ソボスライ、中村敬斗ら“成功例”に続くか パリ五輪世代FW二田理央が描く欧州ステップアップの道「この環境に感謝」【現地発】

オーストリア2部ザンクト・ペルテンで研鑽を積むパリ五輪世代の20歳FW二田理央
オーストリア2部ザンクト・ペルテンで研鑽を積むパリ五輪世代の20歳FW二田理央

鳥栖から移籍の二田も体感、ハイインテンシティーが特徴的なオーストリアサッカー

 オーストリア2部ザンクト・ペルテンに所属する20歳FW二田理央は、2024年のパリ五輪出場を目指し、欧州で研鑽を積んでいる。23年7月にサガン鳥栖から完全移籍し、さらなる飛躍を期すストライカーは、欧州でのステップアップを思い描きながら、「キツい時期も絶対にあると思って、1人でオーストリアに来た」と思いを明かしている。(取材・文=中野吉之伴/全2回の1回目)

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 オーストリアサッカーはとにかくインテンシティー(プレー強度)の高さが特徴的だ。

 先日、ウィーンにドイツ代表を迎えた一戦で、オーストリア代表が見事なサッカーを披露し、2-0と快勝した。ラルフ・ラングニック監督がオーストリア代表チームを見事に掌握しているわけだが、その理由はラングニック自身の采配力や人心掌握力だけではなく、オーストリアサッカー全体で似たようなサッカーを志向して取り組んでいることも挙げられる。

 鋭いプレスの連続で臆することなく積極的にボール奪取を狙い、保持したら縦パスを起点にダイレクトパスの交換で相手を揺さぶり、効果的にサイドを活用してゴールを強襲する。「レッドブルスタイル」として有名なザルツブルクのハイインテンシティー&ハイスピードサッカーは、LASKリンツやシュトゥルム・グラーツといったクラブにも浸透しつつあり、ここ数シーズンはザルツブルクに負けず劣らずのクオリティーのサッカーで拮抗した戦いを披露している。

 そうした流れが1部リーグだけではなく、2部リーグでも見られるのがこの国の大きな特徴の1つと言えるし、他国の2部リーグと一番の大きな違いではないだろうか。

 先日取材したパリ五輪世代の20歳FW二田理央が所属するオーストリア2部ザンクト・ペルテンとホルンの試合がそうだった。上位につけるザンクト・ペルテンだけではなく、下位のホルンにしてもボールを安易に蹴り込まないのがとても印象的だ。矢印を合わせながら、素早く縦につなぐ。ミスも少なくないが、しっかりと狙いのあるサッカーをしようとしているのは好印象だ。

 そしてプレスが速く鋭い。上位につけるザンクト・ペルテン相手にホルンは守備ラインを下げてセンターの守りを相当厚くしていたが、だからといって自陣にこもって相手の攻撃を跳ね返すだけで良しとはしていなかった。いついかなる時もプレスに行ける状況を狙っている。

 こうしたインテンシティーの高さでプレーし続けるのは相当にタフなことだ。だからこそ、ここで違いを生み出せる選手へと成長することができたら、そこから大きなステップアップの道が開けてくる。

 二田もその点を強く感じていると明かしてくれた。

「将来のことを考えると、今ここで苦しい思いもしているのが、あとから楽になるんじゃないかなっていうふうに思います。やっぱり練習の強度も本当に毎日高いです」

成長できる環境に感謝する二田「とにかくやることをやって前に進むしかない」

 成功例は多い。今季リバプールで活躍するハンガリー代表MFドミニク・ソボスライ、バイエルン・ミュンヘンのフランス代表DFダヨ・ウパメカノ、ボルシア・ドルトムントのオーストリア代表MFマルセル・サビツァーもオーストリア2部の環境で育ってきた。

 フランス1部スタッド・ランスへ移籍を果たした日本代表MF中村敬斗も同じ環境で研鑽を積み、足を止めずに矢継ぎ早に来るプレスへの対策、相手の矢に対するいなし方、足を止めずにぶつかってくる相手への身体の使い方、そんななかでも振り向ける局面の作り方を身に付けた。

 そうした環境を求めて欧州中の世代別代表がオーストリア2部リーグに集まり、しのぎを削っている。そして二田は、そのなかで自身をアピールし、勝ち抜いていかなければならない。

「キツい時期も絶対にあると思って、1人でオーストリアに来ましたから。キツいことがないとは最初から思っていない。キツくて当たり前だっていうふうに思っていた。だからとにかくやることをやって前に進むしかない」

 上手くいかないことだってある。試合に出られない時期だってある。思いどおりに自分のプレーが出せないことや不安になることもあるだろう。だが、この環境が自分を間違いなく成長させてくれることだけは確かな真実なのだ。

「上手くいかない時も、やれることだけはやろうって。ハードワークして、走ることはいつだってできるし、守備をちゃんとやることもできる。やることはやって、できないところは練習して意識してやっている。この環境に本当感謝している。自分の成長につなげるだけです」

[プロフィール]
二田理央(にった・りお)/2003年4月10日生まれ、大分県出身。佐伯リベロFC―FC佐伯S-playMINAMI―鳥栖U-18―鳥栖―FCヴァッカー・インスブルックU-23(オーストリア)―ザンクト・ペルテン(オーストリア)。2021年に鳥栖のトップチームで2種登録され、同年6月の横浜FM戦でJリーグデビュー。同年7月、18歳でオーストリアのFCヴァッカー・インスブルックU-23(3部)へ期限付き移籍し、19試合21ゴールの活躍で得点王に輝いた。22年8月から同国2部ザンクト・ペルテンへ期限付き移籍し、リーグ戦14試合で2ゴールの結果を残した。23年7月に鳥栖からザンクト・ペルテンへの完全移籍が決まった。パリ五輪世代のエース候補としてさらなる成長に期待が集まる。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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