J1首位・町田はなぜ勝てなくなったのか 激減した“必勝パターン”…黒田監督に問われる手腕【コラム】

町田・黒田剛監督【写真:©FCMZ】
町田・黒田剛監督【写真:©FCMZ】

先制&前半リードの試合が激減

 8月11日に開催されたJ1リーグ第26節のFC町田ゼルビア対湘南ベルマーレでは、首位の町田が0-1で敗れた。同日開催された2位鹿島アントラーズとジュビロ磐田との試合も、鹿島が1-2で敗戦したため首位と2位の勝ち点差は3のまま変わらなかった。だが、今年のJ1を引っ張ってきた町田の勢いに陰りが見えている。

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 町田にはどこからブレーキがかかり出したか。それを理解するためには、町田の必勝パターンを考えてみる必要がある。

 今季の町田の特長は、先制点を取った時の勝率の高さだ。先制点を奪った試合が多いわけではない。第26節を終えて最も先制点を奪った試合数が多いのは鹿島の18試合、それに17試合のサンフレッチェ広島、16試合の川崎フロンターレ、横浜F・マリノスと続き、町田の14試合は5位にとどまる。

 ところが先制した14試合のうち、13試合に勝利を収めていて、これはリーグトップだ。また、前半リードした試合の数は10試合と、これも川崎と並んでリーグトップ。さらに前半リードした試合で負けていない。つまり、町田の本来の必勝パターンは前半のうちに先制点を奪って後半はしっかり守る試合運び。そうやって町田は勝ち点3を積み重ねてきた。

 そのパターンが崩れ出したのは6月1日の第17節、アウェーのアルビレックス新潟戦になる。

 それまでの町田は16試合のうち、先制したのが12試合、前半リードしたのは8試合だった。ところがその後は10試合のうち、先制したのも前半リードできたのも2試合にとどまる。

 第1節から第16節まで奪ったゴールは27得点で1試合平均約1.7得点、そして12失点は1試合平均0.75失点だった。ところが、そこからの10試合では10得点で平均1.0得点、8失点で平均0.8失点になっている。

黒田監督の真価が問われる

 対戦チームが町田のこの特長をしっかり理解して対策を講じていることが、町田がシーズン当初の「勝利の方程式」にゲームを落とし込めなくなった要因の1つだ。前半は慎重に試合を進め、後半を迎えれば高いインテンシティーの町田は動きが鈍くなり、穴が開き始めるところを狙う。

 また、疲労の色が出ていることが町田の進撃の足かせになっている。第17節まで、町田が先制し、前半リードする展開になった時は、総走行距離とスプリント回数の両方で相手を上回っていた(開幕のガンバ大阪戦は総走行距離でG大阪が1.75キロ勝っているが、後半15分に町田には退場者が出ていることを考えると、前半の間は上回っていたと考えるのが妥当だろう。また磐田戦だけが両方とも勝りながら無得点で敗れている)。

 ところが第17節以降は、両方の数値で上回りながらも第18節の横浜FM戦、第21節のG大阪戦と先制も前半リードもできない。名古屋グランパス戦では第17節までの必勝パターンに持ち込み、第23節の東京ヴェルディ戦は両方の数字が劣りながらも前半6分のゴールを守り抜いて勝つという一面も見せた。だが、直近2試合では両数値が上回りながら、先制も前半リードもできず、引き分け、負けという悪いパターンに入ってしまった。

 ここまで黒田剛監督は「負けないサッカー」を標榜し、徹底的にリスクを排除したプレーで戦ってきた。今、そこに影が落ちているのだ。

 実は黒田監督はシーズン終盤まで現在のサッカーを続けられるとは考えていない。「残り試合が少なくなって(順位が)見えてきて、勝たなければいけないという状況になったら」という条件付きで、「勝つためのサッカー」に転換することを示唆していた。

 ならば、まさに今週がその転換期にふさわしいだろう。次節の磐田戦は、前回対戦で総走行距離もスプリント回数も上回りながら敗れた相手。鹿島を破って勢いにも乗っている。今年最初に町田が見せていたスタイルで再び挑んでも、優位に立てるとは限らない。

 町田は去年から金明輝コーチの指導でさまざまなバリエーションのサッカーのトレーニングをしている。金コーチがサガン鳥栖の監督をしていた時代は、現在のサッカーとはまるで違う方向性だったことを考えると、これまでとは大きく違う町田のサッカーを見せることも可能かもしれない。

 今のタイミングを「まだ2位と勝ち点3差ある」と見るか「もう勝ち点3差しかない」と見るか。そして、「追い付かれてない今のうちに変える」と決断するか、「追い付かれない間は今のままで様子を見る」と考えるのか。次の黒田采配が楽しみだ。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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