21歳の“失態”に苦言「仕方ないで片づけたくない」「足りない」 同僚が続々と言い放った訳【コラム】
浦和FW二田理央は町田戦で痛恨のファウルを犯した
問題の場面を思い返すたびに、浦和レッズの二田理央の脳裏には「後悔」の二文字が浮かんできた。
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国立競技場で8月31日に行われた、FC町田ゼルビアとのJ1リーグ第29節を2-2で引き分けた直後の取材エリア。今夏にオーストリア2部のザンクト・ペルテンから加入した、21歳の快足FWが静かに切り出した。
「本当に余計なことをしてしまった。自分のあのプレーで、ゲームを壊してしまいました」
二田が言及したのは、浦和が2-1とリードして迎えた後半アディショナルタイム3分のプレーだった。町田の攻撃をはね返した直後に、こぼれ球を浦和のDF石原広教がワンタッチで前線へ通した。ターゲットは途中出場していたMF松尾佑介。自陣の中央から自慢のスピードを駆使してカウンターを発動させた。
松尾に食らいついていったのは、町田ではDF杉岡大暉とMF下田北斗だけだった。右側を同じく途中出場していた二田がフォローしていた状況で、どんどん加速していく松尾は杉岡を突き放し、ペナルティーエリア内へ侵入した後には森保ジャパンに選出されている町田の守護神、谷晃生までかわした。
無人と化した町田のゴールへ、利き足とは逆の左足で松尾がボールを流し込む。ダメ押しとなる3点目に、赤く染まったゴール裏のスタンドから起こった「We are Reds !」の大合唱が国立競技場を揺るがす。松尾は看板を飛び越えてファン・サポーターのもとへ近づき、左胸のエンブレムを指さしながら喜びを共有した。
二田も松尾のもとへ駆け寄り、背中越しに抱きついて祝福する。しかし、どうも様子がおかしい。木村博之主審が何度も笛を鳴り響かせ、興奮冷めやらない松尾と二田へ向かって、谷が「違うぞ」とジェスチャーを送っている。歓喜の場面から1分あまり。ゴールは取り消され、試合は谷のキックで再開された。
何が起こっていたのか。実は松尾がペナルティーエリア内へ侵入する直前に、二田が右手でユニフォームの背中越しに下田を引っ張り、さらに首の部分へ左手をかけて倒していた。二田が不必要なファウルを犯した約5分後。町田のFWエリキが起死回生の同点弾を決めた直後に、雨中で繰り広げられた死闘も終焉を迎えた。
もしも松尾のゴールが認められていたら――仮定の質問に、二田は声を絞り出しながら答えた。
「あれが認められていたら、時間的にも3対1で勝っていたと思います。それは本当に間違いありません。自分のああいうプレーのためにこうなってしまって、本当に申し訳ないと思っています」
6月30日のジュビロ磐田戦以来、6試合ぶりとなる白星を逃した責任を一身に背負った二田は、ゴールに関係のない局面で下田を背後から引きずり倒した、言い訳のできない自身のファウルにも言及した。
「走っているときに(松尾)佑介くんがファーにシュートを蹴ると思って、相手キーパーからこぼれたボールを狙おうと考えて、相手(下田)の外側に走ろうとしたときにちょっと手を出してしまいました」
松尾が単独でシュートに持ち込むと仮定し、そのコースも予測しながら、谷にセーブされた場合に反応する体勢を整えようとした。そのためには自身の右斜め前方にいた下田が邪魔になる。しかし、町田に希望を与えた点で、軽率といっていい二田のファウルの代償は大きかった。町田のキャプテン、元日本代表DF昌子源が言う。
「展開的にもロングボールが増えて、ずっとウチのペースだったなかで、セットプレーからのカウンターでなかなか戻りきれない場面でしたけど、結果的に相手のファウルで取り消された。まだ1点差の状況が続いたので、最後に一回あるんじゃないか、ビッグチャンスを作れるんじゃないか、と思いました」
ベンチスタートだった二田に出番が訪れたのは1-1で迎えた後半18分。MF長沼洋一とともに、最初の交代カードとして投入された。右サイドハーフから左サイドハーフ、そしてFWチアゴ・サンタナがピッチに入った同32分以降は、その背後で2トップ気味にプレーした意図を二田はこう振り返っている。
チームメイトは二田へ厳しい声を投げかけた
「監督の池田(伸康)さんからは『後半から出る、リザーブのメンバーが大事になる』と言われていました。自分への指示も、相手が体力的にきつくなってきたなかで最後のあのシーンみたいなプレーというか、自分たちが自陣でボールを奪った後の切り替えで、ああいうスプリントをしてほしいというものだった。そこは自分のよさだし、あそこでスプリントしなかったら、自分が試合に出る意味はないと思っているので」
こん身の力を振り絞って松尾を追走しながら、画竜点睛を欠くファウルを犯した二田へ、試合後にはチームメイトたちから厳しい言葉が投げかけられた。たとえばMF渡邊凌磨はこう語っている。
「仕方がない、という言葉で片づけたくない。浦和の一員として試合に出る以上は、しっかりと学んでほしい」
ペア・マティアス・ヘグモ監督の更迭と、昨シーズンに指揮を執ったマチェイ・スコルジャ監督の再登板が電撃的に発表されてから4日。就労ビザ取得の手続きなどで来日を果たせていない新指揮官と、暫定監督に就いた池田伸康コーチとが話し合ったなかで、約4か月半ぶりの先発を果たしたMF小泉佳穂も続いた。
「理央のファウルにしても、最後の失点にしてもしたたかさが足りないし、冷静さも集中力も足りない」
二田を責めているわけではない。身長174cm体重70kgの体に搭載された群を抜くスピードや得点感覚、そして守備でも奔走する献身的な姿勢が浦和の力になると認めているからこそ、渡邊も小泉もあえて苦言を呈した。
二田自身もチームメイトたちの檄を逃げずに受け止め、汚名返上を期すエネルギーに変えていた。
「試合が続いていくなかで、今日の自分を本当に反省して、また試合に出られるチャンスをもらったときには、チームのためにしっかりと走って、いままでと変わらずにチームのために戦いたい。自分の特徴を出しながら、チームに本当にいい流れを与えられる選手になりたいし、次はゴールという形でチームを助けたい」
サガン鳥栖U-18時代の2021年6月の横浜F・マリノス戦で、2種登録選手としてJ1リーグでデビュー。直後に鳥栖とプロ契約を結び、さらにオーストリア2部のヴァッカー・インスブルックへ旅立った二田は、ザンクト・ペルテンとの契約を1年間残した状況で、6月末に完全移籍の形で浦和の一員になった。
「アジアで一番熱いクラブでプレーできることに感謝して、ひとつでも多くファン・サポーターのみなさまと勝利を分かち合えるように全身全霊で闘います」
加入時にクラブを通じて発信された二田の決意は、新天地でデビューした7月14日の京都サンガF.C.戦、J1初ゴールを決めた同20日の北海道コンサドーレ札幌戦、初先発した8月11日の古巣・鳥栖戦、そして絶対に忘れられない失態を犯した町田戦を経てさらに膨らみ、新体制での再出発を期す浦和の新たな力と化していく。
(藤江直人 / Fujie Naoto)
藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。