クラブ初優勝試合で担架係→8年後にプロ 目指す本拠地ピッチ…デビュー戦で得た課題「今は複雑」

川崎DF神橋良汰は名古屋戦でプロデビュー
川崎フロンターレというクラブシーンの中で永遠に語り継がれるであろう光景がある。それは2017年の初優勝が決まった瞬間だ。
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クラブ悲願が成就された瞬間、中村憲剛は嬉し泣きの表情を浮かべ、等々力のピッチにうずくまっている。多くのサッカーファンの心に刻まれている場面だろう。
この初優勝は、他会場が引き分けに終わったことでもたらされたものでもあった。
そのため、スタジアムが大きく沸いたのは、オーロラビジョンに磐田対鹿島が0-0と表示された瞬間。それを確認してガッツポーズしているボールボーイが映り込んでいる試合映像も話題になった。ビブスを着用しているが、川崎フロンターレのジャージを着ているので、おそらく下部組織の選手たちなのだろう。
実はそのガッツポーズをしていた少年こそが、早稲田大学を経て、今季から川崎フロンターレに所属している神橋良汰なのである。当時はフロンターレU-15に所属しており、正確にはボールボーイではなく担架係だった。「身長の高い人はみんな担架をやるんです」と笑う彼は、あの初優勝の瞬間までの様子をこう振り返る。
「勝ったら、他会場の結果次第だったんですよね。(担架係の)自分たちはベンチが近かったので、コーチとかがそわそわしてていたんです。新井章太さんが『0-0だぞーー!』みたいに叫んで、長谷川竜也さんが点を取ってそのまま『優勝だ!わー!』ってなった」
他会場の結果を確認してガッツポーズをした記憶も、神橋の中では鮮明だ。
「覚えてますね。(オーロラビジョンを見て)本当に優勝なんだとあれで知ったんだと思います。でも、あんなにガッツポーズしてるとは思わなかった(笑)。あんなガキみたいな喜び方してるとは…恥ずかしかったです(笑)」
急遽となったプロデビュー戦
そんな神橋だが、J1第27節の名古屋グランパス戦で、待望のプロデビューを果たしている。前半12分、守備の要である丸山祐市が続行不可能となったことで、ベンチから呼ばれた。アクシデントによる緊急出場だったが、心の準備はできていたと神橋は振り返る。
「今まで試合に出れずに、すごく悔しい思いをしてきた。ここ2、3試合、ずっとベンチに入ってましたけど、自分が出場するときというのはパワープレーだったり、今日のように急遽出るようなシーンのどちらかかなって思ってました」
不安がなかったわけではない。だが、ピッチにかけ出していくと、先輩たちが自分に駆け寄り声をかけて、不安を取り除いてくれたのは心強かった。
「ピッチに入ってから先輩方が『自分のやりたいようにやっていい』とか『カバーするから自由にやって』という風に言ってくれたので、自分のやりやすい環境をみんなが作ってくれてました。そこで自分が中で落ち着いてやれたのは、すごく大きかったと思います」
後半の立ち上がりには、ヘディングでクリアしようとした場面で、キャスパー・ユンカーの右足スパイクの裏が顔面に直撃する事故にも見舞われた。相手は退場となったが、神橋は額の周辺から大流血。それでも頭部に包帯を巻き、血でにじんだユニフォームを着替え、ピッチに舞い戻るタフさを見せている。
ユンカーの退場後、数的有利になった川崎フロンターレはエリソンのゴールで勝ち越しに成功しているが、エリソンにボールを届けたのは、神橋による左足のロングフィードだった。
「ソウタくん(三浦颯太)にパス出してからリターンが弱くなってたので、ワンタッチではがすリスクよりは、背後にボールを落としてやろうと思いました。明確な狙いっていうのはなかったですけど、前線の選手はパワーありますし。あそこの空間に落としてあげれば、何か起こるかなっていうところで、ふんわりと蹴ったのが功を奏したのだと思います。そこは信頼して蹴った感じです」
チームは勝利も反省しきりの様子
ところが、その直後に痛恨の失点。警戒していたはずの永井謙佑に、高く設定していた最終ラインをロングボール一本で突破され、最後は和泉竜司に流し込まれた。プロのピッチで体感した J1屈指の韋駄天の快速。そこに対応できなかったことは反省材料だ。
「途中から永井選手が入ってきて、彼にやられた部分はたくさんありました。リスク管理、チャレンジ&カバーはアサヒくん(佐々木旭)とずっとコミュニケーションを取っていた中でも失点した。そこはもう1個、基準を高く設けないといけないなと思います」
試合は伊藤達哉の決勝弾で劇的勝利している。プロデビュー戦を白星で飾ったが、試合後のミックスゾーンでは反省しきりだった。プロデビュー戦をどう噛み締めているのか。それを尋ねると、複雑な気持ちだと話している。
「やっとデビューできた嬉しさだったり、デビュー戦を勝利で飾れましたが、落ち着いて自分のプレーを振り返ってみると、全然うまくいかないことの連続だった。そこはすごい悔しいですし、今は複雑な気持ちではあります」
決して満足していないが、ルーキーにとっては、大きな一歩になったはずだ。なお、流血した左のこめかみ付近の傷は、試合後に3針ほど縫ったのだという。
「試合中はアドレナリンが出まくってたんで大丈夫でした。でも、試合が終わってバスに乗った後ぐらいから、めちゃくちゃ痛かった(笑)。その日の夜に、ホテルで縫ってもらいました」
週末に控えるJ1第28節の町田ゼルビア戦は、ホームゲームとなる。つまり、Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsuでの一戦となる。言うまでもなくホームでの出場を熱望しており、「小さい頃から試合を見に行ってました。思い入れがすごくあるんです」と鼻息も荒い。
約8年前、担架係として初優勝を見届けた少年が、プロとして等々力のピッチに立つ試合になるかどうか。そんな視点で、このゲームを注目してみるのも面白いかもしれない。
(いしかわごう / Go Ishikawa)

いしかわごう
いしかわ・ごう/北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。





















