森保Jの若武者・中村敬斗はなぜビジョンを描かない? 海外で研ぎ澄まされたメンタリティーの変化【インタビュー】
伊東と切磋琢磨する街ランスで直撃
日本代表MF中村敬斗はカタール・ドーハで行われているアジアカップ・グループリーグ第1戦ベトナム戦でチームを救うゴールを挙げた。現在A代表デビューから7戦6発中という驚異的な決定力を誇っている。このほどフランス・ランスで「FOOTBALL ZONE」のインタビュー取材に応じた。昨年にA代表へ初招集され、夏にはフランス1部スタッド・ランスに移籍。急成長を遂げる若武者の本質に迫る。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)
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パリから約40分、ランスの駅を出たら自然いっぱいの大きな公園が待ち受ける。街のシンボル、美しい彫刻の大聖堂には多くの人が集まり、テラス席ではそれぞれがランチを楽しんでいる。昨年夏、この綺麗な街へ1人の日本代表が新たな挑戦をするべく、覚悟を持ってやって来た。
「本当に毎日楽しいですね」
2018年、当時17歳の高校3年生で三菱養和SCユースからガンバ大阪に入団した。下部組織出身ではない選手の“飛び級”トップ昇格はクラブ史上初。入団当初からレヴィー・クルピ前監督に才能を見出され、途中出場で開幕デビューを果たすと、2018年3月14日のルヴァンカップ・グループリーグ第2節浦和レッズ戦では自陣から60メートル超の独走ドリブルでプロ初ゴールを決めるなど活躍した。そして、18歳で海外移籍を実現。オランダ、ベルギー、オーストリアを経ての5大リーグ、フランスでの挑戦だった。
「ランスに来て本当に毎日楽しくて、そうすると勝手に結果もついてきた。実は自分の中で考えの変化というのがすごくある。最初海外に挑戦してから自分が思い描いたものとはかけ離れていて。みんなよく『ビジョンを描く』というし、僕も最初はそう思っていた。でも、実際そのとおりに行かなかった時、どのようなメンタリティーでいるのか。もちろん、思いどおりに行けばベストだけど、そうではないことがほとんど。ならビジョンは描かなくてもいいんじゃないかと思う。これは向上心がなくなったのではなくて、今いるチーム、今いる場所で全力を尽くす。チームが勝つために頑張る。そのうえでシーズンが終わった時に何点取っていた、となればいいなと」
中村の言葉は、日本代表でも一貫していた。国際Aマッチデビューから現在7戦6発。アジアカップ・グリープリーグ第3戦インドネシア戦まで5戦連発で、毎回のように記録について聞かれていた。まだデビューから間もなく、本当なら重圧もあるはずだが、中村はそんな素振りを見せずに「記録は関係ないですよ、毎回ゴールを目指すだけです」と、言っていた。それは本心で、記録に縛られずに毎試合、ただただ勝利を求め続け、積み上げた。その結果が記録となっていた。
海外でプレーすることで磨かれた精神面。G大阪時代は17歳で1人縁もない大阪へやってきて、必死に毎日戦った。
「ガンバにいた頃は一生懸命で、グラウンド練習が終わって残って、1対1から始まり、苦手なヘディングとかひととおりやって。そこからジムで1時間ぐらい……楽しかったなと思う。青春だったな、と。そういうギラギラから自分に似合う『ギラギラ』を見つけられたのかもしれない。日本人相手だとニュアンスが伝わるけど、欧州でやっていくうちに上手く処理できるようになったのかも」
代表活動後にチームに帰ると「身体がキレている」
ランスに加入してからはチームメイトの伊東純也の影響が大きく、「サッカーIQがめちゃくちゃ高いんですよね。ドリブルのイメージ強いと思いますけど、速いし取られない。めちゃくちゃリスペクトしている。心強いし、距離感もいいんですよね。日本人同士だからってずっと2人で一緒にいるというわけでもない」と、その存在に助けられている。
日本代表に初招集されてからもうすぐ1年が経とうとしている。昨年11月には負傷もあったが、刺激的な日々は成長を促しているという。
「(遠藤)航くんや守田(英正)くんの守備を見て、実際肌で感じられて、頭じゃなくて身体がそのスピードを覚えている。自チームに帰っても身体がキレているんですよね。『行く!』という時に100%で取りに行くのも学んできていて。守備の戦術もちょっとずつ上がっている気がしている。ほかの代表選手に比べたらポジショニングもまだまだかもしれないけど、今この粗削りぐらいからどんどん吸収してレベルアップしていきたい」
G大阪時代の“ギラギラ”から経験を積んで、新たな“ギラギラ”、向上心へと変化させてきた。そして今アジアの大舞台で自分を表現するために日々懸命にボールを追っている。いよいよ決勝トーナメント。負けたら終わりの一発勝負で「いつもどおり」ゴールを求め続ける。
(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)