大混戦J1…鹿島を追うリーダー候補は? 死闘に見る後半戦主役の片鱗と条件

ACLE準優勝の川崎とCWCを控える浦和が対戦
おそらく今年最も多忙を極め、そのための豊富な戦力を備えた両雄が対戦した。
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ホームの川崎フロンターレは、長谷部茂利監督が就任してから改めて戦力を洗い直し、競わせながら幅広く適材適所でチャンスを与え、それが過酷なAFCアジアチャンピオンズリーグエリート(ACLE)で準優勝という結果につながった。
一方、アウェーの浦和レッズは、川崎に匹敵する戦力を擁しながら、マチェイ・スコルジャ監督は比較的中心メンバーを固定しながら戦ってきた。だがクラブワールドカップ(CWC)を控え「新しい可能性も試していく」と宣言し「タイトル争いに絡む難しい相手」と高く評価する川崎を相手に、マテウス・サヴィオ、渡邊凌磨、松尾佑介の3人をベンチに置き、前線には髙橋利樹と中島翔哉を起用。得点源として期待していたチアゴ・サンタナが「CWCに間に合うかどうかギリギリの状態」とのことで「同タイプの髙橋を試しておく必要があった」のだという。
大筋でゲームを支配したのは川崎だった。
ボールを奪われた瞬間の鋭い守備で上回り、ミドルゾーンを1タッチの連鎖で切り抜けていくビルドアップにも熟練度が増し、特に前半は最終ラインでのボール回しから抜け出せない浦和とは対照的だった。チャンスを作れなかった浦和は、中島のクロスがそのままゴールに吸い込まれる幸運に恵まれて先制するが、川崎も5分後にCKから追い付く。エリア内で中央に集結する浦和を高い精度のパスで揺さぶり、伊藤達哉が決定的なシュートを放った直後のセットプレーから奪ったゴールなので、質の高い攻撃力を証明するものだった。
浦和も後半14分にマテウス・サヴィオと松尾、同21分には渡邊と大久保智明を送り出したので、下がった金子拓郎以外は通常のスタメン組が揃い決定機も築いた。しかし川崎は、後半41分に交代出場したばかりの大関友翔が逆サイドでフリーのファンウェルメスケルケン際に展開。ダイレクトで折り返したボールを、やはり交代出場した瀬川祐輔が合わせる美しい崩しで突き放す。だが浦和も終了間際に右サイドに流れたマテウス・サヴィオがフリーでクロスを連発。攻撃を強化するためにボランチの安居海渡に代えてピッチに送った長倉幹樹が頭で折り返したボールに大久保が反応して土壇場で勝ち点1を拾い上げた。
ACLEの成功体験を経て成長が見られる川崎、浦和はCWCが栄養になれば…
川崎にとっては痛恨の引き分けだった。ただし試合内容を見れば、再び黄金期への道を歩み始めているように映る。真価を発揮しつつあるエリソンの負傷交代は手痛い誤算だったが、伊藤、マルシーニョは好調を持続。ボランチは山本悠樹の精度の高いキックと構築力、さらに視野の広い河原創のワンタッチパスが相まって攻撃を加速させ、バリエーションを生み出している。
また三浦颯太の故障の穴を埋めている佐々木旭は、昨年はセンターバックで安定感をもたらしていたが、やはりサイズや特徴を考えてもサイドバックが適任で、不可欠なピースとして充実期を迎えている。そのうえで大関、神田奏真、橘田健人、瀬川らのタレントが選手層の厚みを象徴。長谷部監督は、シーズン当初から過密日程を考慮し戦力のフル活用を試みてきたが、彼らの成長がACLEの成功体験を経て促進され、とりわけ攻撃の多彩さでは傑出している。
それに比べれば浦和は、まだ十分に戦力を使いこなせていない印象だが、固定メンバーではCWCや日程が圧縮されるリーグを戦い抜けないことは指揮官も心得ており、今後は新しい選手層の開拓にも乗り出していく模様。厳しいCWCが栄養になれば、後半戦の主役に躍り出る潜在能力は秘めている。
大混戦のJ1は、確実に勝利を重ねる鹿島アントラーズがやや抜け出しつつある。しかしリーグ全体を俯瞰し、今後の展望を睨めば、おそらく川崎や浦和にもリーダーシップを握れるだけの条件は整っている。

加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。




















