈴木淳之介らの主力がヨーロッパへ移籍し、守護神の上福元直人が大怪我で登録を抹消された。二田に続いて小田も湘南でのリーグ戦初ゴールを決めた直近のG大阪戦では、退場者を出した末にホームで4-5と悪夢の逆転負けを喫した。

 下を向きかねない苦境が続くからこそ、二田のやんちゃぶりや明るさがさらに際立ってくる。

「試合に出られているいまは気持ち的にもすごく落ち着いていますし、やるべきプレーもはっきりしている。まずはゴールであり、そしてハードワークなどフォワードとしての仕事が求められているなかで、とにかく結果を残さなければいけない。自分も結果だけを追い求めてここにきたので、それがいまやっと、本当に少しずつですけどこうしてゴールという形になって、きょうは勝利にも貢献できた……かなと思っているので」

 背中で決めた決勝ゴールとあって、ちょっぴり苦笑した二田が見すえるのは、敵地・エディオンピースウイング広島で7日に行われるルヴァンカップ準々決勝第2戦だけではない。13日の鹿島アントラーズ戦から再開される残り10試合となったJ1リーグ戦で、湘南を残留に導く仕事もその脳裏にはっきりと描かれている。

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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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