滝川第二のMF北村勇貴に脚光

　7月26日から福島県で開催されているインターハイ男子サッカー。全国の予選を突破した51校が真夏の王者の栄冠をかけて激しく火花を散らすこの大会で、躍動を見せながらも、志半ばで「敗れし者たち」をピックアップしていく。

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　第7回は３回戦でプレミアリーグWESTに所属する帝京長岡に2-3の惜敗を喫した滝川第二のMF北村勇貴について。2年生ながらナンバー10を託された男はひたすらゴールに飢えていた。

「県予選では1点しか取れなかった。しかも強豪私立ではなく、県立高からの1点だったので、何がなんでも全国でゴールを決めて爪痕を残そうと強く思っていました」

　この決意が大暴れにつながった。１回戦の帝京大可児戦、右サイドハーフに入った北村は3分、3年生エースストライカーの空久保善がハーフライン付近からドリブル突破を仕掛けると、すかさず右ワイドに張り出してスペースを開けた。

　そこに空久保からパスが来ると、「最初は得意の縦突破を仕掛けてクロスを狙おうとしたのですが、善くんから『中！』と叫び声が聞こえたので見たら、良いタイミングで動き出しているのが見えたのでスルーパスに切り替えました」と、ファーストタッチから一瞬でプレー判断を変えて、ワンツーと思うほどのスピードで空久保へラストパスを通した。

　完全に抜け出した空久保が先制点を決めて、1アシストを記録すると、その2分後の5分に今後は自身にビッグチャンスが巡ってきた。左からのクロスに対してマイナスの位置から飛び込んだが、クロスは流れて右サイドへ。その瞬間、「相手GKとDFがボールウオッチャーになっていて、ファーサイドのスペースがポッカリ空いていたので、ファーに止まることにしました」と瞬時に状況を察知してポジショニングを取ると、そこに右からのクロスが届いた。

「あまりにも良いボールが来たので驚いたのですが、決める一心で蹴り込みました」と、ワントラップから冷静にゴールを射抜き、全国大会初ゴールをマークした。さらに3-2で迎えた45分（35分ハーフ）にもFW坂田淳哉のスルーパスに抜け出して2点目をマーク。2ゴール1アシストの活躍で、6-3の乱打戦勝利の立役者となった。

「昨年の選手権でも2回戦の東北学院高戦で全国初出場をスタメンで果たすという大きなチャンスをもらったにもかかわらず、ノーゴールで前半終了で交代。不甲斐なかったし、悔しかったので、念願の全国大会で点を取れたことは物凄く嬉しいです」

名門復活へ本格的に挑んでいる

　素直に喜びを表現した北村は、続く2回戦の鹿島学園戦でもMF南壮一郎のクロスに飛び込んで先制点をマーク。その後、接戦となり2-2からのPK戦の末に勝利を収めたが、10番の2戦連発はチームに勢いをもたらした。

　そして迎えた3回戦、相手はプレミアリーグWESTに所属する帝京長岡。前半は「相手はプレスで押し込めたと思っても、簡単にボールを下げずにターンをして前につけてきたりした。それに対応できずに守備に回ることが多かった」（北村）と、相手の技術、スピード、強度に圧倒されて前半だけで3点のリードを許した。

　しかし、「このままでは絶対に終われないと思った」と後半に入ると北村は右サイドで得意の縦へのドリブル突破と精度の高いクロスを見せて、徐々に攻撃のリズムを作り出して行った。

　44分には北村の突破からのクロスをMF米田空眞に届けて、決定的なシュートを引き出した。このこぼれを空久保が押し込んで1点を返すと、70分には猛攻からPKを獲得して1点差まで詰め寄った。だが、3失点はあまりにも重く、追いつけぬまま2-3の敗戦。決意の大会は3回戦で幕を閉じた。

「3ゴールを奪えたことは良かったのですが、滝二の10番としてはまだまだ物足りない出来でした。10番を背負っている者としての存在感が全然足りていない。結果を出して注目をしてもらえたからこそ、より感じます」

　滝川第二といえば選手権優勝1回、3位が3回を誇り、日本代表の元エースストライカーの岡崎慎司、DF加地亮と2人のW杯戦士を輩出し、多くのJリーガーだけではなく、小菊昭雄、吉田孝行など多くの監督も輩出してきた名門中の名門だ。

　近年は全国から遠ざかる時期もあったが、昨年からOBであり、岡崎の代など全盛期と言える時代に長くコーチを務めていた小森康宏監督が就任すると、「強い滝二を取り戻す」を合言葉に名門復活へ本格的に挑み、昨年度の選手権では全盛期時代のユニフォームを復刻した。

「僕は地元出身なので、僕が知っている岡崎慎司さんが着ていたユニフォームになったので、本当に嬉しかったし、かっこいいなと思いました。そうしたら今年はまさか10番をもらえるなんて思ってもみなかったので、渡された時は物凄く重かった。広げて見ても、かっこいいだけでなく、伝統の重みを本当に感じました」

　10番はチームを勝利に導く存在。ベスト16ではまだ「名門復活」とは言えないということを理解しているからこそ、彼はよりゴールへの渇望を増した状態で、これからのプリンスリーグ関西2部、選手権と走り出した。

「帝京長岡にプレミアの基準を示され増した。中盤での強度とか、囲い込んだ後の上手さは相手の方が圧倒的に上で、技術的に大きな差があると思いました。今日の経験を基準にして、もっと技術を磨いていきたい。まずはプリンス関西1部昇格、選手権と活躍をして、来年はより圧倒的な存在感を出せるように自信を積み重ねていきたいと思います」