最寄駅のゴミ拾いが「大きなプラス」 171cm小柄CBのずば抜けた統率力…積み重ねる「目配り、気配り、心配り」

産業能率大学の中島颯太(左から2人目・13番)【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】
産業能率大学の中島颯太(左から2人目・13番)【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】

産業能率大学の中島颯太「改めて日常からの些細なことからの心配りが必要なのだと感じました」

 夏の「大学サッカーの全国大会」である総理大臣杯関東代表を決める戦い、アミノバイタルカップ。関東大学サッカーリーグ1部、2部、3部、都県リーグの垣根を超えた一発勝負のトーナメントは毎年、多くのドラマやプロ内定選手、Jクラブは争奪戦を繰り広げるタレント、そして彗星のように現れた新星が輝きを見せる。今年も6月5日から29日にかけて行われており、この大会で目立った選手、ドラマを持った選手を紹介していきたい。

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 8回目は今大会において「台風の目」となり、3位に輝いた関東2部・産業能率大学の171センチのDFリーダー・中島颯太について。総理大臣杯出場を決めるラウンド16では王者・明治大に対して延長戦で2点を叩き込み、大金星の立役者となった彼の凄さとは――。

「1つの経験、1つの知識として大事なものだった。積み重ねがあるからこそ、今があると思っています」

 3位決定戦の日本体育大戦で2-1の勝利を収めたあと、中島はこう口にした。171センチとCBとしてサイズは低い方だ。しかし、頭の回転が速い彼は、抜群の統率力とカバーリング能力、そして相手に対して怯むことなく立ち向かっていく強いメンタルがある。

 出身は千葉県柏市。クラッキス松戸から「サッカーと人間的な成長をするために」山口県の高川学園高の門を叩いた。高川学園といえば、言わずと知れた高校サッカーの強豪だが、サッカーだけではなく部署活動制度を導入し、学校や地域との連携やサッカー部に対して多角的な観点から関わっていく独自の活動をしている学校だ。

 サッカー選手としてだけではなく、人として成長する。常に当事者意識を持って率先して行動する。中島はこの環境で成長をしていった。

「サッカーでは対人の強さや予測などを評価してもらって、ボランチからCBにコンバートしてもらい、CBとしてずっと鍛えてもらいました。部署活動は2年生の時は生活部で、3年生は審判部でした。その中で校内の清掃や寮生活の中での規律や立ち振る舞いを意識するようになって、審判部では審判の派遣や来てくださった審判の人へのフォローなどいろんな視野で物事を見て行動できるようになりました」

 4バックとしてのチャレンジ&カバーや、声で周囲をコントロールする術は3年間でみっちりと鍛えられ、高校3年時には不動のレギュラーとはいかなかったが、コンスタントに試合に出場をし、選手権では2試合に出場。3回戦の東山高戦ではスタメン出場を果たし、この試合でFKのキッカー候補3人がセットしたボールの前で手をつないでグルグル回る「変則トルメンタ」を披露した内の1人になるなど、セットプレーの考案にも積極的な姿勢を持っていった。

 ピッチ外でもチームのテーマである「目配り、気配り、心配り」を意識の中にたたき込んだことで、進学した産業能率大学でも徐々に彼の人間性と献身的かつ精神的な牽引力が評価された。1年次はウィングバックとしてIリーグでプレーしていたが、2年生になった昨年からトップチームの3バックの真ん中に抜擢された。

 2024年の関東大学サッカーリーグ2部の開幕戦でベンチ入りをすると、第2節の立正大戦で初スタメン。そこから彼は出場停止の1試合を除いて、今年のアミノバイタルカップ3位決定戦まで全ての試合にスタメンフル出場をしている。

「高校時代からずっと言われていたチャレンジ&カバー、予測、コーチングは今、僕の大きな武器になっています。大学に入ってから、筋トレを本格的に始めたらスピードも球際の部分も強くなって、よりCBとしてやれることが増えました。今、大事にしているのは常に頭を働かせて声を出すことで周りをコントロールすることです。パスを出されたら嫌なところ、埋めてほしいスペースを前の選手に伝えて、そこを埋めてもらう。前やボールに行ってほしい時、行ってほしくない時の声かけや、あとはどこのコースを限定してほしいかを試合を通じてずっと発信し続けることを大事にしています」

 ピッチ内ずば抜けた統率力を発揮する一方で、ピッチ外でも高川学園の教えは継続されている。昨季からサッカー部としてキャンパスの最寄り駅の伊勢原駅周辺の掃除だったり、キャンパス内や周辺の掃除をするようになった。

「高校時代から落ちているゴミを拾うことは当たり前だったし、周辺清掃もやっていたので、何も違和感なく率先して取り組めました。一生懸命やっていると学校や地域の人が『ありがとう』を感謝の気持ちを伝えてくれて、嬉しい気持ちになるのは高校と同じ。高校時代は『これをやってサッカーにつながるのかな』と疑問を抱くことは正直あったのですが、3年間やって良かったと思うし、大学生になっても挨拶をする、ゴミを拾うことを当たり前にできることは大きなプラスだと感じています」

 特にその意義を感じたのがラウンド16の明治大学戦だった。高川学園時代からトルメンタに代表されるようにセットプレーは選手たちがアイデアを出し合ってやっていた。それを産業能率大でも行うようにしていた。

「僕らはあまりでかい選手が多くいるわけではないので、セットプレーはきちんとデザインしようと。相手の守り方やサイズなどを見てどうするのか、何を仕掛けるのかを考える。僕がリーダーと言うわけではないのですが、積極的に提案はしています」

 2-2で迎えた66分、右CKをMF保竹駿斗が蹴り込むと、中島は周りと連動しながらマークを外すと、ドンピシャのヘッドで合わせて勝ち越し。さらに84分にも保竹の右CKから同様にマークを外してゴール前に飛び込むと、再びヘッドで叩き込んで、試合を決定づける4点目をマークした。

「チームとしてセットプレーを大事にしていたことと、ゴミを拾うなど日常からそういう行動を積み重ねてきたからこそ、僕のところに2回もチャンスが転がってきて、ものにすることができた。改めて日常からの些細なことからの心配りが必要なのだと感じました」

 9月の総理大臣杯は関東第3代表として出場をする。それに向けて中島はこれまで通り日常で自己鍛錬に努めながらも、「目配り、気配り、心配り」を実践していく。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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