「突然でした」 最年長WEリーガーに訪れた“その時”…アマチュア契約でも現役を続ける理由

ちふれASエルフェン埼玉の荒川恵理子【写真:砂坂美紀】
ちふれASエルフェン埼玉の荒川恵理子【写真:砂坂美紀】

サッカーが理論的に分かったのは30歳を超えてから

 元なでしこジャパンの荒川恵理子は、ちふれASエルフェン埼玉の選手としてプレーを続けている。現役生活29年目のシーズンを迎える前に、「FOOTBALL ZONE」が独占インタビューを行った。第3回は、身につけた技術力とアマチュア契約でも選手を続ける理由を語った。(取材・文=砂坂美紀/全4回の3回目)

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 1997年にL・リーグ(当時の日本女子サッカーリーグの愛称)デビューを果たしてから28年が経つ。なでしこリーグ時代からWEリーグ、アメリカでもプレーするなど多彩な経験がある。

「28年の重みをあんまり感じていないんです。そんなに長くやっているのかなって。結構いろんなチームを渡り歩いてきて、経験もいっぱいあるけど、その時々の選択でここまできている感じです」

 サッカーが理論的に分かるようになったのは、30歳を超えてからだという。

「最初は感覚でサッカーをやっていました。17歳で(読売西友)ベレーザに昇格してからは、ボールをもらうオフザボールの動きも全然できなくて。20代のころは、(当時の)松田(岳夫)監督が言っていることも理解できなくて、何をやっても怒られてしまっていました。『ボールを受けろ!』って言われて、もらいに行くと『邪魔だよ!』といわれ、『裏に抜けろ!』と怒られていました……全然理解できなくて。ベレーザでは勝つことはもちろんですが、内容も求められていたので、思うようにプレーできないこともありました」

 ベレーザの理論的なサッカーについていくのが精いっぱいだった時期もあった。それでも、2009年に29歳でアメリカのFCゴールド・プライドに移籍し、アメリカ代表のレジェンド選手のブランディ・チャステイン、ティファニー・ミルブレットらとともにプレーすることで、技術の引き出しを増やしていった。

 そして、いきなりその時はやってきた。「突然、ベレーザで松田監督に言われていたことが急に理解できるようになりました。そこからは、さらにサッカーが楽しくなりました」。30歳を超えて、浦和レッズレディースでプレーしていたときのことだ。

 身体能力と得点感覚に優れた荒川が円熟味を増して、プレーを続けられる理由がここにある。若い頃のようなワイルドなプレーに加えて身につけた“巧みさ”だ。自ら仕掛けてゴールを狙うかと思えば、タイミング良く裏に抜けてGKと1対1を作り出すプレーで得点を挙げる。相手DFとの一瞬の駆け引きで、逆を取る動きはさすがだ。

 かつてベレーザで求められたオフザボールの動きである。

 さらに積み上げたものがある。2013年にちふれASエルフェン埼玉の指揮官に就いた松田監督に再び指導を受けたときに言われたことで、気づいたことがあった。

「松田監督に『フルコートのゲームは上手くなったけど、ミニゲームは下手になった』と言われて、ハッとしました。元々細かな局面が連続するミニゲームの感覚を大事にしていました。フルコートのボールを受ける動きを褒めてもらえたのはすごく嬉しかったのですが、ミニゲーム的な局面で打開する感覚を忘れずに、どちらも意識を高めるようにしました。それは今でも自分の中で大切にしています」

 オフザボールの動きや巧みさ、DFを背負ってもボールを収められる力強さが、今でも武器になっている。向上心の高い荒川は成長を続けている。

「サッカーが理論的に分かったからこそ、今も試合に出続けたいと思っています」

昨季の試合後にチームメイトと所属会社「木村鉄筋工業株式会社」のバナー前で記念写真【写真提供:ちふれASエルフェン埼玉】
昨季の試合後にチームメイトと所属会社「木村鉄筋工業株式会社」のバナー前で記念写真【写真提供:ちふれASエルフェン埼玉】

木村鉄筋工業株式会社に入社 2シーズン前からアマチュア契約でプレー

 2024年7月に木村鉄筋工業株式会社のアスリート社員になり、現在はアマチュア契約でプレーしている。かつて、スーパーマーケットでレジ打ちを18年間続けていたことがあるが、45歳の今は身体のケアやトレーニングに時間をかけなければならない。「がんちゃん(荒川の愛称)は、エルフェンにとって大切な選手だから」という、木村大一社長の計らいで、プロ同然の扱いで入社することができたことに、荒川は感謝の気持ちでいる。

「木村社長はじめ、会社のみなさんに元気にプレーして活躍する姿を見てもらって、恩返ししたいなと思っています」と、荒川は力強く語る。

WEリーグで迎える29シーズン目、8月10日に初戦を迎える。多くの支えがあってこそ、積み上げたサッカーの技術を披露することができる喜びを、心からかみしめていた。(第4回に続く)

(砂坂美紀 / Miki Sunasaka)



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