史上初”J1連続撃破も進路未定「声がかかる選手に」 名FWの系譜を継ぐ22歳エース

東洋大4年FW村上力己、天皇杯の新潟戦で努力が結実したゴール
天皇杯3回戦。大学勢で唯一勝ち残っていた東洋大が7月16日、J1アルビレックス新潟を敵地で2-1と破る大金星を挙げた。1回戦で仙台大に4-2と勝利後、2回戦では同じくJ1の柏レイソルを延長戦の末に2-0で撃破。大学勢として大会史上初となる2試合連続J1撃破という偉業を成し遂げ、歴史に名を刻んだ。
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この快進撃を支え、新潟戦で貴重な先制点を奪った東洋大4年生FW村上力己。福島の強豪・尚志高時代には、山岸祐也(名古屋グランパス)や染野唯月(東京ヴェルディ)らが背負ってきた背番号9を託されたストライカーは、どんな思いで戦っているのか。
「僕は身長が大きくない(170センチ)ので、ゴール前へのアプローチはずっと考えながらやっています。高校の時から2トップを組む相手の特徴を考えながら、最前線に行ったり、1.5列目から飛び出して行ったり、役割を考えながらやってきました」
それを体現したのが新潟戦の前半アディショナルタイム2分。村上の1.5列目からの鋭い飛び出しがゴールをこじ開けた。ボランチの鍋島暖歩が左サイドのDF山之内佑成へ送ったロングボールから攻撃が展開される。「山之内が抜け出した時にゴール前をチラッと見たら、ファーサイドが空いているのが分かった」と見つけ出したスペースへ猛ダッシュを仕掛けると、山之内からのグラウンダーのクロスにスライディングで飛び込んでゴールに押し込んだ。
「練習でもあの位置に飛び込むことはやっていたので、『絶対に来る』と信じて飛び込むことができました。山之内のおかげです」
試合後にそう語った村上。磨き続けてきたプレースタイルが結実したゴールだった。
村上の出身は岩手県陸前高田市。小学1年生の時に東日本大震災を経験し、サッカーができる日常は当たり前ではないと強く実感し、そこから自然とサッカーに打ち込むようになったという。
その後、福島の名門・尚志高校に進学。3年時にはDFチェイス・アンリを擁したチームの不動のストライカーとしてインターハイや選手権に出場し、プリンスリーグ東北も制した。前線からのプレッシングが際立った尚志において、鋭い出足とパスルート予測能力を併せ持った村上は守備で大きく貢献した一方、当時から特長だったゴール前への飛び出しとシュート技術も発揮し、攻守両面でチームを牽引した。
J1勢との対戦で実感「将来的に僕もそこで戦っていかないと」
献身的な守備とチャンスを逃さない目。東洋大に進学してから、さらにその武器が磨かれ、天皇杯の舞台で花開いている。
東洋大で背負う背番号「9」。この番号は村上にとって特別な意味を持つ。尚志高時代には名古屋の山岸や東京Vの染野といった歴代エースたちが託されてきたエースナンバー。高校3年時の春先には怪我の影響で出遅れ、インターハイやプリンスリーグ東北では背番号12をつけたが、最後の選手権でようやく「9番」を背負うことができた。
サッカーそのものだけでなく、背番号にも愛着と重み、そして感謝を抱いている。その思いが、今の東洋大での存在感につながっている。
「勝利することはできましたが、レイソルとアルビレックスは、ともに攻撃の質が本当に高かった。組み立てのところでミスをしないし、ゴールまで相手を上手くいなしながらつないでくるのは勉強になりました。将来的に僕もそこで戦っていかないといけないと考えた時に、技術や動き出しももう一度磨き直さないといけないと感じました」
まだ進路は決まっていない。だがJ1勢との2試合を経験し、プロの舞台への思いは確かな輪郭を持ち始めている。
「大学サッカーとは違って、ボールを持つ時間が短くて、守備に回ることが多いからこそ、ワンチャンスをモノにしないといけない。しっかりと前線でボールを収められて、周りを使いながら、自分でも決められる。もっと成長して、(プロから)声がかかる選手になりたいと思っています」
最高のアピールとなる舞台はまだ続く。8月6日、天皇杯ラウンド16の相手はJ1連覇中の王者・ヴィッセル神戸(ノエビアスタジアム神戸)。自身の可能性を広げるためにも、村上は最高のパフォーマンスを見せる覚悟だ。
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。




















