南野拓実「勉強したい」→欧州で成功…日本人が海外で価値を高める秘訣「大きなポイントに」

ザルツブルクからステップアップを勝ち取った南野拓実【写真:IMAGO / Eibner Europa】
ザルツブルクからステップアップを勝ち取った南野拓実【写真:IMAGO / Eibner Europa】

日欧サッカーを熟知するモラス雅輝氏が語る…欧州クラブが評価する選手の条件

「日本サッカーの未来を考える」を新たなコンセプトに据える「FOOTBALL ZONE」では、現場の声も重視しながら日本サッカー界のあるべき姿を模索していく。現在オーストリア2部ザンクト・ペルテンでテクニカルディレクター、育成ディレクター、U-18監督を兼務し、Jリーグでコーチも務めた経験を持つモラス雅輝氏に、欧州クラブが評価する選手の条件について聞いた。(取材・文=中野吉之伴)

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

   ◇   ◇   ◇   

 ディレクターの仕事は事務的な作業も多い。ライセンス保持者の証明書、新しいコーチやトレーナーの証明書など書類関係の作成にそれなりに時間を奪われる。その合間に育成チームへの練習参加の問い合わせが殺到する。

「それこそ何十人から連絡が来るけど、本当に実力がある選手はいても2人くらい。みんなすごく主張してくるんですね。『今いるクラブでは監督と上手くいかなくて、雰囲気が合わなくて実力を発揮できない。けど、僕の本当の力はこんなもんじゃない』って。でも、ちゃんとネットプロフィールなどを調べてみると、出場試合数や出場時間もすぐ分かるわけです。『あれ? うちのクラブより下のリーグに所属しているクラブでほとんど試合に出ていないけど?』となる。僕もオーストリアでの生活が長いから、大抵のクラブ関係者は繋がっている。情報はすぐに入ってきます。実はお父さんがすごい感情的になる人で試合中に監督のことをいろいろ言うから、クラブとして困っているみたいな話が出てきたりする。そうなるとますます獲れない」

 これは育成における話だが、トップチームのテクニカルディレクターも務めるモラス氏の元には様々な人から連絡が来る。移籍市場が開くと、聞いたことがない、あるいは会ったこともない代理人から売り込みの電話が後を絶たないという。

「チェックしないと、もしかしたら本当に凄い選手かもしれない。一応全部チェックします。でも肩透かしに終わることばかりです」

移籍の注目ポイント「日本での選手としての市場価値ではなく…」

 代理人は興味を持ってもらおうと、その選手の凄さをとにかく強調する。選手の長所をまとめた動画が添えられることもある。だが、いいプレーばかりがまとめられているとモラス氏は指摘する。

「それほど凄い選手だったら『なんで今このキャリアで、そのクラブでプレーをしているの?』という疑問が浮かぶ。映像で切り取られたプレーだけを見ると凄い選手なんです。5大リーグの上位争いしているクラブでも通用しそうな印象のある選手もいたりします。ただ、一瞬一瞬切り取られたプレーだけでは選手の評価はできないんです。実際に(試合を)通して見ると、フィットネスが十分でない、戦術理解に乏しいなど、様々なマイナス面が見えてくることがよくある。そうなるとこちらは動けないんです」

 モラス氏は、自分のプレーを正しく分析できることは大事だという。例えば、あるセンターバック(CB)の選手はスピードがあり、競り合いにも強い一方、足もとの技術は改善の余地を残すということが分かっていれば、ビルドアップ能力の高いCBとコンビを組ませたり、3バック起用で上手くかみ合うかもしれないとクラブ側はイメージできる。改善点が分かっている選手であれば、どういう取り組みが必要で、どんなリーグのどんなクラブでプレーすべきかの輪郭がはっきりしてくるのだ。

 では、この選手が面白いとなった時、補強リストに名前を載せるかどうか。クラブ側はどのあたりに注目するのか。モラス氏は選手の資質、年齢、ポテンシャルと並べて、「語学力」を1つのポイントに挙げる。

「日本でのサッカー選手としての市場価値ではなく、国際市場における価値を上げることが大事なんです。そうなると、やはり言葉というのはどうしても大きなポイントになるんですよね。監督やスポーツディレクターと、通訳を介さずに話ができるような語学力を身に付けていると、大きなメリットがあるのは間違いないで

チームメートとのコミュニケーションも成功に欠かせない【写真:IMAGO / GEPA pictures】
チームメートとのコミュニケーションも成功に欠かせない【写真:IMAGO / GEPA pictures】

南野拓実が見せた姿勢「そこで違いも出てくると思います」

 そして、モラス氏はザルツブルク時代の南野拓実(ASモナコ)を好例として挙げた。

「南野選手は最初から『ドイツ語を教えてください。勉強したいです。あれはどうやって言うんですか?』って、すごい言語の習得に積極的でした。ザルツブルクで1年半後にはドイツ語で軽いインタビューなどをしていましたね。成長する選手にはそうした姿勢があるし、そこで違いも出てくると思います。リバプールに行って、それからモナコに行って活躍を続けている。本当に素晴らしいですよね」

 欧州では積極的にコミュニケーションを取り、相手を理解しようとする姿勢が重視される。だからこそ、自分自身や自国について言葉で語れないと、真の意味で分かり合うのは難しい。文化も習慣も言語も異なる環境で育った者同士であれば、なおさらだ。最初は“ノリの良さ”で打ち解けることができても、そこから会話を重ねていかなければ、より深いところで分かち合えない。

 もちろんサッカー選手にとって最も重要なのはピッチ上でのパフォーマンスであり、言語力が乏しくてもプレーで示せればそれでいいという側面もある。実際、語学が不得手でも素晴らしいキャリアを歩んだ選手もおり、それを否定する必要はない。しかし意志を伝えられるほうが、より相互理解が進むのは間違いない。国際舞台で活躍する日本人選手が増えている時代。将来の可能性を広げる意味でも、若いうちから語学習得に力を注ぐことは、もはや必須事項と言えるのかもしれない。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



page 1/1

中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング