初の公式戦が日本代表…前例なき17歳「断然伸びている」 男子サッカー部に女性部員が飛び込んだ理由

男子サッカー部の中でプレーする小泉恵奈(左)【写真提供:AIE国際高校サッカー部】
男子サッカー部の中でプレーする小泉恵奈(左)【写真提供:AIE国際高校サッカー部】

小泉恵奈はAIE国際高校の男子サッカー部の一員として活動してきた

 なでしこジャパンに新しい歴史が刻まれた。6月にU-17女子日本代表に選出され、米国との親善試合にスタメン出場した小泉恵奈は、AIE国際高校サッカー部に所属している。ところが同校に女子サッカー部はなく、入学以降小泉は唯一の女性部員として活動して来た。結局、高校生の小泉が初めて臨んだ女子の公式戦が、日の丸をつけた国際試合だったわけだ。

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

 3歳から叔父の勧めでボールを蹴り始めた小泉は、中学に進学するとWEリーグ「ノジマステラ神奈川相模原」のジュニアユース(U-15)に進むが、レギュラーには定着し切れずユース(Uー18)への昇格を逃した。だが中学生当時で170㎝のサイズ(現在172㎝)があり、駿足のレフティーである。とりわけ女子での希少価値は明白だった。中学時代の小泉自身は「あまり上手くなかったので試合に出られないことは受け入れていた」と振り返るが、現在AIE国際高校の総監督を務める上船利徳は一見して大きなポテンシャルを感じ「プロになりたいならウチに来た方が上手くなれるよ」と口説いた。

 女子でも小学生までなら男子と一緒に活動するのも珍しくない。例えば岩渕真奈などは、当該年度では女子ではただひとり小学生の東京トレセンに選出されていた。しかし中学生以降は、男女間のフィジカル格差が一気に広がっていく。例えば男女の100mの日本記録を比較しても、小学生年代は0秒69差だが、中学生年代では1秒11、高校生になると1秒43の差がついている。これだけのフィジカル格差の中で、女子選手が力を発揮するのは至難の業だ。

 それでもプロの夢を追い続けるために、小泉は敢えて前例のない、一見無謀なチャレンジを自ら選択した。男子サッカー部に女子がひとりで入部するのだから両親の心労も想像に難くないが、母は「恵奈が自分で選んだ道なら全力で応援するよ」と背中を押してくれた。
 
 ただしAIE国際のサッカー部は、全員がプロになることを目標に掲げた集団である。同校では「淡路プレミアリーグ」と称して、いくつものチーム編成をして部内リーグを続けているが「最初は、あまり試合に絡めない選手たちだけを集めた試合でも厳しかった」(上船総監督)という。小泉自身も、自分のところでやられて「なにやってんだよ!」などと言われると、いたたまれなくなり何度も心が折れかかった。

「せっかくレフティーなのに、サイド攻撃の練習をしてもクロスがことごとく逸れてしまい、そのままゴールキックに変わってしまう。最初の頃は、練習にならないので外れるように言ったこともあります」(同監督)

 しかし個々が必死で女子相手でも遠慮なしの過酷な環境は、小泉の成長を加速させた。

「中学時代まではボールを持っても判断が遅くて奪われてしまうことが多かったんですが、男子の速いプレッシャーの中でプレーすることで改善されたと思います」

 また現役のなでしこジャパンの選手にもキック指導の経験を持つ上船が「的確にポイントを指摘してくれて、中学生時代に比べて蹴る量も飛躍的に増えた」(小泉)ことで、今ではサイドチェンジはもちろん、CKまで託せるレベルまで到達。AIE国際は、夏のインターハイ兵庫県予選で決勝まで進んだが、そのチームとの紅白戦では元Jリーガーの大武峻(名古屋などで活躍・現同校ロールモデルコーチ)とCBのコンビを組んで対戦した。

 改めて約2年半の男子サッカー部での活動を経て、小泉自身も「小中高の3段階を比べたら、高校が断然伸びている」と実感。米国との親善試合でも「相手のスピードやプレスが遅く感じた」という。一方で男子の中でプレーして来たため、スペースへ蹴るロングフィードが長過ぎるケースもあり「主導権を握る攻撃的なパスサッカーのビルドアップに慣れる」課題が見つかった。むしろ「卒業までには、もっと上手くなりますよ」と、上船総監督も新たな伸びしろを発見して一層期待を膨らませている。

 現在小泉には、国内外のクラブから練習参加の依頼が押し寄せている。もちろん、小泉の特性を見極め適切な指導を施したのも成功の要因だろうが、いずれにしても女子選手の育成では世界でも稀有な先駆的試みで、一石を投じたことは間違いない。

 同校には来春女子サッカー部が誕生するが、「男子の中で鍛える」指針は継続していくそうである。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



page 1/1

加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング