Jリーガー→歌手の異色転身 破産危機で背中を押した香川真司の存在「あいつはマンU、俺はバイト」

歌手グループ「SHOW-WA」の一人として活動をしている青山隼氏
2007年にU-20日本代表として、元日本代表MF香川真司や元日本代表DF内田篤人氏らとともにFIFA U-20ワールドカップ(W杯)にも出場した青山隼氏。27歳で現役を引退した彼は今、秋元康氏がプロデュースする歌手グループ「SHOW-WA(しょうわ)」の一人として活動をしている。「サッカー選手」と「歌手」という子供たちが憧れそうな2つの職業を一度の人生で経験するという稀有な道を歩く青山氏は、どのような過程で「SHOW-WA」のメンバーの一員となったのか。(取材・文=河合拓/全5回の1回目)
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「SHOW-WA」は昨年9月4日に「君の王子様」でメジャーデビューし、現在は初の全国ツアーを行っている最中だ。23年7月のオーディションで誕生した大手芸能事務所AVEX一押しの歌手グループ。元プロサッカー選手の青山氏以外にも、料理研究家、モデル・俳優、大手企業サラリーマンというキャリアを歩み、セカンドキャリアで歌手になった6人による異色のグループである。サッカー選手を引退して9年。青山氏は、どのようにして「歌手」というセカンドキャリアにたどり着いたのか。
サッカー選手にとって、これからキャリアの絶頂期を迎えると言える27歳で現役引退を決意した青山氏。引退して約1か月後には、現役時代からつながりのあった芸能事務所に入り、タレント・俳優としてのキャリアをスタートさせる。
「もう8年、9年、経ってしまいましたけれど、そもそもずっとサッカーしかやってきてなかったので、新しいことをやる、しかもまるっきり違うことをやることが、どれだけ自分にとって大変かなこととは分かっていました。でも、いざ本当に違う畑に入ってみたら、思っていた以上に大変でした。謙虚に、礼儀正しくやると『選手の時はそうじゃなかっただろう』と言われたり、少し軽いノリで『おはようございます!』と挨拶したら『謙虚さが足りない』『サッカー界と、この世界は違うぞ』と言われたり。とにかく何をやっても言われる感じだったので、仕事の内容よりも、青山隼という人間を否定されているような感じがすごくありましたね」
Jリーガーとは真逆の生活に困惑
周囲がチヤホヤしてくれるトッププレーヤーから、元サッカー選手の駆け出しのタレントとして偏見のまなざしを向けられるようになっても、「自分が新しいことにチャレンジしているんだ」と葛藤を抱えながらも前向きに捉えていた青山氏だが、空白のスケジュールにも悩まされた。
所属クラブのあるサッカー選手であれば、スケジュールはクラブが管理してくれていた。試合に出て活躍することが、サッカー選手の大きな仕事だが、仮に試合に出られないのであれば、練習で己を磨いて監督にアピールすることになる。練習後には練習着を洗濯籠に入れ、スパイクもチームに預ければ、翌日にはしっかりと洗濯や手入れをされた状態で用意され、また練習に臨める。求められていること、やるべきことは非常に明確だった。
しかし、無名のタレントにはやることがなかった。事務所に入ることができれば、事務所が仕事を取ってきてくれるだろうと思っていた青山氏だったが、仕事が入ることは皆無に近く、たまにマネジャーから「オーディションがあるから行ってきて」と連絡が入るくらいだった。
「本当に仕事がないんです。でも、誰も何も言わない。24時間をどう自分が使うかが僕次第になって、選手時代とは真逆の生活環境だったので、そこはすごく戸惑いました」
少し前までサッカー選手だった青山氏には、仕事をくれるツテもない。オーディションがあるのも1年に1回か2回くらいであり、書類選考で落ちることも珍しくなかったという。
「スポーツ選手は『今、自分はこれが足りないから、こういうことをやればいい』というのが明確でしたが、この世界ではその答えが分からないんです。『よし、やろう』と意気込んで、この世界に飛び込みましたが、何をすればいいのか、自分の課題がなにか、どう向き合ってやったらいいのか戸惑いましたね。それは今も少しあるのですが、当時は右も左も分からないどころか、前に進んでいるのか、後退しているのかも分からない感覚でした」
刺激になったスーパースターの活躍
仕事がなければ、当然、収入もない。現役時代の貯金を切り崩していく生活で「このまま行ったら、オレ破産するわ」と思い、28歳の時に初めて中華料理店でアルバイトをした。ある日、バイト前に携帯電話を見ていたら、「マンチェスター・ユナイテッドの香川真司、プレミアリーグでアジア人初のハットトリック」というニュースが目に飛び込んできたという。
1個下の元日本代表MF香川真司とは、FCみやぎバルセロナやアンダー世代の日本代表でもチームメイトだった。「自分は何をしているんだろう」とネガティブな気持ちになってもおかしくないが、青山氏は自分の道を歩めている感覚を持てたのだという。
「それを見た時に『あいつはマンチェスター・Uに行って活躍しているけど、俺は中華料理店で年下のアルバイトにビールの入れ方を教わっているのか』と思いましたよ。でも、そういうのが僕は人生だと思うんですよね。メンタルがもって、サッカー選手を続けていれば、34歳、35歳くらいまではできた自信もあります。でも、自分がクラブとの契約も残っていたなかでピリオドを打ちましたし、それがどういうことかも常に考えながら、この9年間を過ごしてきました。『貯金がなくなってきた』『お金がないからどうしよう』っていうのは、選手の時はまったく考えたこともありませんでしたが、そういうことを今経験できているのも、楽しいなと思えるんですよね」
物事をポジティブに捉える今の青山氏だが、「選手の時、特に10代前半はすごくネガティブでしたね」と苦笑し、サッカー選手時代の自分に足りなかったものが見えてきたと続けた。
「これは後悔とは少し違うのですが、今のマインド、考え方を持ってプレーヤーとしてやっていたら、また違うプロサッカー選手になっていたと思うんです。なぜかというと、僕は一つのミスに課題を見つけることを大事にしていたんです。でも、それが入り過ぎてしまって『また同じミスをしてしまった』と引きずってしまいました。そこのマインドコントロール、ミスの受け取り方が選手の時はできていなかった。あとは『なんで監督は使ってくれないんだ』『自分は調子いいのに、なんで使われないんだ』とか、他人のせいにしていました。自分の自己満足だったなと、今になって思いますね」
物事を前向きに捉えられるようになったこと、矢印を他人ではなく自分に向けることの重要性に気づかせてくれた人物がいるという。歌手として活動する今も、大切な指針となる教えをしてくれたサッカー界にいる人物とは誰だったのか。
<<第2回に続く>>
(河合 拓 / Taku Kawai)




















