リーグ最多の「163」回…攻撃的MFからアンカーへの転機 長谷川唯を支える“未来予測能力”

リーグ最多の163回のボール奪取を記録 「守備面でも力を発揮できている」
2027年のブラジル女子W杯で2度目の優勝を目指すなでしこジャパンの心臓であるMF長谷川唯。所属するイングランド女子1部マンチェスター・シティでは昨季、リーグナンバーワンのボール奪取能力と的確な配球で攻守に渡ってチームを牽引してきたことが評価され、クラブ年間最優秀選手に選ばれた。身長157センチと小柄だが当たり負けしない強靭な体と、昨季公式戦38試合すべてに出場したタフネスさの原点はどこにあるのか。新シーズンに向けて行った「FOOTBALL ZONE」の独占インタビューでその秘密を明かした。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・砂坂美紀/全4回の2回目)
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小柄な体のどこに、そんなタフさが詰まっているのだろうか。長谷川唯を見ていると、そんな疑問が頭をよぎる。身長157センチ。なでしこジャパンの中にいても決して高くない。むしろ小さいほうだ。にもかかわらず、世界を見渡してもトップクラスのボール奪取能力とデュエルの強さを誇る。
所属のマンチェスター・シティは昨季、優勝を期待されながら主力選手の離脱が相次いで、リーグ4位でシーズンを終えた。その中で長谷川自身はリーグ戦全22試合に出場し、リーグ最多の163回のボール奪取を記録。インターセプトとデュエル勝利数でもリーグ最上位にランクインし、なでしこで見せる攻撃的なプレーとはまた違った守備面での活躍が特に光った。
「もちろんスタッツやランキングを言われたら嬉しいですけど、そこまで意識していなかったですね。プレーのひとつひとつを自分なりに突き詰めていく方に集中していったら、結果がついてきたという感じです。ボール奪取に関しては、元々得意な部分ではあったのと、ポジション的にそういう機会が多かったからでしょうか。アンカーとしてプレーすることで、自分の攻撃面での良さがちょっと出にくくなった部分はありますけど、逆に守備面では力を発揮はできているかなと思います」
長谷川といえば、日テレ・ベレーザ時代の2020年にはリーグ戦18試合で7得点を決めているように、もともとは攻撃的なポジションの選手だった。転機となったのは2022年のマンチェスター・シティ移籍だった。「自分が入った年にチームがガラリと変わったので、そこから積み上げてきた感じです」。ガレス・テイラー監督のもとで4-3-3システムのアンカーとしてプレーするようになり「もともと得意」と語るボール奪取能力がより光るようになった。
アンカーは主に自陣で守備的な働きをするため、少しのミスも許されない厳しいポジションでもある。昨季は大事な場面でオウンゴールを献上してしまうなど、悔しい思いもした。ただ、試合中の長谷川はその責任あるポジションを楽しんでいるようにすら感じる。
「やっていてすごく楽しい部分もあります。本当に守備が好きなので、継続してやりたいなと思います。大事な試合では、もっとチャンスを作れるような存在になりたい。もともと前線のポジションで評価をもらっていましたが、今は守備でも評価してもらって、次のシーズンでもより攻撃面での良さをもっと出していけるようにしたいですね。攻守両面でもっといい選手になれたらいいなと思います」
デュエルで競り勝つための“倒れない体”をシーズン前に作り上げる
決して大きくない体で、大柄な外国人選手たちとどう対峙し、そして競り勝っているのか。その理由を長谷川自身はこう明かす。
「予測のところで、どれだけ相手より先にいいポジショニングを取れるかが重要。(体が)当たらなくても相手の前に入れればボールを奪えたり、あとは相手がファウルせざるを得ない状況になったりする。それが一番の自分の強みでもある。自分が今、海外でできている理由として、その“予測”のところで“いいポジショニングを取れている”ところかなとは思います」
瞬時の状況判断に基づく未来予測。状況、状況で、どう動けば、相手よりも早く、そしていい体勢でボールに触れられるか。そういったところの予測能力が長けている、と長谷川自身は自己分析している。
その予測を体現するための肉体を、このオフシーズンに徹底的に作り上げるという。日本でつかの間のオフを過ごしつつ、明確な目標を持って新シーズンに備える。
「毎年、必ずオフの時期に筋トレとアジリティトレーニングのハードなものをやっています。上半身、下半身、全身に分けて鍛えて、アジリティを上げることが基本です。(チームが)始動する前に体を仕上げておくと、1年間戦う上での貯金になりますから。自分には必要なことですね」
そして、ボールを奪取してからの、次の動きも機敏である。的確なファーストタッチで相手の逆を取りつつ、素早いルックアップで最適なパスコースを見つけ、そこにパスを通す。その言葉にはゲームメーカーとしての確かな自信と、プレースタイルへの手応えが滲む。
「ボールが取れた瞬間にすぐ顔を上げて、最短距離でゴールを目指せるところを選択しているつもりです。ただ、試合の流れや奪う位置によっては、前に急ぐよりも落ち着かせることが必要だったり、簡単なパスをつなぐべきだったり、最適な選択は変化する。自分たちがなかなかボール持てないなと思ったら、しっかりつなぐようにしたり、これはシティよりも、代表でのほうがそういうプレーが出るようになってきているかもしれません」
今季から新監督が就任 「もう1つ進化した部分を見せたい」
所属するマンチェスター・シティも変革のシーズンを迎える。今年3月、5年間指揮していたしたテイラー監督が解任。ニック・クッシング監督が暫定的にチームを率いていたが、新たにアンドリエ・ジェグラーツ監督の就任が決まった。
「ポジショニングは変わるかもしれませんが、それでも自分がビッグチャンスを作れるように、もうひとつ進化した部分を見せたい。それに監督だけじゃなくて、周りの選手によっても自分の役割が多少変わってくるもの。そのバランスを保てるのも自分の長所でもあると思うので、周りの選手が生きる方法も考えながらしっかりやっていけたらいいですね」
指揮官が変わっても、長谷川がシティの“心臓”であることは変わらないだろう。そして、長谷川自身、誰よりもシティでタイトルを取りたいという強い想いを抱えている。
「今シーズンはいいメンバーが揃っているし、優勝が絶対に狙えるチーム。今シーズンは必ずタイトルを獲得したいですね」。そう語る口調は自然と熱を帯びていた。
(砂坂美紀 / Miki Sunasaka)




















