名指しで「もっと決めないとダメだ」 欧州挑戦の日本代表FW…胸に刻んだ恩師の言葉

セルティックに移籍した山田新【写真:ZUMA Press/アフロ】
セルティックに移籍した山田新【写真:ZUMA Press/アフロ】

FW山田新は川崎からセルティックへと移籍した

 この夏、高井幸大に続き、川崎フロンターレから欧州挑戦を果たした選手がいる。スコットランド・プレミアリーグの名門セルティックに加入した山田新だ。すでにプレシーズンマッチに出場しており、現地でも高い評価を受けているようである。

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

 この7月、EAFF E-1選手権で日本代表デビューを飾ったストライカーは、大会後に海外移籍を前提にクラブを離れることを発表。代表から帰国した日に開催された天皇杯3回戦の試合後には退団セレモニーも行われた。

 そのときの囲み取材でのこと。移籍を決断したタイミングを問われた山田は「鹿島の時はもう決まっていたので」と明かしている。

「鹿島の時」とは、5日のJ1リーグ第23節・鹿島アントラーズ戦のことである。2-1で逆転勝利を収めた試合に、山田はフル出場を果たしている。イングランド・プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーに完全移籍をした高井のラストマッチとして注目されたが、山田にとってもラストマッチだったのである。

 言われてみると、気になる光景が試合後にあった。それは、テレビ取材を終えた山田がペン記者のいるミックスゾーンを通る前に、旧知のスタッフと談笑していた鹿島の鬼木達監督のもとに一目散に向かっていた姿だ。

 鬼木監督は昨シーズンまで川崎を指揮しており、いわば、山田の恩師の一人。ただし、そこで話す様子は、笑顔を交えながらではあったが、再会の挨拶や談笑といった雰囲気ではないようにも見えたからである。想像していた以上に長い時間、真剣に話し込んでいたのである。

 その後、記者の待つミックスゾーンに現れた。霧が晴れたようにどこかすっきりとした表情が印象的だ。そして恩師との交わした会話をこう明かしている。

「オニさんはメンタルのところを心配してくれました。今季の自分はなかなか納得いく結果を出せていない部分がある。そんな自分をオニさんはすごく理解してくれているし、選手のことがすごく見えている監督。僕が意外と繊細なところがあるのを分かっていて、そこを突いてきました(笑)」

 今季の山田は21試合に出場するも、2点と苦しんでいた。そこでメンタル面も含めたアドバイスを受けたのだという。いま振り返ってみると、欧州挑戦の報告をした上で、エールをもらっていたのかもしれない。

恩師から名指しで「もっと練習から決めないとダメだ」

 実は山田新と鬼木監督には、こんなエピソードがある。

 それは昨年の同じ鹿島戦(第35節)でのこと。この試合の後半に巡ってきた決定機を連続して外し続けた山田は天を仰いでいた。1-3で敗れたが、そのうちの1つでも決まっていれば、勝敗の行方が変わっていたかもしれないと思えるようなチャンスもあった。

 自分が決めていれば違う試合になっていたと、試合後はうなだれている。というのも、この鹿島戦に向けた練習後、締めの挨拶の際に鬼木監督から名指しで「新、お前はもっと練習から決めないとダメだ」と指摘されていたからでもあった。実際にその流れがあっての決定機逸脱だったために、山田はいつも以上に重く受け止めていたのだ。

 ただ幸いにも、その鹿島戦からすぐに試合がやってきた。4日後にACLエリートの上海海港戦が控えていたのだ。

 その前日会見で、鬼木監督と共に出席した選手は山田だった。会見前に、何気なく指揮官と会話していた際にこう言われた。

「これからストライカーとして生きていくなら、外からのプレッシャーもあるし、味方や監督からのプレッシャーもある。それを抱えて生きていかないといけない」

 深い言葉だった。この時点で鬼木監督はすでに川崎の退任を発表していた。つまり、翌年は川崎にいないことが決まっている。にもかかわらず、山田の未来に期待してそんなアドバイスをくれたのだ。

 それが山田新の心に響いたのはいうまでもない。続く京都サンガF.C.戦では、後ろからファウル覚悟で必死に止めようとするディフェンダーを振り切り、そのままゴールネットにねじ込む得点を披露した。ストライカーらしいゴールへの執念を見せたのだ。

 その後の東京ヴェルディ戦では自身初のハットトリックを達成。去年はリーグ戦19得点で、ジャーメイン良と並び日本人得点王に輝いている。その結果が、今回のE-1選手権での日本代表選出にもつながったと見られている。だからこそ、日本での最後の試合で鬼木監督と対戦できたこと、鹿島戦後にアドバイスをもらえたことは心強かったに違いない。最後に「オニさんのためにも頑張ろう」と口にしている。

「本当に期待してくれているし、力になります。お世話になった人なので、オニさんのためにも頑張ろうという気持ちになりました」

 そして天皇杯終了後、渡航前の最後の囲み取材。山田は悔しさを原動力に邁進してきた人生だと自身を語った。

「タイトルももっと取りたかったですし、ACLも含めて悔しいことの方が多かった。今もそうですし。悔しい思いです。でも基本的に、サッカー人生では悔しいことしか残っていない。嬉しいことももちろんありますけど。それが力になっているし、原動力になっている」

 現在はすでにセルティックのユニフォームに袖を通し、プレシーズンマッチでアピール中だ。Jリーグでは今季2得点に終わった。そんな悔しさもエネルギーにしながら、欧州の舞台で暴れてくれるに違いない。

(いしかわごう / Go Ishikawa)



page 1/1

いしかわごう

いしかわ・ごう/北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング