「久保建英はチームの太陽になれなかった」 8万円チケット完売の祭典…地元紙&記者が辛口指摘【現地発コラム】

PSG戦に出場した久保建英【写真:Getty Images】
PSG戦に出場した久保建英【写真:Getty Images】

CLラウンド16第2戦でPSGと対戦したソシエダ、ベストメンバーを揃え久保も先発

 3月5日、“レアレ・アレーナ最大の祭典”がついにその当日を迎えた。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16でパリ・サンジェルマン(PSG)との対戦が昨年12月に決定してからというもの、サン・セバスティアンの人々は今か今かとこの日を待ち侘びていた。もちろん先週の国王杯準決勝第2戦もビッグマッチだが、世界中が注目するCLとあって、期待の高まりはその比ではなかった。

 チケットの一般価格は180ユーロ(約2万8800円)~495ユーロ(約8万円)と超高額であるにもかかわらず完売だ。これがどれだけ高いかというと、例えば15日のカディス戦が25ユーロ(約4000円)~40ユーロ(約6400円)、先週の国王杯準決勝マジョルカ戦が45ユーロ(約7200円)~100ユーロ(約1万6000円)だったことから分かる。

 座席によっては通常の10倍以上もの金額なのだ。にもかかわらず、これまでの最多記録である3万8342人(昨季のバスクダービー)を抜く3万9336人が訪れ、レアレ・アレーナでの観客動員数の新記録を樹立した。まさしく“レアレ・アレーナ最大の祭典”だ。

 スタジアム周辺は通常、試合前であっても車の往来は自由だが、この日はスペイン政府機関がサポーター同士の衝突を懸念し、“ハイリスク宣言”を出したことで厳戒態勢が敷かれて通行禁止。通常の何倍もの警官が動員されたが、それもそのはず。パリから2000人のサポーターが訪れたのに加え、500人のウルトラスがチケットのない状態でやって来ていたのだ。普段は美食の観光地として名を馳せる穏やかな街の一角が、物々しい雰囲気を漂わせていた。

 遡ること3週間前、パルク・デ・プランスでの第1戦を0-2で落としたレアル・ソシエダは、最低でも2点が必要な状況だった。イマノル・アルグアシル監督はこの一戦に備え、週末のラ・リーガ第27節セビージャ戦で、6人を入れ替える大幅なターンオーバーを実施。アジアカップ後も休ませることなく6試合連続で先発起用してきた久保に加え、ロビン・ル・ノルマン、ハビ・ガラン、ミケル・メリーノ、ブライス・メンデス、ミケル・オヤルサバルといった主力選手を休ませることを決断した。

 しかし、控え組を多用した結果、調子を上げてきているセビージャにサンチェス・ピスファンで2-3の敗北を喫してしまう。これにより、直近の公式戦9試合でわずか1勝、ホームでは昨年11月から公式戦7試合勝利なし、国王杯準決勝敗退、ラ・リーガはUEFAヨーロッパリーグ(EL)出場圏外の7位……。あらゆる面がネガティブな状況のなか、この大一番に臨むことになった。

 対するPSGは、昨年11月にCLグループリーグでミランに敗れたあと、公式戦20試合負けなし。リーグアンでは首位独走という万全の状態。アルグアシル監督はできる限りのベストメンバーを揃え、第1戦ではキリアン・ムバッペの先制点を許した責任の一端を担った久保も当然、先発メンバーに名を連ねた。

PSGを本拠地レアレ・アレーナで迎え撃ったソシエダ。高額チケットも完売し観客動員数の新記録を樹立【写真:高橋智行】
PSGを本拠地レアレ・アレーナで迎え撃ったソシエダ。高額チケットも完売し観客動員数の新記録を樹立【写真:高橋智行】

PSG戦が行われたソシエダの本拠地レアレ・アレーナの売店の様子【写真:高橋智行】
PSG戦が行われたソシエダの本拠地レアレ・アレーナの売店の様子【写真:高橋智行】

ヌーノ・メンデスのマークに苦戦した久保、カットインからシュートも枠を捉え切れず

 満員の会場がヒートアップするなか、ついに“レアレ・アレーナ最大の祭典”の幕が開ける。ソシエダはキックオフからハイプレスをかけて先制点を狙いに行き、久保も前日会見で、「欧州屈指のチームとやり合うためにはベストのラ・レアルが必要だ」と語っていたように、右サイドを起点に意欲的なプレーを仕掛けていくが、相手の固い守備に阻まれまったく突破できない。反対に前半15分、圧倒的な個の力を見せつけたムバッペに先制点を奪われてしまう。残り75分で3得点が必要となり、ホームアドバンテージを生かした「奇跡の大逆転劇」がさらに遠のく瞬間となった。

 久保は対峙したヌーノ・メンデスのマークに苦しめられ、なかなか縦への突破は許してもらえない。それでも簡単にボールを奪われることはなく、28分にはイエローカードを誘発。しかし守備に追われる時間が長くなることで、42分には今季の公式戦通算3枚目のイエローカードを出されてしまう。

 ソシエダは攻撃の手立てを模索するも、相手の守備には隙がない。そんななか、久保は前半終了間際に右サイドでパスを受けたあと、カットインして左足を振り抜いた。数少ない攻撃のその瞬間、スタンドが沸き上がる。しかしボールはわずかにゴール左上隅を逸れ、得点のコールが叫ばれることはなかった。

 後半に入り、余裕を持って戦えるPSGが完全に主導権を握ったことで、久保は前半よりもボールを受けられなかった。そして11分、イ・ガンインの鮮やかな前線へのフィードからムバッペが難なく追加点を奪い、後半開始早々にもかかわらず、祭りの終わりが見え始めた。

 その後、スコアが動かないまま時計の針が進み、ホームサポーターの前で最後の力を振り絞ったソシエダは、最後にミケル・メリーノが一矢報いたものの、1-2(2試合合計1-4)でCL敗退が決定した。

 試合後、まだ状況を受け入れがたいかのように呆然とピッチに立ち尽くす久保に、マジョルカ時代ともにプレーしたイ・ガンインが歩み寄って抱擁し、健闘を称え合うシーンが印象的だった。久保のキャリア初のCLはラウンド16で終了した。

車が通行止めになるなど厳戒態勢が敷かれた本拠地レアレ・アレーナ周辺の様子【写真:高橋智行】
車が通行止めになるなど厳戒態勢が敷かれた本拠地レアレ・アレーナ周辺の様子【写真:高橋智行】

久保建英について語ったスペインラジオ局「ラジオ・ナシオナル」のアンドニ・ピネド記者【写真:高橋智行】
久保建英について語ったスペインラジオ局「ラジオ・ナシオナル」のアンドニ・ピネド記者【写真:高橋智行】

地元紙は辛口「この試合の大きな失望の1つ」、地元記者は敗戦の理由について言及

 この試合における久保への地元紙の評価は高くはなかった。「ノティシアス・デ・ギプスコア」紙は、「この試合の大きな失望の1つ。違いを生み出すために選ばれたはずだが、その役割を果たせず、マーカーに2枚目のイエローカードを出させることもできなかった。ほとんど不可能なゴールを狙い、ゴールラインまで辿り着けなかった」と酷評し、4点(最高10点)と低評価した。

 もう1つの地元紙「エル・ディアリオ・バスコ」は、「前半は積極的にプレーし、ベッカーに面白いパスを何度か出し、ファーポストへのシュートでゴールを狙ったが、仲間が戻らざるを得ない簡単なパスミスを犯していた。ハーフタイム前と終盤に優れた個人プレーがあった」と評し3点(最高5点)。全国紙「マルカ」紙の評価は1点(最高3点)、「AS」紙は2点(最高3点)だった。

 この試合をスペインのラジオ局「ラジオ・ナシオナル」で実況したアンドニ・ピネド記者の目に、この日の久保のパフォーマンスはどう映ったのであろうか?

「今日はチーム全体と同じで、久保も低調な出来だった。シーズンを幸先良くスタートして、チームメイトと切磋琢磨して高め合ってきた。しかし今日の久保には開幕当初のような姿はなかった。もちろん彼の周りの選手のパフォーマンスが低下していることも大きく影響しているのは間違いない。チーム全体がフィジカル的に落ち込んでいて、輝きを失っていた。久保もその1人だ。彼は今日、チームの太陽にはなれなかった」

 続けて敗戦の理由について、「フィジカルコンディションの悪さが一番の理由だよ。ラ・レアルは心身ともに厳しさが要求されるCLのような大会に慣れているチームではない。国王杯では準決勝まで勝ち進んだが、怪我人を多数抱えたことでローテーションが難しくなっていた。フィジカル面がギリギリな状態のまま長いシーズンを過ごしていることで、最近は特に結果を残しづらくなっている」と分析した。

 短期間で2大会から去ったことで、ソシエダにとって今季残すはラ・リーガの11試合のみとなった。チームにとって最も大きなモチベーションになっていたCL敗退のダメージは計り知れないものがあるだろう。しかし、シーズンをできる限り素晴らしい形で終えるため、すぐに気持ちを切り替え、直近の公式戦10試合でわずか1勝という悪い流れを断ち切らなければならない。

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高橋智行

たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。

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