慶應義塾大学の角田惠風「僕もみんなのために戦うということを大事にするようになりました」

　夏の「大学サッカーの全国大会」である総理大臣杯関東代表を決める戦い・アミノバイタルカップ。関東大学サッカーリーグ1部、2部、3部、都県リーグの垣根を超えた一発勝負のトーナメントは毎年、多くのドラマやプロ内定選手、Jクラブが争奪戦を繰り広げるタレント、そして彗星のように現れた新星が輝きを見せる。

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　今年も6月5日から29日にかけて行われており、この大会で目立った選手、ドラマを持った選手を紹介していきたい。

　第9回目は関東第9代表として2年連続の総理大臣杯出場を決めた慶應義塾大学のMF角田惠風について。横浜F・マリノスユースから慶應義塾大の10番となった角田のハイアベレージなプレーの背景とは何か。

「去年から自分たちの確固たるスタイルができたので、日に日に成長を実感できています」

　慶應義塾大の10番を背負うMF角田惠風は今、確かな手応えを掴みながら成長を続けている。

　昨年、湘南ベルマーレ、アビスパ福岡、横浜F・マリノスなどでプレーしていた元JリーガーでOBの中町公祐監督が就任すると、横浜FMユース出身ということもあり、「巡り合わせを感じました」と新しい慶應に期待を膨らませた。

　高校時代から高いレベルの技術を持ちながら、攻守においてハードワークできる彼は、「慶應としてある程度形作られたポジショニングからのパスワークで敵の陣形を崩していく」中町サッカーにおいて、攻撃を司るゲームメーカーであり、アタッカーとして中枢を担った。

　形を意識して再現性あるプレーをきちんと遂行しながらも、ときには形に囚われない彼らしい自由な発想からのパスやドリブルも仕掛けて攻撃を活性化させていく。最高学年となった今年は自ら志願して10番を背負うなど、自覚も含めてチームの柱としての存在感は絶大となっている。

　今大会、彼は大車輪の活躍を見せた。初戦となったラウンド32の拓殖大戦で決勝ゴールをアシストすると、ラウンド16で流通経済大に破れ、9・10位決定戦で2勝をしないと全国に出られない状況下で眩い光を放った。

　立教大との一戦では後半アディショナルタイムに追いつかれて2-2で延長戦にもつれこんだ。「リードを守るために守備にかなり体力を使ってしまって、延長戦は全然走れなかったのですが、ワンチャンスを狙っていた」と、延長後半アディショナルタイム2分にFWオノノジュ慶吏がボールカットをしたのを見て、力を振り絞って加速。ボールをもらうとそのままドリブルで仕掛けてカットイン。「立教のGKはカットインをするとファーに寄ることがこれまでの展開で分かっていたので、ニアを狙った」と冷静にシュートを突き刺して、土壇場での値千金の決勝弾を生み出した。

　そして、明治大との出場枠をかけた大一番。1-1で迎えた69分にショートカウンターからボールを受けると、ワントラップから迷わず左足を一閃。強烈な弾道がゴール右隅に突き刺さり、チームを全国に導く2試合連続の決勝弾を叩き込んだ。

「リーグ戦では最後に追いつかれたり、勝てる試合を逃したりしているので、その反省を踏まえて勝ちきることを意識しました。立教大戦では土壇場で追いつかれてしまったので、そこは反省だし、自分たちにはサッカー的に立ち返る場所があるからこそ、もっとそこを生かして90分の中で勝ち切れるようにならないといけないと思っています」

　総理大臣杯出場の立役者となりながらも、きちんと課題の把握と反省は忘れなかった。そして10番を背負う者として、純粋なサッカー選手として今の環境に対する感謝の気持ちも溢れていた。

「本当に慶應に来て良かったと思っています」

　彼は中学時代、横浜F・マリノスジュニアユース追浜でプレー。ユース昇格が決まった後に学業優秀だったこともあり、進路に悩んだ。

「最初は県立である鎌倉高校に行って、文武両道をしようと思っていました。でも、ちょうど僕の家の向いに蛯名亮太（横浜FCユース→慶應義塾大）くんが住んでいて、亮太くんが横浜FCユースでプレーしながら慶應義塾高校に通っていたんです。その道もいいんじゃないかと、慶應に高校から進学することを決めて、推薦で合格をもらいました」

　高校3年間の文武両道は思った以上に大変だった。授業後からユースの練習場までの片道1時間半の間に勉強をするなど、時間を見つけては学業に勤しんだ。

「一番大変だったのはテスト勉強。高校の部活だとテスト休みがあるのですが、ユースはそれがないのでテスト期間中は特に時間を大事にしていました」

　落とせない試験に苦心しながらも、最後までやり遂げた。目標だったトップ昇格はできなかったが、大学はそのまま関東大学サッカーリーグ1部に所属する慶應義塾大に進学。4年後プロを目指す道に進んだ。

「慶應は本当にいろいろな選手、学生がいるので学びになりますし、ソッカー部は全員が『みんなのために』と利他性を持っているのが特徴。高校までは自分のためにサッカーをやっていましたが、この組織に入って、僕もみんなのために戦うということを大事にするようになりました」

　心身ともに成長した角田は、この大会で独創的なプレーを見せる一方で、文字通りチームのために走り抜いた。9月の総理大臣杯まで時間が少し空くため、ここからはJクラブの練習に参加をする予定で、自分の将来を掴むための時間となる。

「もちろんマリノスには諏訪間（幸成）、（山根）陸、（木村）凌也など同期がもうプレーしているので、一緒にやりたいという気持ちはありますが、たとえ同じチームではなくても彼らと同じレベルでプレーできたらいいなと思っています。僕はどこかが特出している選手ではなく、アベレージ勝負の選手。それをアピールするのは難しいかもしれませんが、攻撃面だけではなく、守備の強度や予測、ハードワークのところも出していきたいです」

　それぞれのチーム、監督のタスクを理解し、それをプレーにリンクさせて自分を表現することが武器であるからこそ、彼はどの環境に行っても自分をアジャストさせていくだろう。総理大臣杯では、未来を切り開いた彼の勇姿を見たい。