国ランクは低下も「興味深い」選択の26歳 70人超の欧州日本人から…識者厳選の“注目株”

欧州を舞台に戦う注目の日本人選手
イングランドのプレミアリーグやスペインのラ・リーガなど、欧州リーグが本格的にスタートする。ベルギーのジュピラーリーグやポルトガルのプリメイラ・リーガのように、すでにスタートしているリーグもあるが、欧州で戦う日本人選手たちにとって、来年の夏に行われる北中米W杯に向けたラストシーズンとなる。
【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!
8月13日に、記者陣の取材に応じた日本代表の名波浩コーチは「選手に対しての注文として、やってきてほしいことはある。出続けて、本大会を迎えてほしい。移籍先とかで苦しんでたり、スタメンで出られなくて苦しんでる選手もいる中で、それを代表の試合で発散する時代じゃない。今はそういう時代じゃないので、出続けた選手が称号を得られる。そういう選手たちにいいアプローチをしたい」と語った。
5大リーグを中心とした欧州の主要リーグだけでも、70人前後の日本人選手が在籍している現在。リーズをプレミアリーグ昇格に導いた田中碧やパルマの鈴木彩艶のように、昨シーズンと同じクラブで躍進を狙う選手もいれば、ドイツのボルシアMGからオランダの名門に移籍した板倉滉(アヤックス)など、新天地で新シーズンを迎える選手、E-1選手権の優勝メンバーで、すでに新天地で先発デビューした綱島悠斗(アントワープ)など、Jリーグから移籍してきた選手など、それぞれの置かれた環境で成長、飛躍を目指す。彼らの視界には日の丸があるはずだ。
本来、最大の注目株になる高井幸大(トッテナム)だが、500万ポンド(約10億円)もの移籍金で川崎フロンターレから加入が決まり、チーム合流して早々に、かかとの怪我で離脱。プレシーズンを棒に振ってしまった。プレミア開幕前に、EL王者としてUEFAスーパーカップでCL王者のパリ・サンジェルマンと対戦。惜しくもPK負けに終わったトッテナムはアルゼンチン代表クリスティアン・ロメロとオランダ代表ミッキー・ファン・デ・フェンという主力コンビに加えて、気鋭のオーストリア代表ケヴィン・ダンソなどが挑む構図が出来上がっている。
その競争から出遅れた高井が、序列を覆していけるのか。パリ戦でトーマス・フランク監督は3バックを採用し、ロメロ、ファン・デ・フェン、ダンソが並び立った。リーグ戦でも同システムを多くの試合で用いるプランであれば、高井や同じく怪我で出遅れたルーマニア代表ラドゥ・ドラグシンなど、センターバック陣のチャンスは拡大するが、フランク監督の判断次第では、より出場機会の見込める環境にレンタル移籍という選択が取られる可能性も残されている。
高井の他にも、この夏Jリーグから欧州に渡った選手は数多くいるが、いきなりドイツ1部でチャレンジする権利を得たMF川﨑颯太(マインツ)には、早期の活躍に期待が高まる。E-1選手権の参加を辞退して渡欧すると、プレシーズンでは初スタメンの試合で、見事な浮き球のスルーパスでアシストを記録。持ち味であるボックス・トゥ・ボックスの動きもアピールできている様子だ。マインツといえば佐野海舟が昨シーズンの1年間で、大きく評価を上げたことが記憶に新しい。川﨑は期限付き移籍での加入だが、完全移籍の買取オプションが付いていると伝えられる。
ボランチを本職とする二人だが、佐野がより守備的な役割を担うことで共存しており、中盤で並び立つことも多くなりそうだ。川﨑にとって森保ジャパンに名を連ねる佐野と普段からコンビを組めることは、W杯に向けたアピールの意味でも大きい。現在、フルメンバーの日本代表はキャプテンの遠藤航(リバプール)をはじめ守田英正(スポルティング)、田中碧、そして佐野という4人が競争をしており、そこにベルギーのシント=トロイデンからドイツ1部にステップアップした藤田譲瑠チマ(ザンクト・パウリ)も絡むハイレベルな構図となっている。もちろんベルギーの名門で主力に定着する伊藤敦樹(ヘント)なども、虎視眈々と代表復帰を狙っているだろう。川﨑としては守備能力を発揮しながら、佐野の助けを借りて、どんどんゴール前に関わる仕事をアピールしていきたい。
興味深い選択をした橋岡大樹
欧州の中で、新たな環境から森保ジャパンでの序列アップを目指す選手たちにも注目したい。その一人が、デンマークのブレンビーからドイツ1部に飛躍を遂げたMF鈴木唯人(フライブルク)だ。昨シーズンはリーグ戦だけで9得点をマークするなど、目に見える結果で評価を高めて、5大リーグ進出を果たした。堂安律が2100万ユーロ(約37億円)で、フライブルクから同じドイツ1部のフランクフルトに移籍したこともあり、その堂安に勝るとも劣らない活躍が期待される。
鈴木の特長は中央を突破して、シュートまで持ち込む打開力だ。それに加えて高い位置からボールを奪いに行く守備も身に付けており、ブンデスリーガで求められるスペックは十分に備えている。あとは周りとの関係性の中で、いかに継続してプレー強度を出していけるか。二列目のスペシャリストである鈴木は森保ジャパンでは堂安より、久保建英(レアル・ソシエダ)や南野拓実(モナコ)が直接的なライバルになってくるかもしれない。厳しい競争に打ち勝っていくためにも、主力として定着するだけでなく、ゴールやアシストの明確な数字が求められる。
興味深いところでは、イングランドから東欧のチェコに渡った橋岡大樹(スラヴィア・プラハ)にも注目していきたい。シント=トロイデンから2024年1月、当時プレミアリーグだったルートン・タウンに移籍した橋岡だが、チームはチャンピオンシップ(英国2部)に降格。昨シーズンは度重なる怪我にも悩まされて、出場試合も限られた中、さらにリーグ1(英国3部)降格を経験した。そんな26歳が新たな環境として選択したのが、昨季リーグ優勝を果たしたチェコの名門だ。
カントリーランキング9位のチェコリーグ(チャンス・リガ)というと、代表復帰に向けた道のりは険しいように見られるが、チャンピオンズリーグの本戦にストレートインできるのは大きい。リーグ戦はすでに開幕4節を消化しており、スラヴィアは3勝1分とまずまずのスタート。橋岡は3-4-3の右サイドで起用されるが、今のところ途中出場が続いている。ライバルはチェコ代表ダヴィド・ドゥゲラで、スタメン奪取は簡単ではないだろう。代表アピールに直結するのはチャンピオンズリーグになってくるが、リーグフェーズの初戦は9月中旬になる。その前に日本代表のアメリカ遠征があるだけに、早期に主力を勝ち取ることが期待される。
そのほか、ベルギーの名門アンデルレヒトから、シント=トロイデンに期限付き移籍した20歳のFW後藤啓介や京都サンガF.C.から久保の所属するスペイン1部のレアル・ソシエダに電撃加入した19歳の大型CB喜多壱也など、U-20代表世代の若い選手たちが、クラブと代表の両面で、どれだけ突き上げられるか。その一方でフランス2部に降格したスタッド・ランスから古巣のベルギー1部ゲンクに復帰した伊東純也など、日本代表の主力選手たちがいかに良い流れを来年夏のW杯に持っていけるか。5大リーグなど、多くのリーグは9月1日まで移籍期間が残されており、ここから日本人選手の移籍があるかもしれないが、まずは開幕数試合に注目だ。

河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。




















