名将ペップ「請求書を送ってくれ」 マンC横断幕デザイナーの日本人…英国を魅了した巨大作品

マンCの横断幕デザインを手がける日本人サポーター
世界に名を轟かせるイングランドの名門、マンチェスター・シティの横断幕をデザインする日本人がいる。現地関係者の心を掴んだだけでなく、クラブを率いる名将も作品に感謝を示した。英国から遠く離れた島国に住む1人のサポーターが世界的メガクラブのバナー制作に携わる。その物語に迫った。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全2回の1回目)
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2月11日、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)ノックアウトフェーズプレーオフ第1戦。マンチェスター・シティがスペインの強豪レアル・マドリードをホームに迎え撃ったこの試合前、サウススタンドではシティの大黒柱で2024年のバロンドール(世界最優秀選手)受賞者であるMFロドリの横断幕が掲げられた。
アウェーサポーターに割り当てられたセクションを丸ごと覆うほどの大きさのバナーにレイアウトされたのは、ロドリがトロフィーに口づけする姿。そこに地元が誇るロックバンド「オアシス」の名曲タイトル「Stop Crying Your Heart Out」が添えられた。ロドリ本人も自身のスマートフォンで写真に収めるなど喜びを露わにしたこの作品をデザインしたのは、都内在住の会社員Ryukiさんだ。
「バナーはロドリで行く。48時間以内に何か案を出してくれ」。発案者であるシティ関連の著名なユーチューバー「Big Steve」からある日、構想とともに無茶ぶりとも取れそうなオーダーがRyukiさんのもとに届いた。依頼を受けた際の率直な感想は「マジ!? レアル戦で?」。
相手チームにはバロンドール受賞を争ったブラジル代表FWヴィニシウス・ジュニオールがいる。作品が受賞を逃したヴィニシウスだけでなく、レアルとそのサポーターにとって挑発と受け取られるのは推して知ることができる。本当に掲出してもいいのだろうか……。複雑な思いを抱えながらも、発案者の意思を尊重し急ピッチで描き上げたデザインを見せると、「最高だ。これで行こう」とゴーサインが出た。
世界が注目する好カードで掲げられた横断幕のデザインを担当したRyukiさん。英国内に限らず、シティの横断幕を制作したいと考えるファンは世界中に数多いるはずである。なぜ、イングランドから遠く離れた日本のサポーターが携われるようになったのか。

日本ツアーで制作した巨大バナーに現地関係者が感動
元フランス代表MFサミル・ナスリの鮮やかなドリブルに魅了され、シティズン(シティファン)となったRyukiさん。現地マンチェスターと関係を築くきっかけは、2023年の夏に行われたシティの日本ツアーまで遡る。
その4年前の来日で初めてサポーター仲間と横断幕を作った経験から、23年もバナーを制作することに。100名を超える日本人シティサポーターたちの支援を受け、縦3メートル×横18メートルの巨大な作品を作り上げた。クラブカラーのスカイブルーを基調に、白と黒の文字で綴られた「I’ll Follow You Everywhere」。2022-23シーズンにシティの本拠地で大きな話題となった応援歌のタイトルだ。作品の制作意図をこう説明する。
「シティにとって2022-23シーズンは、プレミアリーグ、CL、FAカップという国内外3冠を手にした特別な1年です。特に悲願のCLでは、アウェーゲームでも一度も敗れることなく頂点に立ち、国境を越えて敵地まで駆けつけるファンの姿が印象的でした。そこで、バナーには『どこまでも愛するチームを追いかける』という深い思いを込めています。
また、横断幕にはアウェーゲームの名場面の画像をレイアウトしたのに加え、日本から応援を続ける資金提供者の全員の名前も刻みました」
ただ、Ryukiさんの作品には“元ネタ”が。クラブ公式制作以外ほぼ全ての横断幕やフラッグを監修する現地マンチェスターのシティサポーター団体「1894 Group」が、最初に先述のフレーズでバナーを制作していたのだ。同団体の作品からインスピレーションを受けていたこともあり、日本ツアー後、感謝の思いとともに団体に自らの作品について伝えた。すると、驚きの反応が返ってきた。
「感動した。ホームのエティハドスタジアムでも(Ryukiさんの作品を)掲出しよう」
そうして海を渡ることになった作品は、23年9月2日に行われたフルハム戦で本拠地に掲出されるとファンの心を掴んだ。さらに、Ryukiさんとクラブをつないだ作品の物語はここだけでは終わらない。
「現在、クラブは本拠地ノーススタンドにミュージアム建設を進めており、私の横断幕は将来的にファン制作の代表作の1つとして展示される予定となっています。日本のシティサポーターの集大成が偉大なクラブの歴史の一部として残ることになんとも言えない特別な感情を覚えますし、デザイナーとしてこれ以上の喜びはありません」
ペップ残留へ願いを乗せた横断幕
Ryukiさんは先述のものを含め、5つの作品を現在まで制作してきた。その中で特に思い入れのある横断幕の1つに、チームを率いる名将、ジョゼップ・グアルディオラ監督に向けたものを挙げる。
契約満了を翌年に控え、去就が注目されていた2024年。クラブ専門ポッドキャスト番組「Ninety Three Twenty」の発案でグアルディオラ監督の契約延長を懇願するバナーが制作されることに。Ryukiさんがこの時にデザインを担当した横断幕は実にシンプル。「ペップ・グアルディオラ、あなたに残ってもらいたい」という真っすぐなメッセージが指揮官の出身地であるスペイン・カタルーニャの言葉で綴られ、バナーの両端にはカタルーニャ州旗が添えられた。
シティ本拠地で掲げられたこの横断幕に胸を打たれたのか、11月21日にグアルディオラ監督は2027年夏までの契約延長を発表。さらに、記者会見で横断幕について問われた指揮官はこんな言葉まで残したのだ。
「彼らに(横断幕の制作費を)負担させたくないから請求書を送ってくれ」
まさかとは思うが訊いてみよう。世界的名将に請求書を送ったのか。
「送ってもいいかなとはちょっと思いましたが、さすがにできませんでしたね。それでも、次に来日するタイミングがあったら、渡してみましょうか(笑)」

日本と英国の良さを融合させたバナーを作りたい
Ryukiさんは、今後どのような作品を作っていきたいと考えているのか。そう問うと「Jリーグを参考にトライしたいことがあります」と一言。その心は?
「日本のスタジアムにあるバナーって、柄や文字の色、フォントなど細かな点が非常に凝っているんです。小さなメッセージが入ることもあり、こうした芸の細かさは英国だとあまり見られません。現地では、ソリッドな水色に白文字といったシンプルな作品が多いのが特徴です。
なので、Jリーグで見られる表現の自由さと現地英国で好まれるシンプルさを絶妙に融合させた作品を作りたい気持ちがあります。それで視認性が高く、ファンの印象にも強く残れば理想ですね」
とはいえ、これまでの制作活動の中で“会心の出来”にはなかなか近づけていないとのこと。特に、先の言葉にある“視認性”に関しては難しさを痛感している。
「デザイン画面上での見え方と、実際にバナーが印刷されてスタジアムで掲載された時の見え方はやっぱり違うんですよ。シティのクラブカラーである水色は、薄すぎるとスタジアムで広げた際に全然映えない印象になってしまいます。過去に制作した作品で場所によって違う水色を採用したことがありますが、白い文字と照らし合わせた時、見えにくい部分ができてしまったんです。あとになって、全体的にこの色にすればよかったと後悔しました」
時にそんな後悔を味わいながらも、来る新シーズンにはどんな作品がファンをあっと言わせてくれるのか。Ryukiさんがデザイナーとして所属する1894 Groupでは今後も、世界中のサポーターから集められた寄付金を活用し、本拠地で掲げられる横断幕やフラッグの制作が続けられる。来季もエティハドスタジアムを彩るバナーから目が離せない。
【1894Group公式SNSと2025-26シーズン寄付先サイト】
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