柏FW細谷真大が見せる上昇気流の兆し 頼れるパリ五輪世代エースが示し続ける最前線での脅威【コラム】
柏FW細谷真大は攻撃を活性化させる活躍
相手が見せた一瞬の隙を、柏レイソルのFW細谷真大は見逃さなかった。川崎フロンターレのホーム、Uvanceとどろきスタジアムに乗り込んだ25日のJ1リーグ第16節。1-1で迎えた後半17分だった。
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川崎のゴールキックで再開された場面で、センターバック(CB)の大南拓磨がゴールキーパー、チョン・ソンリョンへ短いパスを通した。細谷はまずソンリョンの右側からプレッシャーをかけた。
大南へのリターンを封じられ、さらに左側に開いていたCBジェジエウをFW木下康介がチェックしている。ソンリョンは中央へポジションを下げてきた、アンカーの橘田健人へボールを預けるしかなかった。
すかさず柏のボランチ、戸嶋祥郎が橘田の背後からプレッシャーをかける。橘田は大南へのワンタッチパスでボールを一度下げた。しかし、パスのコースが数メートル、大南の左側へずれてしまった。
「あの場面で相手(橘田)がパスをミスした直後に、いったん(大南の)スピードが落ちたので。自分でも(ボールを)取れると思っていたし、実際にうまく取れたと思っています」
細谷が振り返るように、やや緩慢に映る動きでボールを追った大南は、周囲を警戒する素振りも見せていなかった。大きく回り込みながらボールを収めると、そのまま右サイドへボールを運んでいく。ソンリョンの近くにいた細谷は大南が見せた隙にチャンスの匂いを嗅ぎ取り、最短距離で一気に間合いを詰めていった。
鬼気迫る表情で迫ってくる細谷の存在に気がついたからか。大南もボールを前へ運ぶスピードを上げたが、とてもじゃないが間に合わない。ボールホルダーの内側から最接近した細谷は、激しいボディコンタクトを挑む。たまらず体勢を崩した大南に対して、素早くターンした細谷はファウルなしでボールを奪い取った。
瞬く間に切り替わった攻守。大南を置き去りにした細谷が川崎ゴールに迫っていく。角度のない位置から自らシュートを打つのか。それとも味方を生かすのか。ペナルティーエリア内へ侵入した細谷が選択したのは、ニアポスト付近へのグラウンダーの速いパス。ターゲットは右手でパスを要求していた木下だった。
しかし、直前の後半14分に同点ゴールを決めていた木下が、右足を合わせようとした直前。危機を察知したジェジエウが逆サイドからカバーに戻り、最後は渾身のスライディングで木下のシュートを食い止めた。
ただ、こぼれ球は川崎ゴール前でまだ弾んでいる。敵味方の誰よりも早く反応したのは細谷。右足を振り抜いてゴール左側を狙ったシュートを見舞う。細谷をして「自分でもコース的にはよかったと思う」と振り返らせた一撃はしかし、ソンリョンがとっさに伸ばした右足に弾き返され、右サイドでのスローインに変わった。
一気呵成の逆転劇かと、柏のファン・サポーターを沸かせたシーンを細谷はこう振り返った。
「ボールを取った後のプレーの選択肢というところでは1つ、2つあったと思うので、そこの質を上げるところもそうですし、こぼれ球もしっかり沈めたかった。もう一回リプレイで見て確認したいと思っていますけど、もうちょっとコースを浮かせば、相手(ソンリョン)にとってもやりづらかったと思っています」
試合はそのまま1-1で引き分けた。今シーズンだけでなく、昨シーズンも一度もマークできなかった3連勝は逃した。それでも直近の4試合で2勝2分けと負けていない柏は、トータルでも5勝7分け3敗、勝ち点22ポイントで暫定10位につけている。暫定としたのは、消化試合が他チームより1つ少ないからだ。
「前半は相手にボールを持たれていた部分があったし、先に失点もしてしまった。後半は負けている状況で始まったので、しっかりと前からプレスにもいって、ゲームも支配できていたとは思うので、その流れでもう1点というところが必要だった。やはり勝ち切らないと上位にはいけないので。負けなかった、というのはポジティブにとらえていいと思いますけど、そのなかでもしっかり勝ち続けないといけない」
細谷が振り返ったように、シュート数が川崎の1本に対して柏が10本と、後半に限っては柏が圧倒した。試合の流れを変えた要因のひとつは、細谷と木下が労を惜しまずに繰り返した前線からのプレス。腰痛から7試合ぶりに復帰したソンリョンがファインセーブを連発しなければ、柏が快勝していた可能性もあった。
だからこそ、逆転かと思われたシュートをソンションに阻止された後半17分の決定機を細谷は悔やむ。パリ五輪代表候補に名を連ねる22歳のエースストライカーの胸中には、覚悟と決意が凝縮された思いが脈打っている。
「自分がゴールを決めないと、チームは上にいけないと思っている」
シーズン序盤はゴールを決められず苦しみを味わった
湘南ベルマーレから2-1で逆転勝利をもぎ取った、15日の第14節後に残した言葉。この試合で細谷は後半32分の木下の同点ゴールをアシストし、アディショナルタイムには勝ち越しゴールを突き刺している。
昨シーズンは自己最多の14ゴールをマーク。得点ランキングで5位タイに名を連ねた細谷は、出場9試合目でようやく決めた今シーズン初ゴールに「フォワードとしては、やはりしんどかった」と本音も吐露している。
U-23日本代表のエースストライカーとして臨んだ、先のU-23アジアカップでも自らに矢印を向け続けた。グループリーグの全3試合に出場しながら無得点。それでも開催国カタールとの準々決勝で大岩剛監督から先発を託され、2-2で迎えた延長前半11分に決勝ゴールを決めて雄叫びをあげた。
勝てばパリ五輪出場が決まるイラクとの準決勝でも先発した細谷は、前半28分に技ありの先制ゴールを流し込んだ。日本を8大会連続の五輪出場に導くと、ゴールこそ奪えなかったものの、ウズベキスタンとの決勝でもフル出場。チームに関わる全員が目標として共有してきたアジア王者も手土産に加えて帰国した。
U-23アジアカップで柏を離れた関係で、細谷のリーグ戦出場試合数は4つ少ない。それでも942分を数えているプレー時間は、攻撃陣のなかではMFマテウス・サヴィオの1322分に次いで長い。井原正巳監督が寄せている厚い信頼を物語る数字と言っていい。すでにキャリアハイの6ゴールをマークしている木下も、最前線でコンビを組む7つ年下の細谷へ「僕には強力な相方がいるので」と声を弾ませている。
前線で繰り返す泥臭い守備や、木下をはじめとする味方を生かす献身的なプレー。それらが評価されているのはもちろん励みになる。それでもエースストライカーと呼ばれている以上は、何よりもゴールという結果がほしい。だからこそ、惜しかったとか、あるいはあと一歩だったという言葉に細谷は背を向け続ける。
「攻撃的に出ていくところもそうですし、球際のところも含めて、前半よりよくなっていた。だからこそ、もうひとつゴールを奪えば、確実に勝ち点3を取れていた。自分の結果も含めて、チームをしっかりと勢いに乗せていきたい。次もすぐ連戦がありますし、しっかりと勝ちにこだわって、その上で自分の結果もついてくれば」
川崎戦を終えた細谷の視線は、中3日で29日に待つ、横浜F・マリノスとの未消化カードへすでに向けられていた。敵地・日産スタジアムで行われる一戦で勝てば、柏は暫定で6位に浮上する。そして、一夜明けた30日にはパリ五輪代表発表前で最後の実戦となる、U-23日本代表のアメリカ遠征メンバーが発表される。
(藤江直人 / Fujie Naoto)
藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。