町田のフィジカルに怯まず 不安材料追い払った広島の“覚醒ストライカー”「得点王を狙えるぞ」【コラム】
【カメラマンの目】町田との頂上決戦で2-1の勝利
相手は妥協を許さない激しいプレーで、日本プロサッカー最高峰のJ1リーグを初進出ながら席捲しているFC町田ゼルビア。その町田に対して、高い共通意識によって展開される戦術を駆使した攻撃と、守備では相手のパスの出しどころを素早く察知し、自陣へと打ち込まれるボールの供給を遮断して敵にサッカーをさせなかった。こうして文章にするのは簡単だが、実際にピッチ上で実行するのはかなり難しい。それを実践して見せたのが4月3日のJ1リーグ第6節で町田と対戦したサンフレッチェ広島(2-1)だった。
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広島の守備は1対1での勝負では、その強度に自信を持っている町田を超える逞しさを発揮し、空中戦でも佐々木翔らが競り勝つ場面が目に付いた。なにより町田の攻撃陣にボールが渡る前に、鋭い読みでパスコースに猛然と詰めよってカットし、1対1の勝負の状況さえ作らせない場面が多くあった。
攻撃に転じれば、両サイドの高い位置までは選手たちの戦術による意志疎通が成されているため、スムーズにボールが運ばれていった。さすがに敵のゴール近くの最深部になるとマークが激しくなり簡単にはプレーできなかったが、町田のフィジカルを前面に出して戦うサッカーに対してまったく怯むことなく、力強いスタイルをキックオフから試合終了のホイッスルが鳴るまで展開し、上位対決に完勝した。
広島にはシーズン前の宮崎キャンプから、攻守に渡ってまとまりの良さが見て取れた。激しいプレーながらクリーンにボールを奪う守備と、攻撃に転じればどこからでも相手を崩せ、また誰もが得点者となる全員サッカーが形作られ、チームとしての完成度の高さを感じた。
ただ、どこからでも攻撃ができるチームにあって、敢えて不安材料を探すとしたら、それはストライカーにあった。2試合を見たキャンプでのトレーニングマッチでは、ピエロス・ソティリウ、ドウグラス・ヴィエイラ、そして大橋祐紀のFW陣に、得点源としての大きなインパクトを受けることはなかった。そのためチームに弱点があるとしたら、ストライカーの不在と感じていた。
だが、そうした懸念はリーグが開幕すると杞憂に終わる。新加入の大橋がキャンプを経てチームにフィットし、攻撃陣を牽引している。開幕スタメンの座を勝ち取った背番号77はさっそく2ゴールをマークし存在感を示す。タフな雨中戦となったこの町田戦でも先制点を叩き出す活躍を見せた。
宮崎キャンプで青山敏弘に話を聞くと広島はチームとして完成している。あとは優勝へと到達するためには、突き抜ける力が必要だと語っていた。
大橋はリーグ6試合で4ゴールとチームのスタートダッシュとともに、環境が変わった新チームで信頼を勝ち取り、結果を出している。試合後、広島は選手と指導陣、そしてスタッフが円陣を組み、チームの先導者であるミヒャエル・スキッベ監督の言葉を聞いた。その光景には一体感が漲っていた。
円陣が解かれたあとに指揮官から「得点王を狙えるぞ」と笑顔で声をかけられた大橋。リーグ優勝を語るには早急だが、大橋が頂点へと辿り着くための突き抜ける力になる可能性は十分にある。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。