高校2冠→大学で失意 欧州名門移籍の先輩から衝撃「質が違った」…屈辱の“前半交代”から誓う逆襲

東洋大学の2年生CB・山本虎【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】
東洋大学の2年生CB・山本虎【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】

東洋大2年DF山本虎、直面している大学サッカーの壁

 夏の「大学サッカーの全国大会」とも言える総理大臣杯の関東代表を決めるアミノバイタルカップ。関東大学サッカーリーグ1部、2部、3部、さらには都県リーグの垣根を超えた一発勝負のトーナメントでは、毎年のように数々のドラマが生まれる。プロ内定選手、Jクラブが争奪戦を繰り広げる逸材、そして彗星のように現れた新星が輝きを放つ。今大会も6月5日から29日にかけて開催され、注目を集めた選手や印象深いエピソードを紹介していきたい。

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 第15回目は、準優勝を果たした東洋大学の2年生センターバック(CB)、山本虎に注目。青森山田高校時代にはキャプテンとして高円宮杯プレミアリーグEASTと全国高校選手権の優勝を達成した183センチのDFは、大学サッカーの壁に今直面している。

 6月29日に行われたアミノバイタルカップ決勝・流通経済大戦。山本はスタメンに名を連ねたものの、前半23分に相手の縦パスに反応が遅れ、相手FW川畑優翔に裏を取られて1対1のピンチを招いてしまう。GK磐井稜真がシュートを止めるも、こぼれ球に反応したMF大氏凛州を味方DFが倒してPKを献上。これを川畑に決められて先制点を許す結果となった。

 ハーフタイムに左サイドバック(SB)で柏レイソル入りが内定しているDF山之内佑成と交代を告げられて、チームが1-2で敗れる姿をベンチから見つめることになった。

「今季はアミノまでリーグ戦で1度しかスタメンに絡めずに途中出場が多いなか、今大会最初にスタメンで出た(総理大臣杯出場が決まった状態で臨んだ)筑波大戦は相手もメンバーを落としてきている中でもあまりいいプレーができたとは言えなかった。今日はPKを与えるきっかけになってしまい、前半で交代。悔しさと不甲斐なさを感じています」

 山本は183センチのサイズ、屈強なフィジカル、キャプテンシーを併せ持ち、利き足は右だが左足のキックも威力があり、左右どちらでもプレーできる。高校屈指のCB、そしてプレミアと選手権の2冠のキャプテンという看板を引っさげて大学サッカーに挑んだが、1年目はトップで出番が訪れなかった。そして、2年生となった今年はようやく出番を掴めるようになってきたなか、台頭してきたのが1年生のCB岡部タリクカナイ颯斗だった。

衝撃を受けた先輩の存在「スーパープレーをやってのける」

 岡部は5月の天皇杯1回戦の仙台大戦でスタメンデビューを果たすと、1ゴールを含む活躍を見せて、そこから関東1部リーグでもスタメンを掴んで、柏との天皇杯2回戦でもスタメンで躍動を見せた。

 187センチのサイズに加え、スピード、バネ、対人能力、キックと多くの武器を持つ岡部。市立船橋高校の2年の終盤にFWからCBにコンバートされ、その能力が一気に開花し、東洋大にCBとして進学してきた経緯を持つ。

「タリクは僕が高校3年生の時にプレミアEASTで対戦して、FWでマッチアップをしたのですが、こうして同じCBになって、リーチの長さやスピードで武器を持っている凄い選手だなと感じました。タリクは今、結果をきちんと残しているからこそ、そこから学ばないといけない。コンビを組む可能性も将来的にはあると思うので、彼からきちんと学びたいと思っています」

 厳しい現実を突きつけられながらも、こうして学びの姿勢を失わないのが山本の強みだ。1年時に出番がなかった間も、当時の主力CBであった稲村隼翔(現アルビレックス新潟→セルティック)から多くを吸収してきた。

「僕はキックに自信があるのですが、稲村さんのキックはちょっと質が違った。稲村さんは淡々とやっているように見えるけど、その中でたった1本のパス、キックで状況をガラッと変えてしまうスーパープレーをやってのける。その瞬間の空気感が凄くて、常に狙っているんです。FWの高橋輝くんに一発で繋いで、そのままゴールを決めるシーンを目の当たりにした時はもう衝撃しかありませんでした。僕も稲村さんのようにCBからゴールに直結するようなパスを蹴りたいと思い、稲村さんのキックのフォームや置き所、見ている場所などを見て学びました。特に低い弾道のキックは何度もトライしています」

新井悠太や稲村隼翔のように…「焦ってないと言ったら嘘」

 稲村は卒業し、アルビレックス新潟で変わらず不動の存在として、一瞬で局面を変えるキックを披露し続けた結果、7月5日にスコットランドの強豪・セルティックへ移籍を果たした。

「練習で成功するキックができていても、いざ公式戦で緊張感や相手のプレスもある中で、しっかりとロングキックを狙ったところに絶妙なタイミングで出すことは高度な技。今日も1つサイドチェンジを狙ったのですが、GKのところに飛んでしまったシーンがあった。稲村さんは人工芝でも天然芝でも、どんな条件下でも当たり前のようにやっていたからこそ、結果を残している。僕がそれを当たり前にしていくには稲村さんより努力しないといけないので、左足のキックも含めて、磨き続けないといけないと思っています」

 最後に彼ははっきりとした口調でこの苦境から這い上がっていく宣言をした。

「あと2年半は短いと思いますが、目標は(新井)悠太(東京ヴェルディ)さんや稲村さんのように3年生でプロの舞台に立てるような選手になることなので、焦ってないと言ったら嘘になりますが、きちんと1日1日を積み重ねていきたいと思っています」

 その眼差しはまさに虎のようだった。目標をしっかりと見据えて、達成するために山本虎は苦難があってもガムシャラに食らいついていく。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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