「勝てないと思った」3番手→正守護神へ大抜擢 先輩が見せた姿勢に感銘「自信持って臨めた」

1年生ながら序列を覆す活躍を見せた大下幸誠【写真:安藤隆人】
1年生ながら序列を覆す活躍を見せた大下幸誠【写真:安藤隆人】

鹿島ユースの1年生GK大下幸誠に脚光

 高校生たちにとって全国大会が終わったこれからが本当の夏を迎える。高体連はインターハイ、Jクラブユース選手権。覇権を手にしたチーム、志半ばで敗れたチーム、全国にたどり着けなかったチーム。それぞれの思いを抱えながら、全国各地のフェスティバルや合宿で夏以降の捲土重来を誓う選手たちの思いを描く『真夏の挑戦者』シリーズ。

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 第5回は日本クラブユース選手権で優勝を遂げ、プレミアリーグEASTでも前期1位で折り返した鹿島アントラーズユースの1年生GK大下幸誠について。昨年はU-15日本代表、今年はU-16日本代表に選出された期待の1年生守護神は、8月の和倉ユースサッカー大会(以下・和倉ユース)まで第3GKだったが、和倉ユースでその序列を一気に覆すような活躍を見せた。

「この大会に『チャレンジをする』ことをテーマとして持って臨みました」

 大下は和倉ユースに並々ならぬ覚悟で望んでいた。鹿島アントラーズつくばジュニアユースから年代別日本代表の看板を提げてユースに昇格をしてきたが、プレミアEAST前期では出番はゼロ。主戦場はセカンドチームとして戦っているプリンスリーグ関東2部だった。

 だが、そのプリンス関東2部でも前期9試合を戦って19失点でリーグ8位と低迷。「もっと失点が少ない、信頼されるGKにならないといけない」と責任を感じながら、さらなる成長を欲していた。

「他のGKの選手と同じことをしていても勝てないと思った」と、セービングの際の右足踏み込みの強化(大下は右利きで左足踏み込みの方が強い)や左右両足でのキックの精度の強化に取り組んだ。

 その努力が実り、日本クラブユース選手権では第3GKとしてメンバー入りするも、すでにグループリーグ突破を決めた第3戦のジュビロ磐田ユース戦でスタメンのチャンスを得た。

「ラッキーな形で出ることができた」と振り返るが、そこで「自分を出し尽くすと思って臨んだ」ことで、クリーンシートでの勝利に貢献。決勝トーナメントは正GKの菊田修斗が全試合フル出場をし、大下は全ての試合でベンチ外となってしまったが、中野洋司監督らスタッフの信頼を勝ち取るきっかけになった。

準々決勝・前橋育英戦でいきなりスタメンのチャンス

 そして和倉ユース。彼は大会前のオフ期間には徹底した走り込みと筋トレを行った。

「第3GKという形でクラブユースに関わることができたからこそ、より1年生のうちに第2、第1GKを目指したいという気持ちが強くなったので、より自分の足りないフィジカルやパワー、スピードを磨きたいと思って、オフ期間は一気に自分の身体を追い込みました。それまでの自主トレでやってきたのですが、リーグ戦期間だと試合に向けたコンディショニングが求められるので、そこまで追い込むことができなかったので」

 1分、1秒たりとも無駄にしたくない。強い信念で取り組み、和倉ユースを『序列を変える大会』と位置付けた。

「いつもより積極的に相手の裏を狙ったり、スピード感を持ってプレーしたりと、いつもよりもチャレンジすることをテーマにしました」

 グループリーグから決勝トーナメント初戦の山梨学院高戦までは菊田がゴールマウスの前に立ち、大下はトレーニングマッチに出場をしていた。

「トレーニングマッチで果敢にチャレンジしたら、自分が思っていた以上に成功するシーンが出せて自信になっていた」というタイミングの準々決勝・前橋育英戦でいきなりスタメンのチャンスが巡ってきた。

 するとこの試合で堂々たるプレーを披露。相手の決定機をビッグセーブで防ぐと、PK戦でもビッグセーブを見せて、チームを勝利に導いた。

 準決勝の履正社戦でもスタメン出場を果たすと、プリンス関西1位と好調の履正社の分厚い攻撃を前に、3本の1対1をビッグセーブ。後半23分には相手のパスが流れたボールをキャッチした瞬間に、相手が前がかりになっていることを見逃さずにダッシュから右手でロングスロー。左サイドハーフウェイラインをワンバウンドで超えたボールに反応したMF大貫琉偉がダイレクトで中央にクロス。ゴール前に飛び込んだFW正木裕翔がこれもダイレクトで蹴り込んだ。

 ビッグセーブだけではなく、テーマにしていたアグレッシブさ裏を狙う積極性を出しきる形で決勝点の起点にもなった。

先輩のサポート面に感銘

 そしてヴィッセル神戸U-18との決勝でもスタメン出場し、1-1からのPK戦では2本を完全に読み切ってセーブ。準優勝に終わったが、決勝トーナメント3試合でとてつもなく大きなインパクトを残した。

「大きな自信になりました。でも、ポジション修正だったり、もう1つ運び出せるところを運べなかったり、まだまだ足りない部分も痛感しました。特に決勝戦では試合の入りが良くない時に自分が何とかできなかった。もっとアグレッシブに行ったり、ハーフタイムで仲間に強く言ったりと、もっと雰囲気を盛り上げることができたら、ひっくり返して優勝することができたと思います」

 大きな自信ともう1つ、大切なものを大下は学んだ。

「僕も菊田さんが出ている時は盛り上げたり、チームの仕事をやったりしてサポートをしていたのですが、今回、菊田さんはそれ以上のことをやってくれていて、僕が気持ちよくピッチに立てるようにしてくれて、試合中に自信を持って臨めたことが大きかった。プレーだけではなく、もっとサポートの面でも自分のやれることを増やしていかないといけないと感じました」

 レギュラーを奪われる形になった3年生GK菊田の立ち振る舞いが、大下に人間的な成長のきっかけを与えてくれた。和倉ユースは彼にとって選手としても、人間としても大きなターニングポイントとなるに違いない。

「夏休みはまだ終わっていないので、そこでもっとひっくり返せるように、突き放していけるように自分と向き合って努力をしていきたいです。まだまだスタートラインに立ったに過ぎませんし、1年生だからとか関係なく、監督や周りが『第1GKはお前だ』と言ってもらえるようになりたいです。もちろん下の中学3年生の代にもいいGKがいるので、そこにも負けないように妥協せずに自分を鍛えていきたいです」

 燃え上がる夏、成長の夏。常勝軍団・鹿島ユースの激しい守護神争いが一気に熱を帯びていく。1年生の急成長によって―。

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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