2度の落選、大怪我…キャンプでAチーム抜擢「マジか!」 失意の1年を経て大ブレイク「もっと化ける」

今季ブレイクの24歳・熊坂光希が乗り越えてきた困難の連続
今季の開幕戦から連続出場を続ける柏レイソルのMF熊坂光希。昨年のキャンプの時点では、関根大輝(現スタッド・ランス)とともに“2024年のブレイク候補”とチーム内では大きな期待を寄せられていた。その証拠に、プレシーズンマッチのちばぎんカップではスタメン出場を飾っていた。
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しかし、そのちばぎんカップで負傷してしまい、開幕から出遅れたことで歯車が狂った。昨季リーグ戦の出場は10試合。唯一スタメンで出場したリーグ戦第7節の東京ヴェルディ戦は前半45分で交代を告げられた。大学を経て、自分が育ったクラブに帰ってきた熊坂にとって、ルーキーイヤーは失意の1年に終わった。
熊坂は柏のアカデミー出身。しかし、彼が辿ってきた道のりは平坦ではなかった。小学4年、小学5年と、2年連続で受けた柏U-12のセレクションには、2度とも落選した。練習生という形を経て、中学からようやく柏アカデミーに入れたものの、サブに回ることが多く、高校2年のU-18時代には右膝の半月板損傷という大怪我により、長期にわたって戦列から離れることになった。
同期の細谷真大が二種登録選手としてトップチームに帯同し、高校生にしてJリーグの公式戦に出場していたのに対し、熊坂は怪我の影響もあり、U-18の大半をBチームで過ごした。ユース年代のトップリーグにあたる高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグも、最終節でわずか1試合に出場しただけだった。
「自分にはトップチームに上がる実力がなかったので、大学で頑張ろうと思った」
熊坂が進学先に選んだのは東京国際大学。熊坂曰く「東京国際大はレイソルアカデミーとは真逆のスタイル」。ただ、アカデミーとはまったく異なる環境が、熊坂の能力開花を促進させた。
もともと柏アカデミー出身とあって、足元の技術やビルドアップ能力は高かった。そこに大学で強度の高い守備とハードワークを身に付け、さらに華奢だった体格には逞しさが増した。プレーエリアも広がり、一躍Jクラブが注目する“ボックス・トゥ・ボックス”を体現する大型ボランチへと変貌を遂げたのである。
熊坂に対して、J1とJ2を合わせて4クラブが獲得に乗り出した。そのなかからプロで戦う場として彼が選んだのが、自分がアカデミー時代を過ごした柏だった。しかし冒頭でも述べたとおり、熊坂にとってプロ1年目は失意のシーズンに終わった。
そして2025年、熊坂に大きな転機が訪れる。柏の新監督にリカルド・ロドリゲスが就任した。熊坂は、かつて浦和レッズに在籍し、現在はベルギーのKAAヘントでプレーする伊藤敦樹との共通点が多い。185センチの長身、長いリーチを活かしたボール奪取能力、さらにそこからの展開力と前へ運ぶ推進力。その伊藤を登用したのが、浦和時代のリカルド監督だ。今年1月のチーム始動時に、熊坂はその伊藤の例を挙げて「チャンスはある」と言い、そのチャンスをつかむためにも「今年は怪我をしない」とシンプルな目標を掲げていた。

若手の域を超え、リカルド・スタイルを象徴する1人に
チャンスは早いタイミングで訪れた。
柏は今季に向けて、鹿児島県指宿市でキャンプを行った。キャンプ3日目の1月22日には早くも紅白戦を行い、リカルド監督は実戦形式のトレーニングを通じて戦術の落とし込みを図った。この紅白戦で、Aチームのダブルボランチに抜擢されたのが、原川力と熊坂だった。
ボランチの顔ぶれには、戸嶋祥郎、白井永地、手塚康平と、Jリーグでも実績十分な先輩たちがいるにもかかわらず、ホワイトボードに書かれていたAチームに自分の名前を見つけたときに、熊坂は「マジか!」と驚いたという。チームの始動日は1月9日。そこから約10日間のトレーニングで、リカルド監督は熊坂のポテンシャルを見抜き、抜擢に至ったのだろう。
キャンプ中の紅白戦や練習試合では、チーム内の競争意欲を煽るためにメンバーを固定することはなく、常にシャッフルしてメンバーを組んでいたが、熊坂と原川のダブルボランチの組み合わせだけは最後まで変わらなかった。
今季はここまでリーグ戦全試合に出場しており、もはや熊坂は“有望な若手”という域を超え、リカルド・スタイルを具現化する主軸の1人になった。その活躍は柏のみならず、周囲からの注目を集め、今や「E-1選手権の日本代表に選出されるのではないか」という声まで上がり始めた。
では、昨年と今年で、熊坂は何が変わったのか。その問いかけに彼は「何も変わっていません」と答える。しいて言うならば「自分の持ち味を出しやすいサッカーに変わった」と、自分が変わったというよりはチームのスタイルが変わったことが熊坂にとって好影響になった。それでも、第三者としての目線では彼の変化は大いに感じられる。それが自信だ。
熊坂は口数が少なく、おとなしい性格である。プロ1年目の昨季は控えめな部分も否めなかったのだが、開幕スタメンに名を連ね、試合を重ねるごとに間違いなく彼は自信を深めていった。
ただ、「おとなしい性格」とは言ったが、おそらく内に秘めたる思いは人一倍強い。熊坂のこれまでのサッカー人生は常に困難が付き纏っていた。セレクションには二度落選し、長い期間をBチームで過ごし、大怪我も経験した。気持ちの弱い選手であれば、挫折してもおかしくはなかったのだが、彼はその障壁を乗り越えてプロにまで辿り着いたのだ。
柏のチームメートやコーチングスタッフも「もっとふてぶてしくなれば化ける」と大きな期待を寄せている。今の活躍はブレイクの前兆にすぎない。熊坂光希が殻を破るのは、これからだ。
(鈴木潤 / Jun Suzuki)





















