得点パフォーマンスはどこまでOK? マジック披露に芝生を食す仕草…元主審が考察【見解】
【専門家の目|家本政明】ゴールパフォーマンスの一環で“マジック”を披露する場面が話題に
アジアカップの決勝戦では、得点を決めたカタール代表FWがゴールパフォーマンスの一環で“マジック”を披露する場面が話題になった。競技規則上の観点から、元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏がこの珍しいシーンに言及している。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)
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日本がベスト8で敗退となったアジアカップは、決勝でヨルダンと開催国カタールが激突。PKでのハットトリックを達成したカタールFWアクラム・アフィフは、その独特なゴールパフォーマンスでも注目を集めた。
まずは先制ゴールのシーンで、ソックスから自身の姿が映ったカードを取り出す。瞬時に「S」と書かれたカードに変える手品パフォーマンスを披露して観客を沸かせる。2点目のあとには、早速手品の種明かし。同様のカードを取り出しカメラに向かってめくれる仕様となっている証拠を見せた。
当時大きな話題を呼んだ“斬新パフォーマンス”だが、競技規則上ではカードの持ち込みなどはいかがなものなのか。家本氏に直撃すると「過剰な喜びは懲戒罰の対象になる」と示しつつ、「あのカードが試合や得点を喜ぶ状況に絶対必要なのかというと、そうではない。全然関係ないものが持ち込まれていて、それを使った喜びなので懲戒罰の対象になると個人的には思う」とルール上での扱いを説明した。
「例えば、マスクをかぶってゴールパフォーマンスしたことでイエローカードというのは、過去にJリーグでもあった。かぶりものではないけどあのカードも同様の扱いを受ける可能性があった」
日本での事例を出しつつ、あくまでルール上は警告の対象になる可能性も否定しなかった。今大会では、「ただ誰が確認するのかってなった時に、おそらく現場のレフェリーチームがそれを確認するのが難しい環境だったんだろうな」と家本氏は想定。また「VARが確認したとしても、『退場』に値する行為ではないので、介入はしない」と補完している。
そのうえで家本氏は「個人的にはマスクなどもいいじゃんって思う」と私見を述べつつ、「ただ不要なものを使っての喜びが、今は『それってフットボールじゃないよね』っていう考え方がやっぱりFIFA(国際サッカー連盟)にはある」と世界的な流れも汲み取っていた。
イランFWフセインのパフォーマンスには警告が示された
アジアカップではほかにも、イラン代表のエースFWアイメン・フセインが芝を食べる仕草をして波紋を呼んだ。決勝トーナメント1回戦イラン対ヨルダン(1-3)の当該シーンでは、主審がフセインへイエローカードを提示。フセインはすでにこの試合1枚警告を受けていたため退場になった。
アジアサッカー連盟(AFC)は後日、この件について公式見解を公表。2枚目のイエローカードは「試合の再開を過度に遅らせた:遅延行為」として出されたことが明かされている。
家本氏にこの場面について尋ねると、「どうしてカード出しちゃったんだろうな」と疑問を述べた。
「実はあの試合、ヨルダンの選手のほうが得点を挙げて、キックオフまでの時間を長く使っているんだよね。その点で言うと、『整合性はどうなの』って突っ込んでいた人もいるだろうし、そういう話になってくる」
家本氏は試合全体を見つつこの件を冷静に分析。「それも主審の主観に左右される。そこ(主審の判断)が尊重されるっていうのが競技規則でうたわれている。でもほかのレフェリーも同じようにするかというと、個人的にはしないと思う」と、警告を出すのは少数派ではないかと指摘していた。
家本政明
いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。