同期・後輩が続々プロ内定…大学最終年の覚悟 J練習参加で実感した現実「決め手に欠けている」

流通経済大4年FW松永颯汰、「サッカー人生に関わる」一撃
夏の「大学サッカーの全国大会」とも言える総理大臣杯の関東代表を決めるアミノバイタルカップ。関東大学サッカーリーグ1部、2部、3部、さらには都県リーグの垣根を超えた一発勝負のトーナメントでは、毎年のように数々のドラマが生まれる。プロ内定選手、Jクラブが争奪戦を繰り広げる逸材、そして彗星のように現れた新星が輝きを放つ。今大会も6月5日から29日にかけて開催され、注目を集めた選手や印象深いエピソードを紹介していきたい。
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ラストとなる第17回は、今大会の頂点に立った流通経済大学の10番FW松永颯汰を取り上げる。静岡学園から進学し、大学ラストイヤーを迎えたストライカーは大きな壁に直面。その苦悩の先に見据える未来とは――。
アミノバイタルカップ決勝。流通経済大と東洋大が激突した一戦で、松永は84分に値千金の決勝ゴールを決め、チームを優勝へと導いた。初戦・中央学院大戦に続く今大会2ゴール目。その数字以上に、彼にとって大きな意味を持つ一撃だった。
「この大会は、自分の今後のサッカー人生に関わる、重要かつ絶対に結果を出さないといけない舞台でした。ただ、今までのように自分がではなく、どれだけ自分がチームのために力を出せるかも考えてプレーしました」
松永は静岡学園高時代、同い年のストライカーである持山匡佑の陰に隠れた存在だった。ガンバ大阪門真ジュニアユースからユース昇格は叶わず、高校サッカー界きっての技巧派集団・静岡学園に飛び込んだ。足元のテクニックを駆使したドリブル、180センチのサイズを生かしたゴールへの飛び込みを武器に徐々に頭角を現したものの、突出していた1トップの持山の存在によって、高校3年生のインターハイではメンバー外も経験した。
それでも松永は、「自分は最前線だけではなく、サイドや2列目からも仕掛けられる」とトップ下のセカンドストライカーとして活路を見出し、プリンスリーグ東海では8ゴールを叩き出すと、選手権予選直前に持山の負傷離脱を受けて、再び1トップとして君臨。チームを選手権に導くと、プレミアリーグ昇格プレーオフでもプレミア昇格に導くゴールを奪い、持山の復帰後もレギュラーの座を確保し続けて選手権ベスト8に貢献した。
プロから「オファーは来ない」の危機感、内省を経てプレーに変化
一気に急成長したものの、希望であった高卒でのプロ入りは叶わず。最後まで待ってくれた流通経済大に進学し、激しい競争のなかでトップ下や左サイドハーフとして1年生からコンスタントに出番を掴んだ。今年は大学日韓定期戦にて、全日本大学選抜の10番を背負ってプレー。着実に階段を駆け上がってきたが、4年生の現時点でプロ入りは決まっていない。
「プロの練習参加(東京ヴェルディ、ジュビロ磐田)をさせてもらっても、まだ何もないのは僕に力が足りない、決め手に欠けているから。自分でもプレーにムラがあることを感じていて、『この試合はできて、この試合ではできない』ということが多い。正直、子供だった部分が大学に入っても残ってしまって、上手くいかないことがあると不貞腐れてしまうこともあった。そこは見直さないと(プロからの)オファーは来ないと思うし、チームを勝たせられる選手にはなれないと思っています」
他大学では、同級生や下級生が次々とプロ内定を発表している。焦りがないと言えば嘘になる。だが、学年を重ねるごとに、自分自身にベクトルを向けられるようになった。
そのきっかけとなったのが、今季の関東大学サッカーリーグ1部での戦いだった。チームは開幕から6試合を終えて3分3敗の勝利なし。全試合で左のアタッカーとしてスタメン出場をしていた松永はノーゴールという結果に終わった。第8節(第7節は延期)の日本大学戦で初のスタメン落ちを味わい、チームも2-2の引き分け。この経験を通して、松永は自らを深く見つめ直す時間を持つことになった。
「中野雄二監督からはずっと厳しく指摘されましたが、その言葉は僕に奮起を促すためでした。そこは分かっていたので、『言ってもらえるだけありがたい』と思いましたし、もう一度ちゃんと自分を見つめ直して、チームのために、チームの力のプラスになるように考えることを意識しました」
その後、第9節の慶應義塾大戦でスタメン復帰。1-1の引き分けでノーゴールに終わったが、この試合を境にプレーに変化の兆しが現れはじめる。自分からボールを引き出す動きや突破のドリブルを見せる一方、フリーランニングやゴール前への果敢なスプリントなど、高校時代や大学1・2年時に見せていた“ゴールに向かう推進力”が徐々に戻ってきた。
1試合4ゴール1アシストの大爆発「本来の自分を取り戻せた」
そして1勝5分4敗の成績で迎えたのが、大会直前の6月14日に行われた第7節延期分・日本体育大学戦。この日、松永はサイドではなく1トップで起用され、4ゴール1アシストの大爆発を見せる。チームの全得点を叩き出し、今季2勝目を手繰り寄せた。
「1トップになったことで、よりゴール前に飛び出して行こうと前にベクトルを向けてプレーをしたら、シュートセンスという自分の最大の特徴がはっきりと引き出せたような感覚になりました。これまでいろいろ考えすぎてしまって、あれもこれもやろうとしすぎて、結局上手くいかずにムラができてしまったことで、自分のこの特徴が少し消えてしまっていたのかなと。本来の自分を取り戻せた感覚がありました」
その勝負強さは、今大会でも発揮された。1トップとして、ゴール以外でも彼が果敢なラインブレイクで相手を引きつけたり、身体を張ったポストプレーや前からのプレスを見せたりするなど、前線で大きな起点を作り出した。
「試合の中で消える時間を増やさないように意識してプレーしました。これで終わりではなく、この大会を経て、もっと成長しないといけないし、きっかけにしないといけないと思っています。今、1トップとして高校時代以上のゴールへの執着心を持てているので、そこを結果につなげていきたいと思います」
自分と向き合い、前へ進むことは決して簡単ではない。時間を要するし、その時間も人によってさまざまだ。松永も紆余曲折の道を歩んでいる。だが、彼は決して目を背けず、何度でも真正面から立ち向かおうとしている。その姿勢と努力は、いつかきっと大きな果実となる。積み重ねてきた苦悩と葛藤の時間こそが、彼を支えるかけがえのない土台となっていくはずだ。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。



















