佐野海舟の勇姿「尊敬します」 欧州挑戦の意外なリアル「何待ちなのか…一番壁を感じた」

セルヴェットの常本佳吾【写真:Getty Images】
セルヴェットの常本佳吾【写真:Getty Images】

スイスで2シーズン目を戦った常本佳吾が語る壁「やっぱりまだ難しい」

 ヨーロッパで2シーズンを経験したDF常本佳吾。言葉の壁や文化の違いと向き合いながら、スイス1部の名門セルヴェットでコンスタントに出場を重ねる日々を過ごし、「自分は恵まれている」とピッチ内外で感じたリアルな思いを語る。ヨーロッパで戦う日本人選手の活躍を刺激に、瀬古歩夢や佐野海舟らとも励まし合いながら成長を続ける26歳の姿に迫る。(取材・文=中野吉之伴/全4回の2回目)

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 ジュネーブ駅すぐ近くのカフェで常本にインタビュー取材をしたのは4月下旬。ヨーロッパの春は天気が不安定なことも少なくないが、この日は上々の晴れ模様。オープンテラスに現れた常本は朗らかな様子で席に着くと、こう切り出した。

「今日、このあとフランス語の授業があるんです」

 常本がスイス1部セルヴェットFCに来て2シーズン目。様々な国と国境するスイスは地域によって公用語が違う。ドイツ寄りのバーゼル、ベルンやチューリッヒはドイツ語中心で、フランスと国境が接するジュネーブはフランス語が公用語。スイス全土で英語が話されているため、常本も英語を学んでいると考えていたが、フランス後を勉強しているという。常本は苦笑い交じりに語る。

「フランス語はめちゃくちゃ難しいです。日常会話などは大丈夫ですけど、専門用語なども聞くとなるとやっぱりまだ分からない。それから聞き取りはできるけど、自分の意思を伝えるのがやっぱりまだ難しいです」

 フランス語を学んでいるということは、ピッチ上でのやり取りもフランス語なのだろうか。

「フランス語です。去年は監督と個人でやり取りする時は英語で話しました。でもチーム全体のミーティングはフランス語。なんとなくですけど、やりたいことは分かる。でも100%はまだ理解できていないですね」

 去年の指揮官は元鹿島アントラーズ監督のレネ・ヴァイラーだ。常本のことをよく知る人物が獲得を熱望しており、常本にとってもそうした関係性が最初からあったのは大きい。今季からスポーティング・ディレクターを務めるヴァイラーと常本は、何かとコミュニケーションを取っているという。

チームメイトとは阿吽の呼吸「喋らなくていいぐらいの意思疎通ができている」

 仲間とのやり取りはどうなのか尋ねてみると、「自分は恵まれているなと思うほど、チーム内での関係性はいいですね。そこまで苦労しなかったというか、チームもすごく温かく迎えてくれた。サッカーで自分の良さを証明することができたら、すんなりと溶け込めるのがヨーロッパサッカーなのかなというふうには感じました」と話し、1人の選手を例に挙げた。

「(サイドバックでプレーする)自分より前のポジションでプレーするミロスラフ・ステヴァノヴィッチ選手(元ボスニア・ヘルツェゴビナ代表)がすごくいい。彼はキャリア終盤に差し掛かっていますが、経験豊富なユーティリティーな選手で、どんな役割もこなせる。彼とは英語で話をしますが、2年間一緒にプレーするなかで、守備の場面では喋らなくていいぐらいの意思疎通が2人の間でしっかりできている。自分の中でもかなり助かっている部分があります」

 シャルケ時代の内田篤人を思い出す。右サイドで組んでいたペルー代表ジェフェルソン・ファルファンとのコンビはブンデスリーガ有数のレベルにあった。信頼できる選手が近くでプレーしている意味は大きい。逆にコミュニケーション面で困った時はあったのだろうか。常本は「うーん」と考えてから、「怪我した時ですね」と明かした。

「怪我して、病院で自分の細かいニュアンスを伝える部分はやっぱり困りました。僕がこっちに来てすぐの時期に捻挫をしてしまって、今どんな検査をしているのか、今どういう状況で何待ちなのか分からないし、実際どこが悪いのかもよく分からなかった。それは困りましたね。病院が一番言葉の壁を感じたし、自分の思っていることが伝えられないのと、何を言っているのか分からない不安がありました。そもそも怪我で不安になっているなか、プラス言葉の壁でより不安になったというのはありましたね」

 近年ではクラブ対応だけではなく、パーソナルトレーナーを雇いセルフケアに時間とお金をかける選手も増えつつある。常本もこうした対応に同意する。

「分かります。必要ですね。サッカーをしに来ているからこそ、そこにかけられるだけのことをしないと。僕もこちらに来てから、セルフケアの大事さをより一層感じる。怪我したら苦しい状況になるのは分かっているので、怪我をしないようにセルフケアに時間をかけることが増えましたね」

海外日本人の活躍から刺激「勝手に励みにしています(笑)」

 海外でプレーしていると、日本人とのつながりは貴重であり、励みにもなるものだ。常本は「日本人情報を見るのも好きですね。どういう環境でやっているのかなとか、自分と比べながら見ていますし、勝手に励みにしています(笑)。ヨーロッパでプレーしている日本人選手の活躍を見て、刺激を受けて奮闘している感じですね。みなさん凄いと思います。そういえば、アユムはなんて言ってました?」

 同じくスイス1部グラスホッパーで残留争いに苦しんだ瀬古歩夢は、一番連絡をする間柄だという。なかなか思いどおりにいかないもどかしさをぶつける相手がいるのは大きいのだろう。

「メンタルが大変だろうなって思います。やっぱり試合に勝てないときつい。本当にリスペクトしています。彼の苦しいチーム状況とかも分かっていたし、僕も怪我の時に彼と話をすることができて良かった。お互い励まし合っています」

 常本はスイスに来て以来、現地時間のメリットもありヨーロッパサッカーを頻繁にテレビ観戦するようになったという。ただテレビ契約の関係で、ブンデスリーガはなかなか見られないと明かす。インタビュー後、週末まで試合がない期間で「ちょっと試合観戦に行こうかな」と常本はもらす。

「バイエルンのホームである海舟(佐野海舟)のいるマインツの試合を見に行こうか計画中です。来週休みなので。頑張っている姿を見たいし。行けたら楽しみですね」

 後日、その宣言どおり実際にアリアンツ・アレーナを訪れた常本。7万5000人の大観衆が集まった一戦で、今季リーグ優勝を果たすホームのバイエルン相手に堂々とプレーしたマインツ佐野の姿に、深い感銘と刺激を受けたようだ。

「かっこ良かったですし、1年目からフルシーズンを戦えるのは相当な準備があってだと思います。尊敬しますね」

 欧州で戦う仲間として、互いに励まし合いながら成長を誓い合う。そんな関係が素敵ではないか。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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