男女両方で裁ける主審は「現時点で稀」 先駆者が語る女子サッカー特有の性質「勝手が違う」

山下良美さん(左から2人目)をはじめ女子審判員の活躍が著しい昨今【写真:産経新聞社】
山下良美さん(左から2人目)をはじめ女子審判員の活躍が著しい昨今【写真:産経新聞社】

2022年カタールW杯では女性審判員の起用が話題に

 世界のサッカー界では女性の進出が盛んになり、各国の男子トップカテゴリーやワールドカップ(W杯)など最高峰の大会を担当する女性審判員も増えてきた。日本でもプロ化したWEリーグが発足するなど発展が見られるなか、2023年限りで女子1級審判員を勇退し、現在は公立中学校で教員として働く傍ら、1級審判インストラクターとして審判アセッサー(審判員のレフェリングを評価)も務める井脇真理子さんが、男女の試合の違いや日本女子サッカー発展への思いを語った。(取材・文=轡田哲朗/全3回の3回目)

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 国際サッカー連盟(FIFA)は、2022年カタールW杯で史上初めて女性審判員の起用を発表し、そのメンバーの1人として日本から山下良美さんが選出された。前年にはWEリーグが開幕し、女性審判員のレベルアップと活躍が必須となるなかでのニュースだった。

 井脇さんは「日本で女子のプロリーグができて、次はプロの女子審判員の誕生だと思っていました」という。しかし実際は、もう一段階上のステップが現実となる。

「AFC(アジアサッカー連盟)も男子の大会に女子審判員を割り当てることを始めていましたが、FIFAが男子W杯に女性審判員をノミネートしますと発表したあとは、『チャンスを掴むのは、どの国の誰か』と話題にもなりましたし、国際女子審判員の強化がさらに進みました。決められた方針に頑張って応えていくやり方をされたのは凄いなと思いますし、これまでには考えられないくらいの快挙でした」

 大会を担当して試合を裁くにあたり、性別に関係なく同条件のフィットネステストをクリアすることが必要になる。それは、女性が男性の試合で審判を務める場合だけでなく、逆の場合も同じだ。一方で、男女のサッカーの性質が異なる観点から、順応すべき点もあると説明する。

「女子のフィジカルレベルは上がっていると思います。プロのWEリーグになってから、トレーニングの時間も十分に取れて、メソッドもいろいろと発展しているのだと思います。ただ男子と同じプレーになるかというとまた違いますし、されて嫌なファウルもやはり男女で違う。だから、男子の試合をいつも担当している方が、女子の試合で審判をする時には、より細かく見ないと判定しづらいのではないかなと思います。

 どれだけフィジカルが上がっても、この違いはあるのかもしれません。良い悪いではなく、お互いにやりたいプレーをさせないようにする時、競り合いの部分で違いがあるのかなと。だから、男子の試合を裁けるスピードのある方が、女子のトップのバチバチの試合をどれだけ良い方向に持っていけるかというと、女子の試合に慣れていなければちょっと勝手が違うのかもしれない。本当の意味で、男女両方の試合で審判ができる人は、現時点ではなかなか稀なんじゃないかなと思っています」

教員と審判員の“二刀流”でキャリアを築いた元女子1級審判員の井脇真理子さん【写真:轡田哲朗】
教員と審判員の“二刀流”でキャリアを築いた元女子1級審判員の井脇真理子さん【写真:轡田哲朗】

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 現在の日本の女子サッカーが、チームの立ち上げやグラウンドの確保などで奔走した人々の存在からつながっているのは事実だ。井脇さんは「そういうひたむきな自立した文化は大事にしていきたい」と力を込める。

 一方、審判についても「そもそも、別に男性でも女性でもいい、普通に試合を見て審判してくれればいい、という考えだったように思います。そこから、女性のサッカーをよりしっかりと見られるのは女性なのかもしれないと、私たち女性審判員が試合を担当するようになっていった。女子のサッカーが当たり前にあって、上手い人や強い人がいる一方、そうではないけど頑張りたい人もいる。自分が生かせる場所は何かを考えたうえで、審判員として好きなサッカーに関わりたいという人が増えるといいなと思っています」と語る。

 また、サッカーの一部を担う審判という存在について「嫌な役割の時もあるけど、いないと困るんですよね。先生もそうですが、問題が起こるような時に、もし自分が『知りません』と言って何もしなかったらすべてが悪いほうにしかいかないところで、『ちょっとすみません、こうじゃないですか』って介入する人も必要なのかなと。理想は、選手が全力で戦いながらも、審判の笛はキックオフとタイムアップだけ、という試合」と話す。さらに「頑張って走れば、すごく良いプレーを、すごく良い場所で見られますよ。選手たちと一緒にいいゲームを作るという喜びもあるよ、っていうことは伝えていきたいですね」と笑顔も見せる。

 最後に、今後の日本女子サッカー発展への願いも言葉にした。

「もちろん、もう1回世界一(2011年女子W杯で日本優勝)という願望もあるし、何度もそういう結果を出す国の1つでいたいです。そのためにはWEリーグの発展が不可欠だと思います。そこからさらに、海外に行っている選手や海外から来ている選手から良いものを取り込んで、より成熟させていきたいですね。その1つに審判もあるので、本当にゴールがないところだと思うのですが、選手と同じくレベルアップしていきたいです。

 先日、試合で新潟へ行った時、エスコートキッズになった高校生くらいの子が『川澄奈穂美選手に会えた』と、本当にアイドルを見るように感動して泣き出してしまったと聞きました。そういう応援の仕方をしてくれる若い子たちがいるということや、選手個々やチームによる努力の功績に改めて感動しました。さらに女子サッカーの魅力を世の中に伝えていくことと、興行的にも魅力を高めて、応援してくださる方々や企業を増やしたいですね。そのためにできることをサッカーファミリーみんなでやっていきたいと思います」

(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)



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