震災で亡くなった”未来のなでしこ”「サインが宝物」 新聞読んで即連絡…14年間続く家族との絆

喜ぶ顔が見たくて 「自分のサインでよかったら」優しい心遣いとサービス精神
現役最年長WEリーガー、ちふれASエルフェン埼玉のFW荒川恵理子。トレードマークのボンバーヘアで老若男女問わず大人気だ。熱心なファンサービスで知られ、時間が許す限り丁寧な対応をしている。おなじみのヘアスタイルを維持するだけでも大変だというエピソードなど、「FOOTBALL ZONE」が独占インタビューした(取材・文=砂坂 美紀/全4回の4回目)
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荒川恵理子のサインは特徴的だ。愛称の「がんちゃん」を英字にしたganと書き、ひときわ大きな「g」の上の丸の中には、スマイルが描かれている。熱心なファンサービスを行う荒川はこれまで数えきれないほどのサインを書いてきた。小さな子供からお年寄りまで、嬉しそうに手にしているのをもう何度も目撃している。
「自分のサインで喜んでもらえるんだったら、いくらでも書きますよ」とこれからも、できる限りファンサービスを行うと胸を張る。荒川のサインから始まったストーリーは、現役生活28年分いくつもある。このサービス精神が女子サッカーの発展に大きく寄与してきたと言える。
現在活躍しているWEリーガーも少女時代に、荒川からサインをもらって、プロサッカー選手になるという夢をかなえたという話は枚挙にいとまがない。なでしこジャパンで活躍した鮫島彩さんも荒川ら往年の女子サッカー選手たちのサインを大切に飾って、日々の練習に励んできたという。
岩手県陸前高田市の小山史織さんもその一人だった。大船渡高2年生で、国体メンバーとして岩手県選抜となり、10番をつけたこともある有望選手。小学6年生のときに年代別選抜チームで訪れていた、福島県のJヴィレッジで一緒になった荒川からもらったサインが宝物だったという。2011年3月11日、東日本大震災の避難中に津波にのまれて17歳という短い生涯を終えたというスポーツ新聞の一面になった記事を読んで、居てもたってもいられなくなった。
「『未来のなでしこ死す』という見出しの記事を読んでいたら、『荒川恵理子のサインが宝物だった』という文字を見て、とにかく何かをしたくて。記事を書いたスポーツ新聞社の方に連絡をとりました。記者さんが『連絡をしてあげたら喜ぶと思いますよ』と間に入ってくださって。つらい思いをしている時期に、どう声をかけていいのかと迷いながら、1か月後に史織ちゃんのご家族とお電話をして、やりとりをさせてもらうことができました」
そして、お悔やみの手紙をしたため、当時所属していた浦和レッズレディースのユニフォームにサインを入れて花とともに贈った。それから14年間、母の小山悦子さんやご家族と交流を続けている。荒川は毎年3月11日には花を贈り、折を見て実家のラーメン店の餃子を送っていた。小山さんからは地元のサンマを頂くなど、関係を絶やさなかった。ときには電話で励ましをもらうこともあり、荒川は感謝の気持ちでいっぱいだったという。
「ドイツW杯には怪我をして行けなかったぶん、ロンドンオリンピックで活躍する姿を見せたかったのですが……。(代表メンバーに)落選した時にも電話しました。『行けなくて本当にすみません』と言ったら、『元気でサッカーをやっている、それだけで素晴らしいことですよ。現役で続けてくれることだけでも』って返してくれて。その言葉に救われたし、逆に元気づけられました。また頑張ろうという気持ちにさせていただきました」

東日本大震災で亡くなった高校生の家族と14年間交流を続け 先日墓前で手を合わせた
小山さんとは、文通や電話での交流が主だったが、ついに今年6月に史織さんの墓前で手を合わせることができた。昨年入社した、木村鉄筋工業株式会社の木村大一社長の運転する車で、チームメイトのDF佐久間未稀と3人で向かった。道中、福島県南相馬市で植樹のボランティア活動にも参加し、史織さんのご家族の元を訪れた。
「もし生きていたら30歳以上になっている史織ちゃんの成長を想像する、ご家族の気持ちを聞き、震災当時のお話を伺うと、涙が止まりませんでした。『今シーズンは試合を観に行きたい』という史織ちゃんのご家族のためにも、頑張りたいですね」
ボンバーヘア歴21年 1回4時間半、3か月おきに美容院へ
一目で荒川と分かるヘアスタイルでプレーして、スタジアムに訪れた人を楽しませている。2004年のアテネ五輪前に始めたボンバーヘアにしてから、21年が経った。
「これ、1回4時間半ぐらいかかるんですよ。3か月に1度は美容院に行ってキープしています。最近、髪がちょっと薄くなってきた気がして……(笑)。美容師さんには『こんなに長くやっていたらもっと薄くなりますよ。荒川さんは頭皮が強い方ですね』と言われていて。完全にやめどきを失っています(笑)」
やはり最近は、ファンからも年齢について言われることが多くなった。
「別に45歳だからなんかすごいとかじゃなくて、普通にサッカーをやっている1人なんで」
そう言って、荒川はニコリと笑った。全身の鍛え上げられた筋肉は、その努力とチーム髄一の身体能力の高さを物語っている。今シーズンも変わらず、サポーターの大きな声援を背に、おなじみのボンバーヘアでピッチを駆けていく。
(砂坂美紀 / Miki Sunasaka)




















