進化証明の衝撃弾…J1内定先クラブ撃破の”下剋上” 欧州名門移籍の先輩から「学んできた」

東洋大4年DF山之内佑成、進学後に左SBへコンバート
夏の「大学サッカーの全国大会」とも言える総理大臣杯の関東代表を決めるアミノバイタルカップ。関東大学サッカーリーグ1部、2部、3部、さらには都県リーグの垣根を超えた一発勝負のトーナメントでは、毎年のように数々のドラマが生まれる。プロ内定選手、Jクラブが争奪戦を繰り広げる逸材、そして彗星のように現れた新星が輝きを放つ。今大会も6月5日から29日にかけて開催され、注目を集めた選手や印象深いエピソードを紹介していきたい。
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第14回は、東洋大学のキャプテンであり、準優勝に導いた頼れる左サイドバック(SB)山之内佑成にフォーカス。2026年シーズンからの柏レイソル入りが内定している注目株の思考に迫る。
右利きの左SB。通常、SBは右利きなら右、左利きなら左と、それぞれのサイドを利き足に持つ選手を配置するが、山之内を見ていると右利きが左サイドバックをやる有効性を感じさせることが多い。
右利きの左SBと言えば、ジョアン・カンセロ(アル・ヒラル)、モロッコ代表で左サイドを務めることが多いアクラフ・ハキミ(パリ・サンジェルマン)などを想起させる。特にカンセロは、ボランチラインやFWのラインに斜めに入っていく時、右足でボールをコントロールしながら、右足でスルーパスやイン巻きのクロス、シュートまで繰り出すことができる。
近年、「偽SB」と表現されるように、SBに求められるビルドアップへの関与、インナーラップからのチャンスメイクまたはフィニッシュという役割をこなすため、サイドと逆足の利き足を持つ選手を配置することは有効な策の1つとも言える。
山之内もまた、そうした現代的な役割にフィットする1人だ。もともとはセンターバック(CB)としてプレーしていたが、大学進学後に左SBへコンバートされた。
「上のレベルを考えた時にサイズ(178cm)を含めて、自分の守備範囲の広さやビルドアップ能力を生かせるのはサイドバックだなと思いました」
右利きながら左足のボールコントロールとキックにも定評があり、縦突破からのクロスと中央との関わりからゲームメーカー的役割も担える左SBとして頭角を現した。昨年6月には早くも2026年シーズンからの柏入り内定が発表されるなど、大学サッカー界屈指の存在となった。
内定先の柏から奪った値千金のゴール「本当に勉強になります」
迎えた最終学年、6月12日の天皇杯2回戦・柏戦(2-0)で度肝を抜くインパクトを、来年からホームスタジアムとなる三協フロンテア柏スタジアムで与えた。
前半から守備面で対人能力の高さと危機察知能力の高さを披露した山之内。3-3-2-2を敷く柏を相手に、CBとボランチ、左サイドハーフと連携を取り、スライドと相手ウイングバックへの的確な寄せで攻撃のリズムを奪うと、機を見たオーバーラップ、ビルドアップの補助から出口に至るまで攻撃面でも関与を続けた。
そして圧巻は延長後半2分、右からのクロスに対して左から中央に向かってサポートをした山之内の元に、相手DFがクリアしたこぼれ球が転がってきた。左足でトラップした直後、そのまま左足を一閃。飛びついたGKから逃げるようなアウトカーブを描いたボールがゴール左上に突き刺さった。
ファーストタッチが大きくなった分、迷いなく振り抜いたシュートは、左足への自信の表れだった。もし足元に収めていたら、右足で持ち出してのクロスやシュートも選択肢にできたはずで、まさにプレーの幅広さが際立ったワンシーンだった。
「天皇杯で対戦してみて、改めてレイソルは意図的に相手を崩すことができるチームだと感じました。選手間の距離感が素晴らしく良くて、3人目の動きの関わりやポケットの使い方は本当に勉強になります。僕はそこを使う側なので、タイミングなどを意識してやりたいなと思っています」
山之内の言葉どおり、続く大会でも進化を証明した。総理大臣杯出場を懸けたラウンド16の駒澤大戦では、ロングボール主体の相手に対し、セカンド回収やCBのカバーを意識。決勝の流通経済大戦では、3バックの相手に対してインを取るのではなく、ワイドのポジションを取って相手のウイングバックの裏や相手のCBをサイドにおびき寄せるプレーを選択。ワイドでボールを受けて突破から左足のクロス、相手ウイングバックとCBの間のインナーラップで侵入し、右足のインカーブのアーリークロスなど、自分の持ち味を存分に見せた。

東洋大の先輩から学んだキック「成長した姿をこの試合で見せたい」
決勝は惜しくも1-2で敗れたが、関東第2代表として全国の切符は掴んだ。多くの大学はここから9月の総理大臣杯まで間が空くが、東洋大は7月16日にJ1アルビレックス新潟との天皇杯3回戦が控えている。
東洋大の1学年上の先輩であるCB稲村隼翔は先日、新潟から名門セルティックへの移籍が発表されたが、「稲村さんの左足のキックを学んできたからこそ、成長した姿をこの試合で見せたい」とリスペクトを込めて全力で勝ちにいくことを宣言した。
「レイソル戦は簡単に失点せずに終盤勝負に持ち込めたことが勝因だったので、勝利の可能性を広げるためにも簡単に失点しないことが重要になります。僕はあくまで守備の選手だからこそ、相手を冷静に見て対応したいし、そのなかで相手のズレやスペースを狙ってチャンスにも絡んでいきたいです」
いざ決戦へ。自信を積み重ねた右利きの左SBの成長は止まらない。
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。












