久保建英の今季総括、スペイン人記者に訊くリアル評 「ベリンガムに次ぐ選手」から「残念」…分岐点は?【現地発コラム】
アトレティコ戦先発復帰の久保、今季は公式戦41試合出場で7得点4アシスト
久保建英は2試合ぶりに先発復帰した現地時間5月25日の最終節アトレティコ・マドリード戦で、今季の全日程を終了した。
【PR】ABEMA de DAZN、明治安田J1リーグの試合を毎節2試合無料生中継!
レアル・ソシエダは前節ベティス戦を2-0で制して6位の座が確定し、来季のUEFAヨーロッパリーグ(EL)の出場権を獲得。リラックスした状態で25日にホームで行われたラ・リーガ最終節に臨んだ。
対するアトレティコもすでに12年連続のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権を手にしていたため、本来なら注目の集まる対戦カードのはずだが、スタンドの入りも3万人程度と多くはなかった。
イマノル・アルグアシル監督はこの一戦に向け、カルロス・フェルナンデス、アイエン・ムニョス、マルティン・スビメンディ、イゴール・スベルディア、ハビ・ガラン、ウマル・サディクの6人を怪我で欠くなか、さらに主力を数人温存。前節ベティス戦で出番のなかった久保を2試合ぶりに先発起用し、サポーター投票による4月の月間MVPに選ばれたシェラルド・ベッカーと併用した。
アルグアシル監督が以前、「戦術的判断」と語っていたとおり、ここのところベンチスタートが久保だったが、この日は右サイドで特にスタンドを沸かす選手となった。
早々にリードを許し、1点を追う展開となるなか、久保は得意のドリブルで対峙したサムエウ・リーノを翻弄し、度々相手のファールを誘い、CKのキッカーを務め、何度もクロスを上げていく。中でも際立ったシーンは後半16分。右サイドからゴールに向かってドリブルを仕掛け、ペナルティーエリア手前から左足で強烈なシュートを放ったが、惜しくも名手ヤン・オブラクの牙城は崩せなかった。
チームは後半アディショナルタイムに追加点を許し0-2で敗れ、連勝は2でストップ。ラ・リーガは今季、4位で終わった昨季より勝ち点11少ない勝ち点60で6位、CLはラウンド16、国王杯は準決勝進出という、疲労困憊のなかで戦い抜いたチーム状態を考えれば十分な成績で全日程を終了した。
後半戦に入り、度重なるフィジカル面の問題に苦しめられ、パフォーマンスにかげりの見えた久保の公式戦成績は、41試合出場(先発33試合)、16勝15分10敗、7得点4アシストだった。
スペイン各紙は久保のパフォーマンスを評価「ラ・レアルの中で最も危険な選手だった」
スペインメディアは右サイドで躍動した最終戦の久保に対し、全体的に高評価した。
クラブの地元紙「エル・ディアリオ・バスコ」紙は、「昨季はセカンドトップとしてベストパフォーマンスを披露したが、サイドで多くの相手を置き去りにするには100%の力を発揮しなければならない。今対戦で一度それを成し遂げるも、(アトレティコGK)オブラクの好セーブに阻まれた。チャンスをものにすることはできなかったが、クオリティーの高さを示し、ゴールラインからクロスを狙っていた」と寸評し、3点(最高5点)をつけた。
もう1つの地元紙「ノティシアス・デ・ギプスコア」は、「ラ・レアルの中で最も危険な選手だった。アジアカップからの復帰後、パフォーマンスが完全に落ちたのは事実だが、常にトライし続けている。彼のことを個人主義者だと非難する人もいるが、チームは彼の走りに感謝している。素晴らしい切り込みを見せたが、オブラクの好守に阻まれた。彼らはいつもどおり久保が望むものすべてを与え、久保はそれ以上のものを返していた」と評し、6点(最高10点)。全国紙の「マルカ」、「AS」の評価はともに2点(最高3点)だった。
また、アトレティコ戦後、「ノティシアス・デ・ギプスコア」紙でソシエダの番記者を務め、今回も含めソシエダの選手の採点を毎試合つけているミケル・レカルデ氏に久保について話してもらった。
まずアトレティコ戦のパフォーマンスについて、「良かったと思う。久保には困難な状況に常に立ち向かうことができる並外れた資質がある。これは疑いようがない事実だ。相手がアトレティコという非常に難しい試合において、集中力が途切れることも、存在感が薄れることもなく、常に何かをトライし続けていた。アトレティコのような屈強なディフェンスと対峙するのは簡単なことではないが、それでも今日はとても巧みだったし、できる限りの力を発揮していたよ」と称賛した。
スペイン人記者が指摘「久保はその影響を受けて大きく苦しむことに…」
レカルデ氏は続けて今季を総括し、「シーズン最初の3分の1の久保は、ラ・リーガでジュード・ベリンガム(レアル・マドリード)に次いで2番目に優れた選手だったと思う。しかし、アジアカップが彼に多大な影響を与えることになった。シーズン半ばにチームを離れ、頭を代表モードに切り替えなければならないことはまったく簡単なことではなく、彼にとってそれはネガティブに働いた。その影響を受けて大きく苦しむことになったし、シーズン終盤に重要な存在になれず、決定的な役割を果たせなかったので残念だよ」と見解を述べた。
来季の去就については「私は残留すると確信している。今の彼にとってラ・レアルよりも良い場所など存在しないし、本人もそれを分かっていると思う」と明言した。
最後にレアル・マドリード移籍について、「もちろんその可能性もないだろう。レアル・マドリードには別のチームプロジェクトがあるし、久保もまた、レアル・マドリードではラ・レアルほど重要な選手にはなれないこと、そしてラ・レアルのプランが今の自分に非常に合っていることを自覚している。彼は若いので、今後ラ・レアルよりも大きなクラブでプレーする機会は十分あるはずだ」と言及した。
ラ・リーガのスター選手の1人に挙げられるほど幸先の良いスタートを切りながらも、不本意な形でシーズンを終えた久保はこの後、チームとともに日本に飛んで29日に国立競技場で東京ヴェルディと対戦し、さらに日本代表に合流する。
まだ休む暇はないが、現時点でパリ五輪参加の可能性はなくなっているため、おそらく過去1番ハードだったシーズンの疲れを、代表戦後にゆっくり癒せるかもしれない。
高橋智行
たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。