CB歴わずか2年…J1連続撃破のスーパールーキー「納得がいかない」 五輪代表入りの“逸材”
東洋大1年DF岡部タリクカナイ颯斗、名門・市立船橋でFWからコンバート
天皇杯3回戦。大学勢で唯一残っている東洋大は、7月16日にアルビレックス新潟とアウェイの地で戦い、2-1で勝利。2回戦で柏レイソルを延長戦の末に2-0で下したのに続き、今回の大金星と、大会史上初の2試合連続J1撃破という偉業を成し遂げた。
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ここではこの歴史的快挙を実現させた選手たちの物語を描いていく。第1回は1年生ながらCBのレギュラーとして柏、新潟のアタッカー陣を封じ込めた岡部タリクカナイ颯斗について。名門・市立船橋からやってきた187cmのスーパールーキーは、どこまでのストイックな男だった。
歴史的勝利を挙げた後のミックスゾーン。リラックスした表情を見せる選手たちが多くいる中で、唯一の1年生スタメンの岡部タリクカナイ颯斗の表情は曇っていた。
「チームが勝てたのはよかったのですが、個人としては満足いかないどころか、納得のいかない出来でした。もちろんチームとして勝てたのは嬉しいんですが、個人としては全然嬉しくないんです」
こう口にした彼に、「なぜそんなに辛口評価なのですか？」と問うと、こう返してきた。
「攻撃も守備も納得がいかないんです。守備では相手のFWにボールを入れさせないようにしていたので、縦パスもあまり来なかったのですが、たまに縦パスが入った時の対応ですね。インターセプトできるタイミングもあったのですが、そこでできなかったし、潰し切れないシーンがあった。失点の予感もないくらい完璧に抑えたかったというのがありました。攻撃もいくつかスルーパスやロングフィードはあったのですが、もっとテンポ良くやりたかった。なので、試合が終わった瞬間に、素直に喜べなかった。レイソル戦はめちゃくちゃ嬉しかったけど、今回はタイムアップの笛を聞いた時に嬉しさよりも、『もっと練習しよう』と思いました」
1年生ながらこれだけ状況を冷静に分析し、自分に落とし込みながら自己反省ができる。勝利しても、敗戦を喫しても、いいプレーができてもできなくても、それが自然と出来るからこそ、彼はスポンジのようにいろいろなものを吸収することが出来ている。
市船時代は高校2年生の途中までFWだったが、抜群のスピードと身のこなし、前線で見せた対人の強さとボールへの寄せの速さを評価され、CBへコンバート。「最初はずっとFWがやりたくて仕方がなかった」と口にしていたが、徐々に順応をしていくと、守備にウェイトを置きながらも、タイミングを見た攻撃参加でゴールを叩き出すなど、持ち前の攻撃力も生かせるようになっている。CB歴はわずか2年あまりだが、スケールの大きなCBとして現在も成長し続けている。
試合前にマッチアップする“先輩”をチェック
実は新潟戦、彼のインテリジェンスを示す出来事が試合前にあった。試合開始の2時間前、両チームのスタメン表が配られると、岡部は早速マッチアップするFWの名前を見た。マッチアップするのは市船の先輩でもあるFW矢村健だった。
「年齢が離れているので、話したことはないのですが、すぐに矢村さんのプレー動画を探して見ました。そこで驚いたのは、かなりすばしっこいし、ゴール前で常に相手の背中に立って、見えない場所から一気に飛び込んでくるので、『これは相当警戒しないといけない』と思いました」
懐に入らせない、懐に入られてもブロックして前に行かせない。自分の対応策を試合前に頭の中で何度もイメージした。そして試合が始まると、「映像通りに動きが素早いと感じましたが、試合前にイメージができていたので慌てることはなかった」と口にしたように、背後に潜り込んでくる矢村に対し、コースを消しながら、飛び込まれたら身体を入れるタイミングを図って、しっかりと応対をした。
終盤、トップ下にラインブレイクを得意とするMF長谷川元希が入ってきても、1.5列目からの侵入をブロック。後半23分には長谷川のシュートをブロックするなど、1失点こそ喫したが、最後の最後まで集中は切らさなかった。
悔しさをにじませたミックスゾーンだったが、最後に次の相手であるJ1・ヴィッセル神戸戦に向けて話が及ぶと、彼はこう引き締まった表情で語った。
「大迫勇也選手、武藤嘉紀選手、宮代大聖選手、佐々木大樹選手と前線は誰が出てきても明らかにレベルが高いので、そういうFWたちを抑えることができたら本物だと思いますし、そもそも真剣勝負で戦えるのは物凄く燃えますし、楽しみです」
こう言い切った後に、付け加えた一言が実に彼らしかった。
「でも、いつも言っていることなのですが、まずは神戸戦に向けてスタメンで出られるように練習しないといけないですし、今日みたいな気持ちにならないように準備したいです」
新潟戦の翌日。岡部は2028年のロサンゼルス五輪を目指すU-22日本代表のウズベキスタン遠征のメンバーに名を連ねた。一気に世代屈指のCBとして注目度が高まっているが、彼はどんな時も彼らしく自分にベクトルを向けて思考を重ね続ける。
安藤隆人
あんどう・たかひと／岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』（実業之日本社）、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。
