天才と努力家…2011年組が紡いだ15年「相変わらず、すげえな」 記者越しに伝えた「全部粉砕して」

2011年、川崎に同期入団した大島僚太と福森晃斗【写真:Getty Images & Noriko NAGANO】
2011年、川崎に同期入団した大島僚太と福森晃斗【写真:Getty Images & Noriko NAGANO】

大島僚太と福森晃斗は2011年に川崎同期入団

 6月14日に開催された、J1リーグ第20節の横浜FC-川崎フロンターレ。ニッパツ三ツ沢球技場のピッチには、2011年の川崎フロンターレの同期入団組が立っていた。

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 大島僚太と福森晃斗である。

 リーグ戦で2人が同じピッチに立つのは、福森が北海道コンサドーレ札幌に所属していた2022年6月18日以来、約3年ぶりの出来事だった。

 実はこの試合前のオンライン取材に対応した大島は、対戦相手の警戒すべき存在として福森の名前を挙げている。横浜FCは、直近の公式戦となったルヴァンカップのプレーオフラウンドの第2戦で3点差のレギュレーションをひっくり返す大逆転勝ちを起こしているが、それを生んだのが福森の左足だったからである。正確無比な左足のキック精度は要注意だった。

「同級生の福森のように武器のある選手に対しての対策をせざるを得ないですし、安易なファールも含めて気をつけなきゃいけないです」

 あえて「同級生の」という枕詞をつけていたことに、大島からの絆を感じた。福森の名前が出たので、 自分と同じ年月を走り続けている同期に対する思いを尋ねてみた。

「お互いに特徴が大きく変わったわけでもないですし、1年目というか高校生の頃から彼のキックの凄さは知っていたので、『相変わらず、すげえな』って思ってます。それは変わらないですね」

 そう言って、大島は懐かしそうに微笑んでいた。盟友を語る言葉やその表情には、敬意もあったようにも思えた。

 迎えた試合当日。激しい雨が降り注ぐ中で行われたゲームは、川崎が1-0で辛勝した。横浜FCでもっとも危険だった存在は、やはり福森だ。後半、CKからのヘディングがバーに弾かれたが、あれも福森の左足から繰り出されたものだった。試合後、福森のキックについて尋ねられた大島が述べる。

「怖いっすね、常に。チームとしても警戒していました。相変わらずいいキックを持っていて怖いなと」

 一方、試合後の福森は、自身のキックの凄さを大島が絶賛していたことが話題に上がると、照れたような笑みを浮かべて話し始めた。

「僚太の方がすごいですから。天才なんでね、彼は。怪我にも泣かされていますけど、ここから調子を上げてくると思う。自分は努力家として……いいように言っておきます(笑)」

 自分は天才ではなく、努力家という方向で頑張っているのだというフクモリ節を炸裂させて記者陣の笑いを誘っていた。

福森晃斗がリクエスト「下位のチームに勝ってくれ(笑)」

 同期の2人は、今年でプロ15年目となる。毎年少なくない選手たちが淘汰されていくプロの世界。互いに紆余曲折はあったかもしれないが、現在も日本のトップカテゴリーで活躍する選手でいる事実は、小さくない意味を持つだろう。この15年という年月について福森に尋ねてみると、少し感慨深い様子で語ってくれた。

「15年ですか。2011年から一緒にプレーして、お互い33歳になる歳で、あとは同期のマル(谷尾昂也)も東邦(関東サッカーリーグの東邦チタニウム)でサッカーを続けている。みんなよくやっているなと思いますね」

 その表情から福森晃斗の背後に流れてきた時間を少しだけ感じたような気がした。そして復帰して調子を上げていく同期に対して、こんなリクエストを口にしている。

「もう自分は、ルヴァンカップや天皇杯でしか(川崎フロンターレと)対戦するチャンスはないので。リーグ戦では下位のチームを全部粉砕してくれ。『僚太、頼む』って感じです(笑)」

 降格圏にいる横浜FCにとって、川崎が残留争いのライバルに勝ってくれることが最も好ましい展開である。自分たち本意とはいえ、なんとも福森らしいお願いだった。取材の終わり際にも「僚太に言っておいてください。『下位のチームに勝ってくれ!』って(笑)」と念押ししていたほどである。冗談とはいえ、半分は本気に聞こえた。

 この伝言は25日に開催されたアルビレックス新潟戦前の取材のタイミングで大島に伝えておいた。内容を聞いた彼は笑みを浮かべていたが、どんな相手でも目の前の相手に全力を尽くすスタンスが変わるはずもない。

「僕らも勝ちに必死にならないといけないし、上を目指すので。上に行くにはどのチームにも勝たないといけないので。みんな各々のチームで頑張るので、一緒にやった人たちが上の順位で終わるといいですね」

 チームと自分のために全力を尽くす。それが結果的に、かつての仲間のためになる可能性はあるかもしれない。プロとして生きていくというのは、そういうことなのである。

 なお、その試合は3-1で川崎が勝利し、新潟は勝ち点を伸ばせなかった。大島は出場していないが、この結果に福森は川崎に感謝していたに違いない。

 プロになって15年。同じだけの年月を走り続けている同期としての絆を感じることのできた6月だった。

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いしかわごう

いしかわ・ごう/北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。

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