“15億円”のストライカーが復活の兆し 30歳が持つ「見たことのない」特徴…英国でハマる理由

古橋亨梧はフランス1部スタッド・レンヌからイングランド2部バーミンガムに今夏移籍した
プレミアリーグに先駆けてイングランド2部リーグが開幕。岩田智輝、藤本寛也、古橋亨梧の日本人選手3人が所属するバーミンガム・シティは現地時間8月7日に開幕節を戦い、イプスウィッチと1-1で引き分けている。
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レンヌから加入した古橋は得点こそなかったが存在感を見せていた。前半7分には早くもゴールネットを揺らしたが、ファウルがあってノーゴール。ボールを処理しようとしていた相手DFの背中への、古橋の飛び掛かるようなコンタクトの仕方がファウルになったわけだが、身長差のある相手にも緩まず向かっていく俊敏な動きはヤマネコのようだった。
同22分、味方のドリブルに合わせていったん右へ膨らみながら、体勢をみてDFの目の前を横切りながらスルーパスを引き出してシュート。最初はDFの外へ開いてパスを引き出そうとしていたが、状況を見てすぐにアイデアを変えている。
後半6分にはジェイ・スタンフィールドの先制点を実質アシスト。バウンドしたボールをDFが処理する前に位置を入れ替えてDFより先に追いつき、GKの出際を見て右足を伸ばしてループシュート。これがポストに当たって跳ね返ってきたところをスタンフィールドが叩き込んだ。
古橋は後半32分にお役御免となり退いた。その後、ロスタイムにPKを決められて1-1となってしまったがホームのサポーターに強い印象を与えたに違いない。
さらに現地時間8月13日に行われたシェフィールド・ユナイテッドとのリーグカップ1回戦では、加入後初ゴールを記録。移籍金900万ユーロ(約15億5000万円)は30歳のストライカーには高すぎるのではないかとも言われていたが、それだけの価値を示していた。
古橋が印象的なのは、そのプレースタイルもあるだろう。とにかく速い、そして足を止めない。ペナルティエリアの中で、どの瞬間にもラストパスを受ける準備ができている。大柄でパワフルなストライカーを見慣れているイングランドのファンからすると、小柄でとびきり俊敏な古橋はあまり見たことのないタイプのストライカーだと思う。
以前、ある欧州人のコーチが「日本のチームはDFの腰くらいの高さのクロスボールを使うといい」と言っていた。長身頑健の欧州のCBにとって高いクロスはお手の物だが、腰くらいの速いボールは処理が難しいからだそうだ。小柄な日本人FWならヘディングで合わせられる、さらに俊敏性でDFの前に入れる、という理由だった。
古橋はセルティック時代にクロスボールに合わせてゴールを量産していた。高さではなく俊敏さで優っていた。瞬間的な速さだけでなく、その中でのシュートのアイデアと技術も素晴らしい。あまりいないタイプだけに守備側も対処が難しい。
日本代表のセンターフォワード候補としては、欧州人DFに当たり負けしないどころか、当たり勝ちできるパワフルな上田綺世がいて、スプリント能力と運動量が桁外れの前田大然がいる。そしてアジリティとシュートテクニックの古橋が復活しつつある。まさに三人三様で特徴が全く違うわけだが、相手によって使い分ける、あるいは途中交代で投入することでの効果が期待できそうだ。絶対的なストライカーでなくても相手との相性が良ければ優位に立てる。W杯での日本代表は絶対的な強者ではなく、相対的に上回ることが求められる。タイプの違うストライカーはその象徴になるかもしれない。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)

西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。




















