森保J「守備の不安は1つ解決」の訳 ボランチに新ピース…181cmレフティーが三笘&中村への好材料

町田の中山雄太【写真:徳原隆元】
町田の中山雄太【写真:徳原隆元】

MF出身の中山雄太がボランチとしてプレー

 FC町田ゼルビアは8月6日に開催された天皇杯ラウンド16で京都サンガを1-0で下した。この勝利はクラブ初のベスト8進出をもたらしたのと同時に、選手起用の問題解決をもたらすものだった。

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 これまで町田のボランチは、白崎凌兵、下田北斗、仙頭啓矢、前寛之の4人のうちの2人の組み合わせだった。だが白崎は32歳、下田は33歳、仙頭と前は30歳と高年齢化が進んでいる。京都戦では前と28歳の中山雄太のコンビが起用されたのだ。

 中山についてキャプテンの昌子源は高い評価を下した。

「あそこ(ボランチの位置)でヘディングに勝つのは大きい。僕たち後ろ(の選手)も崩れなくすむ。最後にCKを取られたシーンも、僕と菊池流帆が一緒に競りに行って、僕が抑えて流帆が勝ったが、ちょっとバランス崩すと僕と流帆の2人が一気に(ゴール前から)いなくなるので、あそこでボランチの選手が競っているというのは大きい。あとは僕たち(守備陣)がチャレンジしても、そこに雄太がカバーに入る。(だから自分たちが)迷わず強くいける」

 中山自身は去年もボランチで出場したことがある、といつもどおり淡々と試合を振り返った。

「修正力という点では、試合の中で変えられる力について、今日手応えもありますし、自分としてはゲームマネージメントもできた、収穫のある試合だったと思います。前半は町田のまた違った攻撃のパターンを見せられました」

「他のボランチ陣よりもヘディングが強いのは自信があるので、そこは必ず勝たなければいけない、違いを見せなければいけないって部分はあります。それで結果としてうしろが助かったり、今日の京都の前線にボールが入りにくいと感じてくれたりしたら良かったと思います」

 今シーズンの中山は開幕から左のウイングバックとして活躍。左のインサイドハーフとしてプレーを引っ張る相馬勇紀とともに日本代表としての風格を見せていた。しかし5月7日のホーム・京都戦で負傷し途中交代。そしてこの天皇杯の京都戦でフル出場して復活をアピールした。

 元々はMFだった中山が強度の高い、そして長身選手が多い京都を相手にボランチでプレーし、結果を残したことは日本代表にとっても好材料となる。

 日本代表のボランチとしてよく起用されている選手は、遠藤航178センチ、守田英正177センチ、田中碧180センチ、佐野海舟176センチなどだ。

中山をボランチに置く利点…ポリバレントな28歳がもたらす守備の強化

 森保監督はE-1選手権で3試合とも望月ヘンリー海輝を起用したことで明らかなように、現在、守備のときに両アウトサイド、あるいは両SBに長身の選手を起用し、相手のクロスをカットさせようとしている。しかし181センチの中山を起用することで、その前でカットできる可能性も上がるのだ。

 さらにボランチに左利きの選手が加わることになる。日本の大きな武器である三笘薫や中村敬斗へのパスの供給を右足のインフロントで出すと、どうしても相手の右足側に流れてしまう。しかし左足のインフロントで出せば受け手の左足に付けやすくなり、右足で出すパスに比べて相手ゴール方向に身体の向きを作りやすくなるのだ。

 しかも中山は左のウイングバックとしても、左のセンターバックとしてもプレーできる。このポリバレントぶりは他の選手にはない特長だ。たとえば冨安健洋は2019年UAEアジアカップの初戦でボランチとして起用されたが、本人が試合後に「もうボランチはないと思います」と言っていたとおり、センターバックあるいはサイドバックとしてだけ起用されている。もっとも冨安の場合はそのレベルが高いので、万全な状態なら最終ラインから外せないという事情もあるのだが。

 2022年カタール・ワールドカップでは11月1日に選出されながら、11月2日の試合でアキレス腱を断裂し、本大会出場はならなかった。しかし本人は「いい未来が来ないかもしれないけど、信じてやり続けることは無駄じゃない」「乗り越えるチャンスは強くなるチャンス」と努力を続けてきた。

 もちろん1試合でうまく行ったからといっても、まだまだ進歩しなければならない部分はあるだろう。この日はバランサーとしての役割を意識したため、後半は守備に重点を置いたが、前半の攻撃に絡んだとき得点が取れるような動きがあっても良かった。日本代表のライバルたちはその攻撃力が高いのだ。

 しかし、町田のチーム事情の中でボランチを務めることになったのは、中山にとって幸いだった。この調子でプレーを続けていくことで、森保監督の守備の不安は一つ解決されるに違いない。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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