大和魂の継承、崖っぷちの雪辱、穴埋め役返上…岐路に立つ日本代表W杯組の使命

経験豊富な3人にフォーカス【写真:徳原隆元】
経験豊富な3人にフォーカス【写真:徳原隆元】

大ベテランの比類なき経験値…“本物の基準” を若手に伝える重要な責務

 7月8日のホンコン・チャイナ戦(龍仁)を皮切りに、2025年E-1選手権の戦いがスタートする日本代表。大会メンバーが7月3日に発表され、26人中初招集が12人というフレッシュな顔ぶれとなった。2028年ロサンゼルス五輪世代の佐藤龍之介(ファジアーノ岡山)、大関友翔(川崎フロンターレ)、ピサノ・アレクサンドレ幸冬堀尾(名古屋グランパス)らも名を連ねており、森保一監督と日本サッカー協会が「若い世代の底上げ」を強く意識していることが窺えた。

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 一方で、経験豊富な面々もリストに入っている。その筆頭が間もなく39歳になる大ベテランの長友佑都(FC東京)。森保監督も「彼は(クラブで)常にフルには出ていない。が、(6月25日の)横浜F・マリノス戦を見た時に、彼ほど間合いがタイトな選手はJ(リーグ)でもそう多くない。相手に対してのプレッシャーの厳しさ、激しさは健在だ」とトッププレーヤーとしての“基準”を保ち続けていることを高く評価した。

 さらに森保監督は、「彼(長友)が見せてくれる練習、オフ・ザ・ピッチでの姿勢と態度は、すべての選手のさらなる成長につながるもの。日本代表としての大和魂、日本人の誇りを示してくれる」と高度なメンタリティに大きな期待を寄せ、チームキャプテンを託すことも明言した。

 2010年南アフリカ、2014年ブラジル、2018年ロシア、2022年カタールと4度のワールドカップ(W杯)に参戦し、イタリア、フランス、トルコと欧州各国で自己研鑽を重ねてきた長友の経験は、まさに比類なきものだ。蓄積された知見を、今回初招集された12人、特にロス五輪世代の若手に伝えることは重要な責務である。

 もっとも本人にとっては、2024年3月の代表復帰以降、一度も出場機会を得られていない苦境を打破することが先決となる。怪我やコンディションの問題もあったとはいえ、2026年W杯アジア最終予選出場ゼロというのは、ハイレベルなキャリアを築いてきた彼にとって屈辱以外の何物でもないはず。「自分が必要になるのはもっと先」と語ってきた長友だが、今大会では確実に出場機会が与えられるだろう。そのチャンスでこそ、森保監督が高く評価する“基準”を体現しなければならない。5度目の大舞台に向けた戦いは、ここから本格的にスタートするのだ。

2021年9月のオマーン戦に出場していた植田直通【写真:Yukihito Taguchi】
2021年9月のオマーン戦に出場していた植田直通【写真:Yukihito Taguchi】

約4年ぶり代表…「もう代表キャリアが終わった」を一蹴する絶好の機会

 一方、長友と同様にW杯経験を持ちながら、近年は代表から遠ざかっていた植田直通(鹿島アントラーズ)と相馬勇紀(FC町田ゼルビア)にとっても、E-1選手権は千載一遇のアピールの場となる。

 とりわけ植田にとっては復活への思いが強いだろう。2021年9月のW杯最終予選初戦・オマーン戦(吹田)でスタメン出場したものの、まさかの黒星を喫し、その後は4年近く代表から遠ざかった。「もう代表キャリアが終わった選手」という見方もあっただろう。

 当時の植田は、フランスのニーム・オリンピックに所属。シーズン途中の2021年1月に渡仏したものの、チームはリーグ・ドゥ(2部)へ降格。2021-22シーズンはフランス2部で28試合に出場したが、カタールW杯イヤーの2022-23シーズンは前半戦わずか1試合の出場にとどまり、苦境に直面していた。第1次森保ジャパンでは当初レギュラー候補として名を連ねていたが、最終的には同じ大津高校出身の先輩・谷口彰悟にポジションを奪われる形となった。

 その後、2023年に古巣・鹿島アントラーズへ復帰。着実に実績を積み重ねながら2024年に30歳の大台を迎え、「今から再び代表のユニフォームを着るのは難しい」という見方もあった。それでも、昨季から今季にかけての彼の安定感とタフネスぶりは、改めて高く評価されてしかるべきだ。

 森保監督も「今、トップを走る鹿島で守備からチームを支えている。高さと局面でのバトルに強さを発揮し、必ず弾き返せるところは現代サッカーで必要な部分。加えて攻撃の起点にもなれる」と賛辞を惜しまなかった。実際に今季の鹿島では、植田のロングフィードが鈴木優磨やレオ・セアラに一発で通り、決定的なチャンスを生み出す場面も少なくない。

 今回のE-1選手権は、その実力を約4年ぶり代表の舞台で証明する絶好の機会となる。人見知りな一面がある植田にとって、初招集が多い今大会はやりづらさもあるかもしれないが、30代のベテランとして堂々とリーダーシップを発揮できるかどうかも注目点。森保監督もそうした姿に期待を寄せているはずだ。植田が最終ラインを力強く統率し、存在感を示すことができれば理想的な形となる。スケールアップした姿を強烈に印象づけ、1年後のW杯本大会への挑戦権を掴み取ってほしいものである。

2022年のワールドカップに出場した相馬勇紀【写真:徳原隆元】
2022年のワールドカップに出場した相馬勇紀【写真:徳原隆元】

森保監督も「戦術・三笘」になぞらえる形で称賛

 もう1人のW杯経験者・相馬は「E-1→W杯」の道筋を実際に歩んだ生き証人だ。3年前の2022年E-1選手権での目覚ましい活躍が評価され、直後のカタールW杯メンバーに滑り込むまでの勢いと迫力を記憶している人も多いだろう。

 森保監督も「相馬は最近のJリーグの試合(6月29日のアルビレックス新潟戦)で素晴らしいゴールを決めていますが、『戦術・相馬』と言えるほどの突出した仕事ぶりをチームで発揮している」と、かつての「戦術・三笘(薫)」になぞらえる形でその貢献度を称賛している。

 相馬自身もシーズン開幕時、「今季は常に優勝争いをして、最後に頂点をもぎ取って、そのうえでもう1回、代表に食い込みたい。『(代表に)戻る』んじゃなくて、『チャレンジしていく』シーズンにしたいと思ってます」と語気を強めていたが、その言葉どおりアグレッシブに前へ前へ突き進んでいる姿勢が、今回のE-1選出へとつながった。

 今大会で3年前と同様のインパクトを残すことができれば、9月以降の代表コアグループ再合流も現実味を帯びてくる。これまでの代表キャリアでは、三笘や前田大然(セルティック)らアタッカー陣の離脱時に招集される「穴埋め役」のような扱いが多かったが、本人がそれに甘んじていたはずがない。

 1年前の2024年夏に欧州からJリーグへ復帰し、代表を目指すうえではやや厳しい立場にいるのは事実だが、まだまだ飛躍の余地はある。今回のE-1は、自身の可能性を再び証明する機会だ。「国内組からも大舞台への挑戦権を得られる」という現実を、自らのプレーで体現すること。それが今の相馬に課されたタスクだ。本人もそれを理解したうえで韓国の地に赴くだろう。

 長友、植田、相馬というW杯経験者がチームにもたらす影響は小さくない。即席の寄せ集めになりがちな大会で若手に安心感を与えると同時に、自らも超越したパフォーマンスを発揮することが求められる。彼らがフレッシュな代表チームの“大黒柱”として堂々とした働きを見せられれば、1年後のW杯本大会へ続く道筋も自ずと開けてくるはずだ。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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