W杯で勝ち進むヒントに 堂安律が示した真価…日本代表MFの本職DF並み守備力

フランクフルトの堂安律【写真:アフロ】
フランクフルトの堂安律【写真:アフロ】

堂安律のすべてが詰まった試合

 日本代表MF堂安律の説明書みたいな試合だった。ブンデスリーガ第2節、フランクフルトは堂安の2ゴール1アシストでホッフェンハイムに3-1で勝利した。

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 堂安は4-4-2システムの右サイドハーフで先発。前半17分には中央右寄りから左隅へ巻いていくシュートで先制点をゲット。このシュートは堂安の代名詞で、自信満々のコントロールショットだった。

 2点目は左からのロークロスを至近距離で叩いてのもの。シュート自体は難しくはないので、あの場所にいたことがすべてだ。カウンターで攻め込んだ時、堂安はまだ中盤にいた。しかし、左からクロスが入った時にはすでにペナルティエリア内へ入っている。得点の8割はペナルティエリア内の中央部からという統計のとおり、得点を量産するためにはボックス内にいることが非常に重要になる。

 シュートできる、という直感は大事。ただ、毎回チャンスになるわけではない。得点嗅覚とよく言われるが、それ以前にゴール前まで走っていなくてはならないわけで、その労を惜しまない意欲と体力が決定的だ。

 アシストは後半6分、対面のSBの裏のスペースへ走ってロングパスを呼び込むところから始まっている。足下でパスを受けてカットインのイメージが強い堂安だが、瞬間的にDFの逆をついて裏へ飛び出すのも上手い。右サイドの深い場所でボールに追いつくと、対面のDFに仕掛けながら左足のアウトで切り返し、すぐに足の間を通してラストパスを送った。

 点が取れてアシストもできる。ただ、それだけではなく、足を止めずに動き続けていた。フランクフルトは守備のタスクがはっきりしているチームで、攻撃面の派手さはないかわりに守備が実に堅実。いるべき人がいるべき場所にいない、というようなケースがあまりない。堂安もボールホルダーへしっかりとプレスし、味方をカバーするポジショニングを行い、プレスバックして圧力をかけていた。

堂安の良さがよく表れた一戦

 得点を生み出すアタッカーがハードワークする。堂安の真価はここにあるのだと思う。技術と創造性だけではなく、ハードワークだけでもない、両方でチームに貢献できる。また、堅実な戦いぶりのフランクフルトにとって、うってつけの選手といえる。

 終盤まで3-0だったこの試合でも、ホッフェンハイムを圧倒していたわけではない。ボールは持たれていたし攻め込まれてもいた。しかし、組織的に安定しているので守備が崩れず、奪ったボールを効率的につないでチャンスを作っていた。

 堂安が飛んできたライナー性のパスをワンタッチで前方の味方へつなぎ、そのまま走ってリターンを受け、決定的なスルーパスを出したシーンがあった。ワンタッチパスの連続でフィニッシュへ持っていった美しいカウンターは無駄を削ぎ落したフランクフルトらしい攻撃であり、堂安の良さがよく表れていた。

 日本代表の3-4-2-1システムでは右のウイングバックでプレーすることが多い。もう1つ前の方が堂安の持ち味は発揮しやすいのだがチームに貢献する術は知っている。

 W杯ではアジア予選のように攻撃できるわけではなく、勝ち進むほど守勢になるだろう。5バックで耐える時間帯もあるはず。その際にはウイングバックに守備的な選手を起用する手もあるが、堂安や三笘薫、伊東純也は意外と言っては失礼だが守備も強い。1対1に関しては本職のDFよりも耐性があるかもしれない。

 守備的にも攻撃的にもなる戦い方の幅は、日本がW杯で勝っていくための重要なテーマだと思うが、選手を代えるのではなく同じ選手が持っているプレーの幅で戦い方の変化を生み出すということもできるのではないか。そう思わされるほど、堂安をはじめ質の高い選手が揃っている。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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